緋色の空
良いニュースがある。痛みの原因が無くなった。
悪いニュースがある。痛みの原因が無くなった。
「はぁ…」
ベッドの上と床に散らばっていた“破片”をパズルのように集めてみると、大体揃っているように見えた。
今や私の世界は半分だから、もしかするとどこか見落としているかもしれない。
「まったく…」
面倒な事になった。
砕け散った自分の眼球の残骸を目の当たりにし、私は独り溜息をついた。
「………」
冷蔵庫の中から未開封の水のボトルを持ち出し、左目のあった場所に流し込む。
前述したように痛みは消えていて、洗い流す過程でも特に何も感じなかった。どこまでもそこは空っぽだった。
やがて500mlを丸々消費し、どうやら体内に破片が残っているなんて事も無いらしいと判断する。
左目の瞼だけを閉じて、開く。
何も変わらない。
「やはり違和感があるね」
一方で、どこか清々しくもある。昨日有った痛み自体は消えたからだろうか。
取り敢えず病院へ向かおう。
何かあれば再来院───そういう事になっていた。恐らく手遅れだろうが、搔き集めた眼球の残骸をビニール袋に詰めて持って行く。
そうして私は玄関から外へ───。
「………」
───赤い、赤い空。
自宅から外に出た私を出迎えたのは、血のように赤い空模様だった。
どうやら一段落どころか問題はまだまだ進行中らしい。
───
──────
─────────
非常に今更だが、私の眼球が破裂した原因は外部からの衝撃等ではない。私が得た情報は左目が自然に弾けた事実を示している。
そんな事が起きてしまっている以上、残った右目の異常を疑うのもまた自然な事で、私は自らが遭遇している現象についてまず自らの色覚異常を疑った。
狂っているのは私だけで、青い空を人々は従来通り青い空として認識している。
起こり得る確率に照らしても私の視点が狂っていると見るのが妥当だった。少なくとも私に現在何らかの異変が起きている事は事実であるし、あの空もその延長である事を期待した。
大前提としてそれは夕焼けのように光のグラデーションを持つ空では無かった。一面が夜空か青空のように鮮やかな赤色に染まっている。
また、夕焼けや朝焼けである可能性は初めから無かった。
「太陽は昇っている……」
南天の中天、正午の位置に高々と緋色の火球が昇っていた。
この際、太陽の色彩については深入りしない。それもこれも、私の右目が色覚異常を発症しているのだと証明出来れば説明が付くのだから。
太陽の位置から判断するなら正午である筈なのに、やけに静かな街。
寝過ごしたという自覚症状の無さ。
別にそれらに気付いていない訳ではない。
ただ、気付いたところでどうにもならないから後回しにしているだけ。




