冒険
母が東京に旅立った日の夜、サミュエルから電話が入った。
「タクミ… オレ、ロスを離れるよ…」
僕は血相を変えてダウンタウンに走った。
「親父と大喧嘩しちまった… 殴ってきたんで、こっちも殴り返してやったんだ。もう最後には“出てけっ”て言いやがるもんだから“出てってやる”って。‥飛び出してきちまったんだ…」
公園の入り口でサミュエルはぼんやりと塀に腰をかけていた。
「サミュエル!」
よかった!居た!
「タクミ…」
切れた口元を引きつらせて微笑んだサミュエルは、悲しいほどに美しかった。
「(顔以外)どっか打ってない?」
「ああ…オレはクロオビだから(笑) 本気でやりあったら親父なんて簡単だよ。最初は殴られてやってたんだけど‥」
アンバランス… 15歳の白人の少年は体格は大人よりも強かった。だが社会的には全く非力だった。
「僕の家においでよ」
「いや」
電話で最初に聞いた言葉を思い出して僕は恐怖を感じた。『ロスを離れる』サミュエルはそう言った。
「どこに行くの」
震える声で訪ねた。
「…フィラデルフィア‥ 母さんがいるんだ‥」
近所のおばさんから聞いたことがあったらしい。サミュエルのお母さんがフィラデルフィアで生活している、という事を。彼はその婦人から、連絡先を聞き出していた。
「…わかった‥ でも、僕も一緒に行く」
キッパリと言った僕にサミュエルは心底驚いていた。
「一緒にフィラデルフィアに行くから。お母さんが見つかるまでついていく!」
空には小さく星が輝いていた。
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インターステートハイウェイは全米を縦横に入っている高速道路。僕たちはお金がないので高速バスを利用することに決めた。僕の家はお金に困っていなくても僕は現金を持っていない。いつもは馬が大きな買い物の支払いをしてくれるからだ。手持ちの小金をかき集めてポケットに入れた。
東西の大陸横断路線は、ロサンゼルスからメキシコ湾岸を経由してフロリダのジャクソンヴィルへ抜けるInterstate10。そこからアメリカ大陸を上に上がる形でInterstate 95にのる。 東部の有名都市をそのまま網羅するI-95は途中フィラデルフィアも通過する。
朝8:00出発。夏休みにも入っているため少し乗客は多いようだ。僕たちは中央より少し後ろ側の席に座った。
市外の車窓を眺めていたサミュエルも僕も、しばらくすると砂漠とか渓谷と岩の台地が延々と続く大地ばかりになると見飽きてしまった。
僕は昨日からちょっと熱っぽかったが、だんだんと気分も悪くなってきていた。マズい…
「ごめん、サミュエル‥‥ちょっと僕、酔ったみたい」
「え? ああ、本当だ。顔色悪いぞ‥‥ えーと、確かここに‥」エチケットバックの代わりを探そうとしているようだが、なかなか出てこない。
「いい‥ ちょっとこうやっているとよくなると思うから‥」本当は酔ってなくて熱っぽいんだ。サミュエルの肩をかしてもらうことにした。…ちょっとヤバい光景だけど、まあ、誤解されてもここは西海岸だから(笑)
いつのまにか眠っていた。
え?
「タクミごめん! ちょっと!!!」
不意にサミュエルは立ち上がってトイレに行ってしまった。
僕はひどい事に肩どころかサミュエルの膝まで倒れていたのだ。そして彼のペニスは反応してしまったのだ。
‥‥ちょっと‥‥、いやかなり、
大変だよね‥ この年頃ってさ。
エレクト自体あんまり意味なんかないんだ。
「あーー‥‥ごめん」
帰ってきたサミュエルは地べたを見ながらでしか話が出来なかった。