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(ⅩⅥ)一年ぶりの再会

「交渉成立。後でたんまりと貰うから覚悟しとけよ」


「ははっ、なるべくなら安くつけといてくれると助かるよ」


「何割かは省いてやるよ。それよりも」

 

 目線はソファーで目を閉じたまま意識を取り戻さない母に合わせる。やっぱりザインにとっては一番の気掛かりになっているみたいだ。


「いつまで寝てるだ?この美人な人は……てか、もしかしてお前の」


「母だよ。今のところ、意識は一向に戻る兆しをみせていない。一体どうしたら戻るのだろう」

 

 イスカリアによって眠らされたのなら、何らかの小細工を仕掛けている可能性が充分に考えられる。

 今現在は意識を取り戻さないだけで特にこれといった症状は起きていないけどこのまま放置という訳にはいかない。


「手足に熱がこもっていない、それに肝心の脈が伝わってこない。どう考えても死んでいるとしか考えられないが……」


「古くに使われていたとされる魔術によって、意識諸々奪われているのかもしれない。あくまでも、これは自分が考えた事だけど」

 

 あるいは僕は否定したいのかもしれない。せっかく、死んでいたと思っていた母さんが綺麗な状態で生きていたから。


「魔術ときやがったか。確か魔術は魔法よりも古くに一部の特別な者だけが使用されたとある本に記載されていたが……もし仮にお前の言う事を真に受け止めるとなると早急に対処しないと駄目だな。いつまでも永遠に寝てもらっても困るし」

 

 目覚めさせる方法が判明しなければ下手に手を出す事が出来ない。誰かこの手に詳しい魔法使いが居れば話が変わるんだけど


「何か解決策は無いかな?」


「この手に詳しい人となると、俺のビジネス面でたまに世話になっている闇医者が居るが……それでも良いなら紹介するぜ」

 

 闇医者か。その人に見てもらうのが一番手っ取り早いのかもしれないけど、一回も会った事の無い人を簡単には信用できない。ザインの知り合いだから、下手なことはしないと思うけとま……


「その表情から察した。方法を変えよう」


「ごめん」


「だから謝んなよ。確かに考えてみればお前の母を見ず知らずの信用に足りない変態おじさんに身を委ねるのはおかしいと思うから、その判断は結果的に正しい」


「えっ?変態おじーー」

 

 今、変態って言ってたよね?それじゃあ益々僕の母の治療を任せられないよ。


「あっ、滑った。今のは無しだ。さっさと忘れてくれ」


「いやいや無理だって!そんな聞き捨てならない言葉を忘れられないよ!」


「はぁ~とにかく!方法を変更する!お前が安心して母の救命が出来そうな場所をな!」

 

 僕の追及から逃れるようにパソコンの面に向かって、ひたすら情報を調べていく。

 その間に爆発音が鳴り響いていたのでとても落ち着いていられる状況では無かったけれどしばらくの時が過ぎ去ると、ザインは僕を呼びつける。


「エイジ、良い情報が釣れた。こっちに来い」

 

 ザインが調べてくれたデスクトップの画面上を僕とクレインで覗き込むような形で確認すると、そこには精神系魔法使いトリビア教授の詳しいプロフィールなどが掲載されている。

 果たしてザインは何の為に見せたのだろう?何を伝えているのか分からずに疑問符を浮かべる僕にザインは呆れている。


「精神系魔法を専門としているなら、お前の母さんの症状解決の道のりが拓かれるかもしれないと言うのに。何故にお前はそんな疑問を浮かべた表情をしているんだよ」


「いや、さすがに学校か何かの教官だったからびっくりしちゃっただけだよ。本当にそれだけだから気にしなくて良いよ」


「そうかい。じゃあ話を戻すぞ」

 

 若干苦し紛れに言い逃れをする僕に対してザインは怪しみながらも話の本題へと切り替えていく。

 今回は母の身柄を極力守ってトリビア教官に容態を見てもらって治療していくとザインは大まかな説明と共に自室の角に置いてあるホワイトボードに分かりやすくデカデカとした文字で書いていくと再びデスクトップの画面に登録してあるトリビア教授のプロフィールを調べていく。


「決まりだ。この人にお前の母さんの容態を調べてもらう。一応他にも医療機関に調べてもらう方法があるが」

 

 本来なら医療機関に調べてもらうのが最善の選択と言える。けれど母さんはイスカリアから魔術の施しを受けている可能性が高いので通常では治療出来ないかもしれない。

 そうなると、ここは精神系の専門職として研究しているトリビア教官から教わる方がかえって都合が良い。


「いや、この方法でいこう。いつまでも留まっていたら……危険だ」


「確かにな。さっきから人の悲鳴とか声を荒げている連中が居るし早いところずらかった方が良いな。よし、付いてこい!ここから逃げるぞ」

 

 母を抱き抱えて向かった先は一階の玄関より離れたガレージの車。僕達はその車に乗り込み母を後部座席の運転席に乗せる。

 しばらくするとザインが運転席に座りリモコンのような小型の機械のスイッチを押すとガクンという音と共に地下へと下っていく。この間もこういう経験を味わったけど……何でこんなに秘密基地みたいな構造になっているのだろうか?


「いつも不思議ですね。ここは何だか秘密基地みたいです」

 

 クレインは僕が思っていた事をさらりと喋るとザインは眉毛をピクリと動かす。


「あぁ、なんでも前の人が秘密基地好きらしくてさ。その影響かガレージに関してはエライ事になっているが表は車が通れるほどの車幅なんて無かったから、ちょうど良かったぜ」

 

 地下へと降りると、正面のシャッターが開くと同時に車は目的地へと走っていく。

 今回はトリビア教官に会うことが使命。ちなみに場所はジェネシス王国を抜けた先にあるシャウト王国。

 この場所は最先端の魔法並びに古くから伝わりし魔術を研究している者達が集うシャウト魔法学園が存在する。

 ここでは、確か一年前に魔法をより深く学ぼうと妹のユリンが通っている筈だけど……元気にしているのだろうか?


「到着。さっさと降りるぞ」

 

 車の乗り心地が良かったから随分と寝込んでしまったようだ。

僕は小さな欠伸を口で隠してから母を再び背負って、後部座席の扉を開けるとそこには辺り一体どこまでもあるシャウト魔法学園が情景に映る。


「す、凄い」


「随分と立派だなぁ。しかも広さはジェネシス学園の数倍。何もかも俺が居た学園より秀でている訳だ」


「そうとも限らないんじゃないかな?僕達が居た学園では優秀な者が沢山存在していたし」

 

 ジェネシス学園は魔法や魔術を研究する程には熱心で無いが、武力や知識に秀でている者が数多く排出されているので別に何もかも劣っているという事では無いけど。

 何で僕は意地を張っているのだろう?


「そうか?まぁ、お前が言うならそういう事にしておいてやる。じゃあ、そろそろ会いに行くぜ!」


「行こう」

 

 いよいよを持って僕達はシャウト魔法学園の入り口に足を踏み入れると一部の者は僕達をチラチラと見ている。何か……気まずい。


「いやぁ、照れるぜ。そんなにチラチラと見てくるとさぁ!」

 

 ザインの一声で先ほどまでチラチラとこちらを目で見ていた生徒達は一斉に散らばるとザインはやれやれとした表情で受付らしき部屋へと入って端的な用件を述べていく。


「俺達はどうしてもトリビア・コンドル教授にお会いしたいのです。部外者ではありますが、何とか都合をつけられないでしょうか?」

 

 珍しく慣れない敬語を使って述べていくザインにアポが取れていないので不可能ですとお断りする受付。どうしようか……これじゃあ、話が出来ない。


「そこを何とか、何とかお願いします!」


「駄目です。これ以上は迷惑となりますのでどうかお引き取り下さい」


「うぐっ!くそったれが……このままじゃあ、お眼鏡にも叶わないぞ」

 

 さて、どうしようか。今回は無理だということで諦めて後日に再び伺う?いや駄目だ!

 着々と世界を破壊せんとするイスカリアを一日でも放置する訳にはいかない!ここでは何としても精神系に詳しいトリビア教授から話を伺わねえばならないのに!


「おやおや、騒がしいね。何か揉め事でも起きているのかな?」


「コンドル教授!?」

 

 この人がトリビア・コンドル教授なのか。

 見た目は薄い黄色の髪形を後ろに一括りにしていて顎の部分に髭が少々伸びている。


「まさか、そっちから来ていただけるとは……光栄ですよ」


「あれだけ騒がしければ、無視する訳にもいかないよ。ここは部外者でも入れる学園だが、君のような騒々しい子は一般的には大変珍しいが」


「ぐっ!確かに貴方の言う通りだ。少々お見苦しい姿を見せてしまい申し訳ありません」

 

 唇を噛み締め、その場で謝罪をするザインの姿にトリビア教授は気にしていないようだ。


「それで、君達は何の為に来ているのかな?事と次第によっては追放させてもらうが」

 

 ザインに話させると色々と問題が起きそうだから、ここは僕の口から説明しよう。


「僕の母の容態を詳しく調べていただきたいのです。精神系魔法を熱心に研究していらっしゃるトリビア・コンドル教授に」


「ほう、そういうのは然るべき医療機関に委ねるのが一般的なのだがね。君の背中にすがっている母君は私の助言が無ければならないのか?」


「そうです」


「ふむ……大変興味深いな。ただ先約が入っているので、そちらの用事が済めば早急に取り掛かるがそれでも良いかな?」


「大丈夫です!ありがとうございます!」


「やるな、エイジ……これから交渉役はお前に任せるぜ。俺には向いていないみたいだし」

 

 肩をガクンと落として項垂れているザインにトリビア教授は優しく諭すとザインは少々元気を取り戻す。その姿にほっとした表情なったトリビア教授は自室に案内する。


「さて、私の部屋へ行こうか。先約をいつまでも待たせるわけにはいかないからね」


「はい」

 

 案内する最中にトリビア教授は部屋の説明を始める。話に聞くとどうやらシャウト魔法学園に在中している教授は40人程。

 その中で1人であるトリビア・コンドル教授の部屋は三階にあって部屋の隅っこに自室があるとの事。


「そういえば君達の名前を聞いていなかったね」


「俺はザイン・ヴァール。色々と縁があってエイジに付いてきています」


「私は召還獣のクレイン。エイジの剣です」

 

 途中まで階段をテクテクと上っていたけど剣という言葉に足を止めるトリビア教授はクレインに質問に投げ掛ける。


「これまた興味が湧いてくる事を言ってくれるじゃないか。本当に君は剣の形になるのか?」


「今すぐでも出来ます。エイジと手を繋ぐだけで」

 

 手を差しのべてくるクレインに僕は証明する為に手を繋ぐとクレインは紅の剣へと形を変えていく。

 その変化していく光景にトリビア教授は興味津々である。


「素晴らしい。まさか人型の召還獣で剣に変貌するとは……それで君の名前は?」


「自分はエイジ・ブレインと申すものです。短い間ですが宜しくお願いします」


「ほうほう。なるほど……道理で物腰が柔らかいのか」

 

 奇妙な発言をするトリビア教授に疑問を持った僕は追及してみようと試みるが、すでに部屋に到着していたのでこれ以上追及するのは止めた。


「さて、到着だ」

 

 トリビア教授はその場で二回ノックして扉を開けると、そこには沢山の分厚い本が棚にびっしりと並んでいる光景があった。

 しかも結構な広さがあるから、教授の部屋としてはかなり立派である。その部屋の隅っこの豪華なソファーに見知った青色の髪の女の子が座っている事に僕は口に出して驚くと女の子はビクリと振り向く。


「エイジ兄さん!?いつからここに来られたのですか!?」


「やぁ……久し振りだね。元気そうで何よりだよ」

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