来訪者
「おはようございます」
俺の部屋に『何か』がいた.....しかも見覚えのない奴だ。警戒はとかないままにして大きく伸びをする。
「ふぁ〜どうやらまだ寝ぼけてる見てぇだな.....顔洗うか」
〜〜〜
冷たい水が顔を叩き頭が冴えていくのを感じる......気温は最近こそやっと下がりはじめたぐらいだがここ最近は暑いなんてものじゃなかった。
あと、いつもと違うのは視界の端にチラチラと写る『黒い影』ぐらいだろうか。
「おはようございます」
〜〜〜
ランドセルを自身の棚から引き出すと今日の時間割を確認し、教科書やノート類を詰め込む。
本当誰でも学問が学べるようになった現代は凄いとつくづく思う訳だ。
お袋が洗って置いといてくれた水筒にお茶を注ぎ髪を整える。
しっかし前世と比べ少し不便だなと思うことがこの身嗜みを整えるというやつだ。
前世ならボサボサの髪でボロ布を纏っていようがお偉いさん階級とは違い特に何も言われなかった訳だがこの世の中ではそうもいかない。
女は洒落た装いをしてなんなら男まで化粧や美容に真摯に向き合う時代だ。別にそれが悪い事だとは思わんが如何せん只々面倒くさい。
ここだけは前世の方が俺の性に合っていた。
時計を確認し足早に玄関の扉に手をかけ立ち止まる。
「行ってきます」
仕事で誰もいない家に声は少し大きく響いたように感じた。
「おはようございます」
〜〜〜
登校、
「おはよう夜宵っち!」
「あぁ?おはよう?」
「さてはまだ寝ぼけてるな?私が起こしてしんぜよう!それこちょこちょこちょこちょ〜」
「おい、鬱陶しいからやめてくれ」
「あれ?夜宵っちは効かない民でござったか...ざーんねん、あ、もう授業始まる。準備しないと!」
「おはようございます」
〜〜〜
昼休み、
ある者は運動場へと駆け出し、またある者は教室の隅で本に溺れ、そして不運にも給食で苦手なものが出た者は机の上に残った天敵と悪戦苦闘していた。
そんな中教室の机で突っ伏す私に話しかける者が一人......
「おい、夜宵一緒にドッチボールしようぜー!」
そう曰くのクソガキである。前回の件からやたら私に突っかかるようになったため最近では正直迷惑の一言である。
だが、こういうのは断るとだいたいろくな事にならないというのも分かっているため、俺は眠い身体を起こし項垂れながら運動場に向かった。
「おはようございます」
〜〜〜
帰宅、
「ただいまぁ〜」
いつものように間の抜けた声がリビングに響く。
分かってはいたが両親は仕事でどちらも帰りが遅く家には誰もいない。
「おはようございます」
「ん〜さてどうしたものかな......」
大きく伸びをしながら流石にもう無視し続けるのも無理かなと思い視界の端でうろちょろしていた『何か』に視点を合わせた。
それはなんとも奇怪な物体であった。
黒く、そう、ひたすらに黒く、果てがないほどに黒い。
そこに光が入り込む余白も存在せずその真っ黒な正四面体だけが異様に違和感なく虚空にぽつんと浮かんでいた。
そして俺は手をゆっくりと伸ばしその正四面体に触れた。
「おはようございます、おはようございますおはようございます、おはようございます、おはよう御座います、おはよう御座いますおはよう、御座います、おはよう御座います、オハヨウゴザイマス、オハヨウゴザイマス、...」
最初に感じたのはなんとも言えない冷たいような何も感じないような不思議な触感だった。
そして、触った端から正四面体からはとめどなく声が流れ出し、そしてその正四面体の放つ声は最初こそは女性の無機質な合成音声のようなものだったが、少しずつ声は歪んでいきやがては野太い男...いや、様々な人の声が入り交じったかのような不気味な声に変容していった。
「...オはヨウ御座いマす、し、し、シ、シ、失レイでスがアなタ死ンでくレなイでしょゥか?死んで、しんで、シンデ、シンデ、しンで、シんで、死nDe、憎い、ニクい、ニクイ、苦死異、悲死異、痛異、憎異、網一度御願異死魔素画死ン出暮間瀬ン??!ײ=《○#》☆@:*#**”"‘。**?###&&&@@◤◥◢◣⇔⇕⇖⇗⇢⇠⇖±∞≩≨¿✧⑱⑬⑥⑦┼┤┌┌▉▊▆▅▆▇▏▌█▆▆▅ДЕМЗПРТЖЁИММЕЖЁ┯┴✤✿❀✖♪.go.jp↩↖️↕️↑↓@*#&、♡#@#♡!!&、!。〈「{[【〖[((([【「〈↗️↖️↑←→↓◥◢⇢⇣↘↙〉」】])))]〗】]}」〉」
〜〜〜
記録:街中でのとある魔法少女の会話
「ねぇ萌あの子の後ろについてるのってマスコット? ちょっと変わった姿してるけど......」
緑色の透き通った髪をした可愛らしい少女が立ち止まり隣の少女に問いかける。
「......」
「萌? どうしたの......? 大丈夫? 顔真っ青だけど......」
少女は隣の少女の様子がおかしい事に気づき心配する。
よく見るともう一人の少女は僅かながらに震えていることが分かった。
そして隣の少女は自身の震えを極力隠しできるだけ平静を装って緑髪の少女に問いかけ返した。
「あ、あのさ......優衣あの子の『あれ』どんな風に見えてる?」
いつも一緒にいる相棒のような存在の反応がおかしいことは分かりつつも少女は見たままを答えた。
「えーっとね......小学五、六年生くらいかな? そんな女の子の後ろに不思議な黒い......四角?が付きまとってるように見えるね。マスコットにしてはあんな見た目の奴見たことないけど不運だね。あんなに小さいのに私達と同じ戦場を共にするなんて......で、それがどうしたの萌? さっきから様子がおかしいけど......」
「な、なんでもないよ! ほら、速く行こ! カラオケ一緒に行くって言ってたでしょ? 速くしないと置いてくよー! 」
そう先程まで隣にいたピンク髪の少々幼げな雰囲気を纏う少女は、やや食い気味に言葉を返すと足早にカラオケ屋がある方向へと走って行った。
それを見て緑髪の少女は慌てて追いかけた。
〜〜〜
記録:ピンク髪の少女の思考
何あれ、何あれ、何あれ!?
優衣にはあれが黒い四角? に見えるらしいけど私には残念だけどそんなオーパーツめいた不思議なものは見えなかった。
そう、ただ......『あれ』は決してそんなUFOの部品だとか魔法少女の武器やアイテムとかそういったものではない! それだけははっきりと言える。
どうにか、優衣を連れ出せたけど後で謝らないとな......そうピンク髪の少女は呟くと先程の小さな少女を見る。
そこには小さな少女の首を搔き切ろうと筋骨隆々の男やよぼよぼで今にも折れてしまいそうな老人、やつれた女に小さな子供、大小様々な人物の影がしがみついていた。
その目に写るのは黒い影だけだったが、何故か嫌になるほど一人一人の詳細が分かった。
そしてまた得体の知れないものの恐怖を味わいピンク髪の少女はすぐに前に向き直しひたすらにカラオケ屋まで走って行った。
振り向きざまに見た顔のないはずの影たちがニヤッと口の端を吊り上げたのはしばらく夢に残るだろうなと気分を落としたが今は兎に角すぐにその場を離れたかった。
静かな夏の終わりに2人の少女は葉も少しずつ朽ちてゆく中駆け抜けた。
そしてその日は星が怪しい程に綺麗に見えた。




