開幕からクライマックス
昨日、私の片目は酷く痛んだ。視界も何だか歪んでいる。当然医者に掛かったが、掛かり付け医からしても原因不明で心因性の何かではないかとの事だ。
心因性、便利な言葉だ。心は未知であるからこそ、知識で得られない解答の理由を人は心に当て嵌めたがる。
実際、それは当たらずも遠からずだ。
少なくとも身体的な原因は無い。──確定はせずとも高い確度でそう示されてしまった。
何とまあ、大層な事じゃないか。
『後日何かあれば再度来院』という事後対応を前提とした退院措置を受け入れた私は、結局軽い痛み止めだけ処方され帰宅した。
薬は飲まなかった。それは治療薬ではなく痛みを耐える為のもので、それは私には必要のないものだった。
眼球の内側から感じる圧迫感と熱。やがてその熱が目元から溢れ始め、生温かでねばつく感触が頬に触れる。
血だ。
気休め程度に私物の包帯とガーゼで眼帯のように左目を覆ったが、純白のそれはすぐに赤く染め上げられた。
事実が、実績が蓄積される。医者が告げた“未知”、その答えに辿り着くように情報が積み上げられている事を実感する。
私はそれを意図していない。積極的に探ろうとも、積極的に探究を拒絶しようともしていない。
曖昧に揺れ動いて、ただ流れに自然と流されている。
私はただ受諾し、受領し、受け入れている。
どのようにして寝床に入ったか、あまりよく覚えていない。少なくとも重要な事は特に無かった。
事前に想定されたように寝床は血に染まっていて、私の顔の左側も───。
「…………?」
違和感を覚え、顔の左側へ手を持って行く。そこにあるべき包帯が無い。
血に濡れた素肌に触れる。
「………」
血濡れの眼帯が無くなった。これは別にどうでもいい。…問題は、目の覆いが無くなったにも関わらず視界が眼帯をしている時とあまり変わらない事。
左目のあるべき場所へ指を這わせる。まだ単なる失明である可能性があった。
瞼に指が触れる。そしてその中身を探ろうとする。
───何も無い。
「………はぁ」
ここで漸く私は枕元へ振り向いた。血を余計に浴びない為に、左半身を下に横向きで寝た私の枕は当然眼窩から垂れた血で真っ赤になっていたが、よく見ると“垂れた”と表するより激しく飛び散ったと表現出来る模様が枕とその下の寝床の上に描かれている。
そして私は既に更なる痕跡も見つけている。
血に染まった寝床の上、薄く透明な膜のようなそれを私は拾い上げる。
見慣れてはいないが見飽きてはいた。
何故ならそれは、私の左目の角膜の破片だったから。




