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(ⅩⅡ)もう逃れられない。後戻りも出来ない。

「時は満ちた。今こそ、我等の畏怖を示す」

 

 場所はクロノス聖団地下の集会場。ここでは大勢の騎士の訓練や話の場としても重宝される大変便利な場所と有効活用されている。だが、今居るのはクロノス聖団に勤めている騎士ではなく場に不似合いな人物が複数人くつろいでいる。


「遂に動くか。この為にどれ程耐え難い世を共にしたか……もはや数えきれん」

 

 拳を握りしめ、動き出す計画に期待を膨らます薄い青髪を肩まで伸ばしている銀色の瞳をした人物は微笑むを隠せない。そんな姿を間近で見ていたイスカリアは静かに笑う。


「ユダヤよ、長く待たせたな。これからは人間の醜い戦乱が拝める。我等はそれを遠巻きで愛でるのだ!ふははっ」


「あんたら、少し静かにしてくれんか?術式の妨げになるから」

 

 いつもなら茶色のコートを着飾っているカーネルだったが、今日は十字架の線が入っている白服を着ている。

 この服を身に纏ったのはこれまでの人生の切り返しをする為。今の彼はイスカリアと共に使徒として歩んでいたヨハンになっている。


「ヨハンの言う通り。ここは静かにするのが得策かと思われます」

 

 ヨハンの言葉に同調する髪の色素が抜けきった整えられていない真っ白な髪に狐のような目付きをしている男性は儀式が始まるまでの間、長らく両目を閉じていたが横槍を入れた。イスカリアはその場で陳謝し、あとどれくらいで完成するのかを術式を唱えている真っ最中であるヨハンに問いただす。


「良かろう。だが、いつ頃に術式が完成する?我等の首はそこまで待てないぞ」


「あともう少し時間を要します。しかし、数時間も掛からないでしょうよ」


「そうか、なら腰を据えてゆっくりと、時を待つとしよう」


「そうしてくれると大いに助かります」

 

 術式は複雑な模様では無く簡素な模様として辺り一体広がっている。現在ヨハンは術式が見えないように地面に埋め込む作業を行っているが数分間の時が過ぎ去ると、さっきまで地面に描かれていた模様は嘘のように消え去ると黙って傍観していた大柄な男性が口を開く。


「我の時代……降臨」


「よくやった、ヨハン。これで愚かしき人類に正当なる裁きを下す。この出来事が我々使徒の始まりの一歩となるだろう」


「お褒めに預かり光栄です」


「いつ始める?私は今すぐにでも実行に移すべきだと考えている」


「そうだな……ユダヤの言う通り今からでも始める。ヨハン、何か理由をつけてこの場所に誘き出せ。我々の復讐を実行に移す!」


「了解、やるならさっさと終わらせた方がこちらとしても清々しく捨てれるからな」

 

 作戦開始は午前10時ジャスト。ヨハンは作戦実行に快く承諾するも、どこか捨てきれない表情を浮かべた。

※※※※

「それにしても、さっきの朝食かなり美味しかったね。一般市民の僕があんなご馳走頂いて良かったのかな?」


「遠慮する事無いよ。エイジは私を助けるために必死になって来てくれたんだから……」

 

 思えば、僕とスノウが無事に帰って来てから随分と丁重に扱われた気がする。特に僕には何故かマリア姫にヒーローと呼ばれる始末だし。


「そうかな?僕としては当然の事をしたまでなんだけど。でも、そこまで言われたらありがたく受け取っておくよ」

 

 またザインに会えたら、今度ばかりはお礼と未だに払っていない依頼料を払わないと。当人のザインは結構だとか言っていたけど、このまま貸しを作るのは何だか気まずいから。


「そうして下さい。ところでエイジ……ようやく落ち着ける状況になったんだし、しばらくはここに泊まるの?」

 

 かれこれ一週間。僕はカーネル大佐からの出勤指令を受けていないので、この城から少し離れたホテルでお泊まり生活をしている。といっても余り高くない場所に泊まっているから部屋は多少狭い。

 勿論、クレインは立派な女の子なのでスノウの元に預けている。本人は凄く一緒に居たかったみたいだけど……それはさすがに男としては止めるべき事案なので、必死にお願いして止めさせた。

 ともあれ、このままずっとのんびりするのもカーネル大佐に申し訳ないから、早いとこ僕達に出動命令を出して欲しい。


「どうしようかな?僕としてはそろそろクロノス聖団に顔を出したいけど、命令が出ていない状況では出勤出来ないし。うーん」


「出勤命令が出ていないなら良いんじゃないかな」

 

 確かにスノウの言う通りだ。もう、ここまで大佐からの連絡が無いなら待機した方が良い。今のままならスノウと一緒に居られるし。そうと決まったなら……まずは!


「エイジ、電話鳴ってるけど出ないの?」


「えっ」

 

 スノウの呼び掛けに慌てて、ズボンのポケットからタブレットを取り出すと案の定連絡の音沙汰が無かったカーネル大佐という文字。これは出ないわけにはいかない。


「お疲れ様です」


「お疲れさん。ちょっと時間は大丈夫かな?すぐに終わるから」

 

 特に断る理由が無いので承諾すると、カーネル大佐は早々に要件を述べていく。


「悪いけど至急、本部の最近新しく完成した地下に来て欲しいんだ。そこで重要な話がある」

 

 重要な話。となると今すぐそちらに向かった方が良い。またスノウと別れるのは非常に名残惜しいんだけど。


「分かりました。ただ、ここからだと約2、3時間は掛かりそうなのですが……大丈夫ですか?」


「気にしないでくれ、君が来るまでは気長に待っているから。ゆっくりと気をつけて来てくれたら良い。それじゃあ」

 

 カーネル大佐から自動的に電話を切られたので僕はタブレットを直してから、スノウに事情を説明すると嫌な表情を浮かべる事も無く快く受け入れる。


「また、エイジとお別れ。けれど絶対に会えるから」


「うん。状況が落ち着いたら、連絡を入れるよ」

 

 白く雪のようなふわふわとした真っ白なストレートな髪を撫でておでこに口づけを交わすと、スノウの頬は赤く染め上がる。

 僕は内心このまま時が止まればなどと若干図々しい考えを持ってしまうけど、すぐに脳内から切り離して名残惜しい所だけどスノウとは別れて門の前でクレインの名前を呼ぶ。すると、何処からともなく瞬時に姿を現した。


「準備は出来ましたか?」


「勿論、さぁ急ぎで行くよ。カーネル大佐が待っているんだ」


「分かりました」

 

 ここからはなるべく急ぎ足で本部に戻っていく。戻っている間は余裕が余り無かったけれど、目的地に到着した頃には余裕が出来たので僕は軽く本部を見上げて久しぶりにクロノス聖団意外進入禁止とされている中に入っていく……が、玄関先には誰もいないという状況。


「ど、どうなっているの」

 

 これが普通なら、かなり良くない事態になっている。普段なら玄関先は見張りが何名か在中している筈なのに。


「エイジ、どうかしたのですか??」

 

 クレインが僕の事を心配している表情で伺っている。ここら安心させた方が良い。


「いや、何でもないよ」

 

 カーネル大佐からの場所指定を受けていたので、僕達二人はついこの間新しく建築された地下への階段を下って入り口の扉を両手で開くと異様な光景が目に浮かぶ。


「これは」

 

 そこには一寸乱れもなく直立している大勢のクロノス聖団に所属している騎士が動きを見せること無く立っている。そして奥の壇上には電話を頂いたカーネル大佐が青ざめた表情で僕を見て、空元気な感じで軽く手を振る。


「や、やぁ久しぶりだねぇ~。元気そうで何より」


「カーネル大佐……」


「どうかしたかい?」

 

 場内の空気が重い。こんな事はかつて無かった。やはり何かが確実におかしい!


「どうしてそんなに空元気なのですか?普段のカーネル大佐はいつもどんな時も平常心がありました」


「気のせいかもしれないぞ?たまには気分が優れない時だってあるかもしれない……って、もう取り繕う意味は無いか。ははっ」

 

 カーネル大佐から乾いた笑いが出たのと同時に先程まで直立不動だった騎士が僕の回りを囲み、一斉に刃を向けられる。


「なっ!」

 

 どうして……何で、僕に矛先を向けているんだ!


「エイジ・ブレイン、大人しくしていろ。そうすれば最小限の痛みで終わる」


「どういう事ですか?」


「君が抵抗すれば、人間同士の戦争が始まる。逆に抵抗しなければ数分も経たない内に世界は生まれ変わるだろう」

 

 カーネル大佐の言葉だとは思えない言葉が僕の脳内に刻まれていく。


「何が起きたのか、全く分からない表情としてるね。でも仕方無いよな……君はカーネルとしての記憶の方が強いから」


「カーネル大佐、あなたは」

 

 僕の一声でカーネル大佐は茶色のコートを捨て去ると、一度は見たことのある十字架の白いロングコート。あ、ああ……嘘だろ?


「俺の真の名はヨハン。今まで君の成長を陰ながらにこそこそと見守っていた君の憎き使徒だよ」


「そんな……こんな事って!」


「事実から逃れられない。さて、そろそろ終わりにしよう。君の身体に宿しているルナを寄越せ。そうすれば我々の計画はスムーズに終わりを告げる」

 

 駄目だ。それだけは絶対にやってはいけない!今ここで言う事を聞けば……


「だが間違ってもお前の命は差し出すな!お前が渡れば、それは世界の終焉だ!絶対に命を差し出すな!良いな?」

 

 最後に僕に語った兄さんの言葉。もし、僕の身体の中に宿るルナを引き渡せば世界の終わりを迎える事になる。


「どうした?俺の命令が……聞けないのか?」

 

 正面で僕の瞳をじっと見ている人はもう、カーネル大佐ではない!今はこの状況から何としてでも逃げなければ!


「クレイン、力を貸してくれ」

 

 紅の剣をすかさず手に持つや否やブレイズ・サークルで周辺を広範囲で燃やし尽くす。

 この攻撃により幾人かの人が倒れてしまったけれど、こんな状況では気にやむ時間すら無い。とにかくこの場から撤退する!


「逃げても無駄だよ。俺達を倒さない限り君に逃げ場は一生無いと思え」

 

 カーネル大佐……いや、今からヨハンとなってしまった人物に耳を傾ける事無く、全力走りで本部から抜け出しどこか落ち着ける場所まで走っていく。道中僕の走った姿に人々は何だ何だ?と不思議そうな目で見つめていたけど……


「はぁはぁ、はぁはぁ」


(エイジ、あそこの路地で休息を取ってください。このままだと倒れてしまいます)


「そうか、なら……そうしよう」

 

 倒れてしまえば元も子もない。ここはクレインの言う通りに従おう。まずは一時期な休息を取って、落ち着ける場所に到着したら冷静に今後の事に対処しないと。

 とりあえずはこの狭い路地なら見つからないと思うからしばらく……


「はぁ、何でこんな事が。今でも信じられない。まさかカーネル大佐がーー」


「ヨハンという偽りの名前を使っていたなんて酷く残酷な運命に巡りあってしまったね。エイジ・ブレイン」

 

 イスカリア。遂に一年の時を経て、僕を潰しに来たのか?


「僕の手でやらなければならない。母さんと……そしてあなたに利用されてしまった兄さんの為にも!うぉぉぉ!」

 

 一粒の雨がポタリと地面に落ちるのと同時に僕の矛先は全ての元凶であるイスカリアへと向かっていく。


        実力の差も知らないで…… 

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