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磨いた成果を試すとき  作者: うみたたん
1 クロノスの章
2/32

エリオと長い廊下

プロローグよりも前の時間になります。

1話のエピソードは転入生のエリオが語り手になります。


エリオ、ここが君の下駄箱だよ--


 誰にも話していないことがある。事務員のレイモンドと僕だけが知っている秘密。


 大した話じゃないけど、僕の失敗談って感じかな。クロノス学園に初めて来た日のこと。あれは夜だったんだ。普通は昼間だろう?

 少し妙な話かもしれないけど、聞いてほしい。


◇ ◇ ◇


 まず事務員のレイモンドさんに連れられて、離れの倉庫に向かった。そこで制服のサイズ合わせをした。ちょうど古い制服が何着かクリーニングしたものがあるからって。

 ネルシャツを脱いでTシャツ一枚になると9月の夜風が心地良かった。

 細く頼りない腕を隠すように、素早くシャツとブレザーを羽織る。


「似合うじゃないか!」


「あ…………」


 ありがとうございます、なんて言うのも恥ずかしいから僕は黙ってしまった。レイモンドさんにブレザーの肩をそっと触られて、位置を直してもらう。


「ふふ。そのまま着てなよ。それは予備として持ってていいから」


 シワになるから着てしまったほうがいいしね、なんて言われる。それは思いがけなくて、僕はとても嬉しくて、それで緊張もほぐれてきた。そのために制服を合わせたのか……なんて思ったほどだった。


 夜に制服で学園に入るのは(それは僕のせいでもあるけど)特別な感じがした。

 クロノス学園の制服は、濃紺のブレザーとズボン、ネクタイは深緑。落ち着いた色合いだ。


「新しい制服はすぐ届くから」

「はい」

 僕は静かにうなずいた。


 下駄箱の位置を教えられ、僕は整然と並んだ下駄箱の前に立った。白く磨かれた箱の数列。地元の中学校とはまるで違う。

 一番上の段を見上げると、小さな青い花が飾られた下駄箱がある。


「…………」


「青い花のところがエリオの下駄箱だ。クロノス学園へようこそ、という印。一ヶ月はそのままにしておいてよ」


 レイモンドさんがそう言って、淡く微笑んだ。花の下には、僕の名前が印刷されたプレート。


 〈エリオ〉


 僕の名前を見ると、再び緊張してしまう。

 一番上か……背が低い僕には、毎回少し面倒かも。

 よっと……。つま先で少し伸びた。


「他の転入生もいるんですね」

「……」

 レイモンドさんは無言で僕を見た。少し鋭い視線。顔がキリッと整ってるから、ちょっと怖かった。

 僕は同じ列じゃなく、斜め後ろの遠い下駄箱を指した。そこにも青い花が貼ってあったからだ。


「ああ。あれは別の棟の生徒だ。学年も違うよ」

「あっ、そうですか」


 すぐに笑顔になるレイモンドさん。

 別の棟なら、まあいいか。転入生がいたら頼もしいなと思ったけど、比べられるのも面倒だし。


 靴を上履きに履き替えて廊下を進むと、長い暗い廊下に出た。

 カチッと音がして、人の動きを感知したのか廊下のライトが一斉についた。少し驚いたけど、声には出さない。


 自動で点灯する仕組みは、僕の地元じゃあまり見なかった。廊下の正面には大きな窓があり、その向こうは真っ暗な闇。

 レイモンドさんと歩き始めた。足音だけが、かすかに響く。静かすぎるくらいだ。


 そのとき、後ろから何かが近づいてきた。人間とは思えない速さで、追いかけてくる。

「っ!」

 僕は小さく声を漏らし、反射的に頭を押さえた。

2話も読んでいただいて、ありがとうございます。

惨虐なシーンのないホラー目指してます。

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