表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
磨いた成果を試すとき  作者: うみたたん
1 クロノスの章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/33

エリオと長い廊下 2

永遠に続くような暗い廊下に出ました。

頭を抱えた僕に、あっけにとられているレイモンドさん。そっと僕の背中に手を当てた。

「エリオ、どうした?」


それは自分の影だった。


天井の丸いライトを通り過ぎると同時に、背後からやってきた自分の影にあっという間に追い抜かされる。  

意味がわからず、きょろきょろするレイモンドさん。


「すみません、レイモンドさん。自分の影でした。ちょっとびっくりしちゃって」

「影? なんだ、びっくりした」


笑うレイモンドさん。 もう一度丁寧に謝罪をして、二人でまた歩き出す。

「あぁ、これねぇ」


レイモンドさんはそう言って廊下に現れる影を指差す。


「確かに追いかけられてるみたいだなぁ」

「はい」


「あと、呼び捨てでいいから。レイモンドって」


「あ……はい」


レイモンドは変に感心していた。影に追い抜かされるたびに、僕はなんだかイラッとしてしまう。

僕は意外と負けず嫌いな性格だったことを思い出す。あまりにもいろいろなことがありすぎて、何も考えられなくなっていたけど。


天井に並ぶ小さな丸いライト。影との追いかけっこは永遠に続くように感じる。


「気にしたことなんてなかったよ」

「……ですよね」


そりゃ大人の男の人だからな。影が追いかけてきて怖い! なんて言ったら、それはそれで怖い。


「申し訳ないね、夜に手続きになってしまい……」

「いえいえ、それはこちらの家の都合ですから。母が入院しちゃって、入寮を急に早めてもらって本当に助かりました」


僕が15歳にしてはかしこまった言い方をしたからか、レイモンドは眉をひそめ、いたたまれない顔をした。

「エリオ……大変でしたね」

「はい。でも、なんとか落ち着きました」


互いに知っている話を繰り返し、長い廊下を歩く。 レイモンドに気を使わせていることに申し訳ないなと思いつつ、だけどおもしろい話題なんか何も浮かばない。それも感じ取ったのか、レイモンドが会話の糸口を探してくれた。


「昼間は全然違う雰囲気ですよ。ここは人もたくさんいてにぎやかですし」


「えっ、あっ、……はい」

「信じてください。昼間はここは怖くないです!」


レイモンドは僕のぎくしゃくとした反応を気にして、さらに主張してきた。そんな自分がおかしいのか、彼は半笑いになってしまう。つられて僕も笑った。

「ここは職員室と事務室だから」


レイモンドは長い廊下の右側を指さす。  

ああ、なるほどと僕は感心してうなずいてみせた。


「入寮すると、あまりここは通らないよ」

「そうなんですね……」  


僕たちはまた沈黙した。


「夜の学校って……やはり怖いですよね」

「はい」


即答する僕を見て、レイモンドはまた笑った。笑うと結構若く見える。前髪も真ん中で分けているのだけど、それも似合っている。


 長い廊下が終わろうとしていた。目の前には真っ暗な大きな窓が迫っていた。 そこに映るレイモンドと僕。

 窓を見るまでわからなかった。男同士だけど、レイモンドは僕よりずいぶん背が高かった。

 こんなに違いがあるんだ……窓を鏡代わりにしていたら、僕を追い抜いていく影に異変があった。


影が違う動きをした。


僕は手を下ろして歩いているので、次々と現れる影はもちろん手は下ろしている。

だけど廊下を曲がるそのとき--


影が両手を上げて追いかけてきた。 あっと思ったときには、僕は息ができなくなった。首が徐々に絞められていく。


苦しいっ!

くぐもったうめき声しか出ず、とっさに助けを求め、事務員さんの腕を掴んだ--


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
やはり同じ話でも、男の子だと印象が変わりますね。 女の子だと、怖がる姿が可愛いなぁと思うけど、男の子だと、何やってんだよ、しっかりしろよ!と言いたくなりますね。 この世は男には厳しいです。 そう言え…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ