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(Ⅹ)突撃あるのみ

「話の詳細は把握した。つまりはユニバース城で本来、姉であるマリアが捕まらなければならかったのにマリアが抵抗したお陰でその場に居合わせていたスノウ・ローゼンが捕らえられてしまったと……なんつうかお悔やみ申し上げますと言いたい気分だな」


「どういう事なのかな?」

 

 聞き返す僕に半笑いで笑いつつ後ろの棚に置いてある自動湯沸し器で何かの液体を二人のカップに注いだザインは熱々の二つのカップを落ち着いて並べると結論を述べていく。


「正直に言うと、協力はしたくない。どう考えても、無駄なあがきだからだ。何でだって表情を浮かべているが、たったの三人で大勢の軍隊に立ち向かうアホは居ないからだ。考えなくとも分かるさ」

 

 確かに言われてみれば、僕達三人……いや。実質二人で立ち向かうのは無謀かもしれない。だからと言って諦めるわけには。


「普通なら、お前さんが勤めているクロノス聖団に頼ってボコボコに締め上げるのがベターだが……こんな場所に来たという事は脅されたんだろう?クロノスに通報したりすれば人質を殺すと」


「鋭いね。けれど相手の目的は恐らくスノウを何者かと取引する事だから早々簡単に殺すとは思えない……だけど」

 

 その脅しを平気で逆らってしまえばどうなるか分からない。だから、正規の方法で実行出来ない。


「言葉というのは厄介だからな。なまじお前みたいな正直者は真に受け止めてしまう」


「どうすれば良いんだろう。もう、こうなったら僕とクレインだけでも救出に向かってーー」


「エイジ、何もかも一人で考え込むなよ。俺は何もお断りとは一言も告げてないぜ」


「では、協力してくれるのですか」

 

 クレインの一言で首を縦に動かすザインは自分の机の引き出しから何枚かの書類とペンを取り出すと、僕が座らせてもらっている机に置いて


「形式的になるが依頼状を書いておいてくれ。報酬額は……以前学園で過ごしてきた仲だから特別に割安でやってやる」


「本当に手伝ってくれるの!?」


「やるからには手加減無しでやるぞ。何せ一人のクラスメイトが最大の危機に陥っているからな!」

 

 ありがたい事にザインは快く、この無茶な作戦に協力してくれた。ひとしきりに感謝の意を伝えて何枚かの書類をペンで埋めるとザインは部屋の隅に置いてあるホワイトボードを僕達に見えるように引っ張り出して作戦会議を始めていく。


「早速だが、作戦を練るぞ。クラスメイトが捕まって尚且つ取引されるという事は寝ている時間も無さそうだからな」


「そうだね。とにかく今日中にはスノウを取り戻さないと!」


「その通りだ。だが、エイジ。肝心の情報が未だに分かっていない」

 

 肝心の情報……そういえば、僕はまだスノウが捕まっている場所を知らないまま。これじゃあ、助けに行きたくても助けに行けない!


「スノウ・ローゼンの居場所。この重要な居場所そして敵の配置等判明しなければ、失敗する確率はうなぎ登りに上昇する。まぁ、居場所さえ判明すれば助けれる可能性を上がるんだが」


「しかし、エイジも私もスノウがどこに連れ去られたのかを知りません」


「ははっ、このまま手を駒根いておくか?せっかく俺に依頼状を出したというのに……随分と金が余ってるんだな」


「けれどザインなら、分かるんだよね?スノウの居場所が」

 

 額の眉をピクリと動かしたザインはやれやれとした表情で自分の机に置いてある事務用の受話器から電話番号を幾つか指で当てていき右耳で押さえる。一体誰に繋いだのだろうか?


「あぁ、もしもし。俺だよ俺だよ。実はな、ちょっと情報が欲しいから電話したんだ。時間は大丈夫か?」

 

 時間の確認が取れたのだろうか。ザインは口々に僕が困っている事をペラペラと喋って、相手側の話を聞き終わると一言礼を告げてから受話器を親機に戻す。何か分かったのだろうか……表情に笑いがある。


「エイジ……まだ諦めるには早いようだ。俺達だけでも救出に向かえるぞ!」


「それは本当かい!」

 

 ザインはすぐに立ち上がり、マジックインキを使ってホワイトボードを書きなぐる形で文字をつらつらと書いていく。文字はマーシャル海岸と書いてある。


「奴等が居る居場所だ。取引という関連で、もしかしたらと思って仕事でつるむ知り合いに怪しい船が無いか尋ねたらビンゴ。この場所には30人のアシュタロンが居るという情報が手に入った。もしかしたらここにお目当ての人質が居るかもな」


「凄い。もう判明するなんて」


「褒めるのは後にしてくれ。早くしないと海岸の向こう側に居る敵に売り渡されてしまう。そうなると助けにいくのが絶望的になる」

 

 なら、今からでも行かなければならない!こうして、居場所の情報が入ったのなら。


「その顔はもう行きたくてウズウズしているんだな。良いぜ!久々に二人で大暴れしてやろうや!30人程度ならどうにかなるしな!」


「突撃あるのみだ!」

 

 マーシャル海岸はおおよそ、ここから出発しても数時間は掛かるから行くなら行くで早くいかないと間に合わない。だからウズウジと暇は無いんだ。


「待っててくれ、スノウ!今から助けに向かうから」


「俺の自家用車でもざっくり一時間以上は掛かるから、準備は念頭にしとけよ」

 

 ポケットから車の鍵を取り出すと一階のガレージまで早足で向かってから車の電源を素早く入れると同時に乗れという合図を目で送られたので、僕達二人は急いで後部座席に乗車するとガクンという音と共に降下していく。


「ここからは、スピードを早めるからシートベルトはしっかりと頼むぜ。怪我しても責任は取れない」


「よし、行こう」


「出発だ」

 

 アクセルは全快。車は猛スピードで道なりへと進む。アシュタロンに挑むには戦力不足だけど、スノウを助けるだけなら出来る筈!だから、今は……


「無事でいてくれ」

※※※※

「リーダー、もう間もなく取引先の相手が来航してくるそうです」


「ご苦労。ふははっ、これでまた我々の資金が増えるな」

 

 ガウェインの側近は紐でぐるぐると両手に巻き付けて柱で固定しているスノウに近づき、食料を与えるもスノウはこれを断固として拒絶する。


「要りません。それよりも、速やかに解放して下さい。事態が大きくなる前に」


「リーダー、いかがなさいますか?」


「ふんっ、いつまでその強気を保っていられるか……見物だな」

 

 監禁室内で偉そうな態度で椅子に座っていたガウェインはスノウの発する言葉に反応すると、スノウの首を上に上げてニヤニヤとした表情で見つめる。だがスノウはそんな状況下でも怯える事も無く声を荒げる。


「私を軍資金として使う理由は何なのですか!?こんな事をしても虚しいだけです!」


「ボスは戦力強化と娯楽と言ってた。ただそれだけだ」


「……」


「じっと大人しくしていれば、特に危害を与えるつもりは無い。だから今は俺達の指示に黙って従え」

 

 重い無言が空間をしばらく支配していくが、大きな爆音が船をグラグラと揺らしていく。


「何だ!?襲撃か!」

 

 この明らかな異常事態にすかさず襲撃と判断したガウェインは胸ポケットに潜ませている無線機を取り出し、周辺の隊員に連絡を取る。


「何があったか、詳細を伝えろ」


「船のモーター部分が大損害!現在襲撃してきたと思われる人物と交戦中!」

 

 ノイズが酷い連絡に聞き入るガウェインに側近は顔を曇らせる。スノウはその隙に紐を柱で擦っていく。


「俺達の居場所が悟られたのか。襲撃犯は何名だ!」


「襲撃犯は……うわぁ!」


「ちっ、ここは放棄だな。急いで白姫を連れて速やかに切り上げるぞ!」


「おいおい……今のあんたはもうゲームオーバー寸前なんだから諦めて、人質を置いていけよ」

 

 無線から聞こえてくる久しい声にスノウの耳がピクリと動く。その人物は気性が荒く、どこか適当な性格をしている男。


「お前は……誰だ?」


「何でも屋のザイン・ヴァール。見知りの依頼主に無茶を言われて仕方無く、引き受けた名だ!どんな依頼も失敗させるつもりは無いから宜しく!」


「貴様……」


「あと、もう間もなくそこに向かっている依頼主にも宜しく!」

 

 無線を切り上げるザインと同時に扉は大きく蹴りあげる音と同時に紅の剣を左手に携えた青年が姿を現す。側近はすぐさま立ち向かうが呆気なく倒れ伏す。そんな状況下に置いてもガウェイン溜め息よりも苦笑いの表情になる。まさか自分がここまで追い詰められるとは思ってもみなかったからだ。


「覚悟は出来てますね?」


「悪いが、ボスの為にも簡単には死ねないんだ。手加減無しで命のやり取りを教えてやる!」

 

 ガウェインは何もない空間から無数の槍を宙に浮かべて戦闘体制に入った。エイジは大きく息を吸い込んだ後に


「ガウェイン、覚悟しろ!」


「覚悟するのは貴様だ!白姫をたったの二人で救いにいく愚か者がぁぁぁ!」

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