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(ⅩⅦ)母を救う為に

 驚くユリンに僕は心の中で久し振りの再会に感動するもなるべく平然とした表情で挨拶を交えるとユリンは僕の背中に背負っている母の姿に目が映るが、誰だか分かっていないのか剣幕な表情で僕の目を見据える。


「エイジ兄さん、誰ですか?その女は?」

 

 早いとこ説明しないと命の危険が及びそうだから早急に誤解を解かねば!


「お、落ち着いて!僕の背中に居るのは僕達を育ててくれた母なんだ!だから、とにかく落ち着いて欲しい!」


「えっ!?本当にお母さんなのですか!?私はてっきり、何処かから連れてきた女性とばかり……」


「馬鹿かお前は。エイジにはキチンと真っ当な付き合いをしているスノウが居るだろうが!そんな状況で女をつれ回すわけが無いだろう。全く」

 

 人を小馬鹿にした感じが気に障ったのかスノウは更に剣幕な表情でザインに迫る。


「あなたみたいな無神経かつ適当に生きている人に言われる筋合いは毛頭ありません!」


「この野郎。まさか俺に対してそこまで言うとは……覚悟は決まっているんだろうな?」

 

 喧嘩寸前のバチバチの一触即発の状態。これは何とか止めないと!


「ちょっと、ちょっと!ここで喧嘩は止めてくれ」


「けどよ!」


「君の目的はユリンと喧嘩する訳じゃないだろう。少しは冷静になってくれ」

 

 なるべく刺激を与えないように説得してザインを上手く落ち着かせる。次に僕はユリンに軽く注意をする。


「ユリン、君も頭に血が上りすぎだよ。あんまりザインに喧嘩口調で喋っちゃ駄目だ。後で取り返しのつかない事になってしまう」


「エイジ兄さんのおっしゃっる通りです。以後はなるべく自重するように心掛けます」

 

 なるべくというより、これからは止めて欲しい。この二人が喧嘩になってしまったら仲裁が出来なそうだから。


「しかし、エイジ兄さん。本当に母さんなのですか?私は確か、ミナトに死んだと聞かされましたが」

 

 母さんが死んだと聞いたのはミナト兄さんからの口から聞かされた。

 母を亡くしミナト兄さんと僕とユリンの三人家族でしばらく過ごしていた時から次第にユリンは着々と家庭の雑務をこなしていき、半年経つと既に立派な母の代わりとして家庭を難なく順調にこなしていたのでユリンの場合は母さんの死に対しては余り気にしていない様子だった。

 その代わりに僕にすがり付いてくるようになってきたのだけど……ちなみにユリンは一番上のミナト兄さんをミナトと呼び捨てにする。何故ならユリンはミナトが嫌いだからだ。

 もっとも何で嫌っているのかは現在も分かっていない。


「確かに僕も死んでいたと思っていた。けれど、この間イスカリアから母を取り戻す事に成功を収めたんだ!母さんの意識はまだ無いけど、きっと生きている!だから僕は精神系魔法を専門にしていらっしゃるトリビア・コンドル教授に意見を伺いにきたんだよ」


「母を取り戻す?けど母は昔私達が住んでいた家で死んでいたと聞かされましたが……」


「死んでいた母はイスカリアによって作り出されたフェイク。ミナト兄さんはなるべく連れ去れた母さんをイスカリアに殺されないようにする為、僕達に嘘をついていたんだ」


「私達に嘘。やっぱり最低ですね……ミナトは」

 

 違う、最低なんかじゃない。ミナト兄さんは一番苦しんでいたんだ。


「僕達よりも人一倍にもがいていたのは紛れもなくミナト兄さん。嘘をついていたのは僕達に恐怖、そして何よりも脅迫が悟られないように決めた苦渋の決断なんだ!ミナト兄さんは最低なんかじゃない!」 


「エイジ兄さん、落ち着いて下さい!私に非があったのは事実です。先ほどは少し……いいえ、かなり言い過ぎました」


「僕の方こそごめん。なんか頭に血が上りすぎちゃったみたいだね。これじゃあ人の事が言えないよ」


「エイジ、なにか深い事情があるにせよ今ではお前の母さんがこうして生きている可能性があるかもしれないんだ。悔やむのは後からでも遅くないんじゃねえか?」


「それもそうだね。ザインの言う通り今は母の事に専念するよ」


「落ち着いたかな?そろそろ先約を済ませなければならないので進めるよ」

 

 状況が落ち着いたと判断したトリビア教授はユリンに近づいてユリンが書き上げたレポートを貰おうとしていたが、当のユリンは首を横に振って拒否する。


「トリビア教授、まずは私の母の容態を見ていただけませんか?私の書き上げたレポートは日を改めてでも結構ですので」


「そうかい。君の書いてくれたレポートはどれも素晴らしい考察が書かれてあるから大変楽しみにしていたのだがね……そこまで言うなら、エイジ君の用事に専念しよう」

 

 トリビア教授と目があった瞬間、僕はコクりと頷き簡易なベッドに寝かせるとトリビア教授はてきぱきと母の容態を調べていく。この間何も手を下す事が出来ないので僕達はしばらくソファーに座る事にした。


「これで解決してくれりゃあ、いよいよ世界を揺るがす敵と対峙か……にしてもお前の母さんの名前はなんだ?さっきから聞きたかったが聞きそびれたから、今聞いとく」


「マリー・ブレインだよ」


「マリー……ねぇ。良い名前だし美人だしお前の母さんは最高だな。俺の母もあんだけ綺麗だったら、心が清らかな子に育っていたのによ」


「それで今は失敗してしまったと。哀れですね」


「うるさいなぁ。てめぇはどれだけ俺の心を折るつもりだ。さすがに泣くぞ」

 

 またしても喧嘩。というよりこれは痴話喧嘩に見えてくる。


「おい、エイジ。兄としてこの雪女になんか言ってやれよ。お前は皮を被りすぎだとな」


「ちょ!なんて事を言うのですか!エイジ兄さん、ザインの言う事は妄言です。私が皮を被るだなんて嘘も大概にして下さい」


「さっきまで落ち着いていたのに」

 

 明らかに呆れたような目線で僕に何とかしてくれと心の中で訴えるのは止めてくれ……もう、どうにでも出来そうじゃない。


「やれやれ、また喧嘩かい。本当に仲良しなんだね君達は」

 

 奥で治療が終わったのかどうかは定かでは無いけど、トリビア教授はザインとユリンの言い争いに苦笑しながら自分の席に座ると案の定、ザインは直ぐに否定し始める。


「冗談じゃない。誰がこんな奴と……」


「絶対にあり得ません。エイジ兄さんなら愛を超越している関係ですけど」


「いやそれは違うから!」

 

 否定はしておく。誤解されても困るから!


「たくっ、久しく会ってもブラコン発揮か。いつになったら直るんだよ」

 

 呆れて愚痴を呟くザインに対してユリンは沈黙もとい無視を徹底すると、ザインは苛つきながらもトリビア教授に対して話を切り出す。


「容態はどうでしたか?直るんなら、早急にやって頂きたいのですが」

 

 問いかけに対しトリビア教授は若干渋い表情を浮かべる。母さんの容態に何かあるのかな?


「正直、現段階では手の施しようがない」


「そんな!なんとか直らないのですか!」

 

 せっかく母を取り戻したのに、意識が取り戻せないなんて!僕には耐えられない!


「落ち着きたまえ、私は現段階ではと言ってる。つまりーー」


「直せる方法はあるって事なのか?」


「その通り。ただし材料を取る為にはある組織の場所に潜り込んで取りに行かなければならない」

 

 ある組織がなんだろうと僕は必ずし材料を取りに行く!母さんを救えるのなら、どんな障害だろうと!


「組織。もしかしてその組織は裕福な姫をかっさらう人身売買野郎達が集う……」


「アシュタロン。その組織はどうやら捕らえた女性を奴隷にしたりなどの非常に悪辣な集まりであり魔法さえこなす厄介な組織としてひそかに世間に広まりつつある。この間、ファングが壊滅したばっかりだというのに」

 

「けど、そんな所に行かないと駄目なのかよ?俺達は組織じゃなくてエイジの母さんの意識を取り戻す為に来ているだけなんだが」

 

 確かに、アシュタロンのやっている事は今すぐでも崩壊させなければならない。

 だけど僕には母さんを取り戻しイスカリアを倒すという一番の使命があるんだ。なるべくなら無闇な戦闘は避けたい。


「ここの麓にある山の洞窟の遥か奥に、母を助けるための調合用の花が置いてある。それを取りに帰ってくれたのなら調合薬を作成。後に君の母に飲ませて魔法の耐性つける。数時間置いたら、強力な魔法で眠りから解放する。これで、成功するとは断言できないが……」

 

 分かっているんだ。それで必ずしも母さんが助かるとは思っていない。けれど方法があるなら僕はなんとしても!


「やります!場所の詳細を教えてください!」


「その意気込みには感服だ。俺もエイジの為にやらせてもらう」


「私も、私もエイジ兄さん……母さんを取り戻す為に手伝いします!」

 

 ユリンまでいかせるのは駄目だ。妹を危険な目に遭わせるわけにはいかない。


「ユリン、君は留守番をしてくれ。僕とクレインそしてザインだけでも調合薬を探しだす」


「エイジ兄さん」


「そんな顔をしないでくれ。また会えるからさ」


「ううっ」

 

 僕と離れるのがよっぽど嫌なのか、スノウはうるうるした瞳で僕にすがり付く。


「おいおい……」


「やっぱり行きます。どんなにエイジ兄さんに頑固だ馬鹿だと罵られようとも!」

 

 こういう時のユリンは小さい頃もそうだったけど、中々意見を変えてくれないんだよね。


「仕方ない。けど僕がユリンを必ずしも助けれるとは限らないから自分の命は最優先で守るんだ!良いね?」

 

 僕の決まりにユリンは躊躇う姿も無く、頷く。本当はユリンまで連れていきたくは無かったのだけれどあんな表情で見つめられたら無碍に出来ない。


「さて、あそこの麓に向かうメンバーが決まったようだね。君達の無事を祈るよ。決して無理はしないでくれ」

 

 場所はこの魔法学園から少し離れた場所にある山で緑豊かな樹木と頂上の麓まで登れば壮大な景色が一望できると言われているらしい。

 けれど最近では山の中間地点にある洞窟で悪い噂が後を絶たないアシュタロンがその身を潜めている。

 僕はその洞窟でアシュタロンの攻防を切り抜けて必ずし調合するための薬を手に入れるんだ!


「では、これが君達に摘んでもらう花だ。洞窟の奥に咲いている筈だから、なるべく形を崩さずに持ちかえってくれ」


「あいよ、任された。それじゃあ行くぞ」


「よし、皆……行くよ!」

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