【番外編】カインの初恋
リブリア学院を卒業して2年が経とうとしていた。
学院時代からの親友でもあり、今は仕事仲間でもあるエドワードが来月結婚するという。二人の結婚式の招待状が送られてきた。
相手は聞かずともわかる。
エドワードは学院時代にソフィーさんに一目惚れして、ずっと一途だったから。
あいつは面食いではなかったはずだけど、ソフィーさんに初めて会ったときは正直美人だと思った。
青緑色の大きな瞳がエドワードを優しく見つめるのを羨ましいと思った。
彼女の纏う空気が好きだ。穏やかで、でも凛とした強さもあって。あのとき俺も彼女に惚れてしまったんだと思う。
でも言わなかった。
エドワードの彼女への想いがとんでもなく強いことはわかっていた。それに、彼女だって...。
「そうか...やっと結婚できるんだな...」
ソフィーさんは学院卒業後、植物を育む魔法を極めてウェールズ伯領で植生学者をやっているらしい。真面目な性格の彼女だから、実家のためにと勉強がんばってたもんな。
そんな彼女を追いかけて、エドワードは度々ウェールズ伯領に行っていた。
噂によると会うたびにプロポーズしてたらしい。そんな逢瀬を重ねて、やっとソフィーさんがOKしてくれたことを知ったときは、素直に俺まで嬉しくなった。
俺の拗れた初恋は、誰も知ることなく、こんなにあっけなく終わりを迎えるのだ。
でも、これでよかったんだ。
「はぁ...俺も結構本気で好きだったんだけどなぁー」
ため息をついたとき、部屋のドアがノックされた。
開いている扉から、エドワードとソフィーさんがこちらを見て手を振っている。
「よぉ、結婚式の招待状見たよ。おめでとう、二人とも」
そう言うと、エドワードがソフィーさんの肩を抱いて「ありがとう」と照れくさそうに笑った。
「カイン様、何が好きだったんですか?」
ソフィーさんが不思議な顔で聞いてきた。
そ、それは...口が裂けても言えない。
横でエドワードが何かに勘づいたかのような顔をして、俺を睨んでくる。恐ろしい牽制だ。もうお前と結婚するのに...。
「...別になんでも」
俺はそんなエドワードが可笑しくて、笑いながら二人と共に夕食を食べに出かけた。
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「俺もそろそろ結婚かなー」
三人で囲むテーブルはいつもより心地よく、久々の友人との食事で酔った俺は二人に陽気に話す。
俺は伯爵家の次男だし、兄貴はもう結婚して家督を継いでいる。だから学院卒業後は自立したくて帝国軍本部に入隊した。
自由な独身生活だけど、正直目の前の二人が羨ましい!
ソフィーさんが俺のことを心配しつつ言う。
「カイン様...もしお相手がまだいなければ、学院時代の友人でカイン様をずっとお慕いしている子がいるのですが...」
「誰!?」食いつくように言った俺に、エドワードの横槍がすぐさま入る。
「近すぎだ」
ソフィーさんのことを自身の近くに寄せる。
気を取り直してソフィーさんが言う。
「シャーロット・マルクス様という方です。学院時代は、カイン様とエドワード様は女子生徒たちの憧れの存在で...なかなか声をかけられなかったそうですが...というか、お二人がアイドルすぎるんです!」
エドワードに拗ねる彼女が可愛く見えたが、エドワードがまた牽制してくる。
「...知らない子だ、俺のことが好きなの?」
「はい、シャーロット様も私たちの結婚式に招待しているので、お会いできると思いますよ」
ニッコリ笑うソフィーさんの言葉もそのままうろ覚えになるくらい飲んで、結局シャーロット嬢のことはすっかり忘れかけていた。
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そして迎えたエドワードとソフィーさんの結婚式。
帝都でこんなに盛大に開かれた式には、沢山の参列者がいた。
教会での誓いが終わり、宴の広場に歩いていると
「あ、あの...!カ、カイン様ですよね...」
突然呼び止められ、後ろを振り返ると顔を真っ赤にして今にも逃げてしまいそうな女性が立っていた。
「?はい...」
「わ、わたし...シャーロット・マルクスと申します。ず、ずっと、カイン様のことが好きで...大好きで...」
想いが溢れて涙をポロポロ流す彼女に近寄った。
他の人が見ているので、手を引いて教会の裏庭まで移動する。
「...そういえば、ソフィーさんから聞いたな。俺のことを慕ってくれてる子がいるって。君だったのか」
シャーロット嬢は赤い顔をさらに赤くして勢いよく頷いた。
「...俺は、実は学院時代から失恋を引きずってて」
彼女の顔がパッと上がり、俺を見る。
「今日の結婚式を見て、結婚いいなーって思ったけど、しばらく恋愛はできそうにないんだ。だから...」
俺が言いかけたそのとき、
「私はカイン様が好きです。つらい恋をされてたあなたをずっと見てきました」
「学院時代の俺のこと...気づいてたんだ」
彼女は小さく頷いた。
「私はソフィーさんのような女性にはなれないです。でも、カイン様のことをソフィーさんより幸せにする自信はあります!!」
さっきの赤面してオドオドした彼女の面影はどこにもなく、真っ直ぐに俺を見ていた。
「...こういう始まり方もアリなのかもな」
そう呟くと、シャーロット嬢は笑顔で俺を見た。
「...じゃあ、友だちからよろしく」
そう言って俺は涙を流しながら笑う彼女と握手をした。
「母子ともに侯爵様に溺愛されてます!」を読んでくださりありがとうございます!
リアクションをいただけて嬉しかったので番外編です。連載中の「倹約皇子に今日も愛されてます」もよろしくお願いします!




