7 イセカイシンドローム
「うぅぅぅ……ダイブしたはいいけど頭が痛すぎ、もう勘弁してよ! そんでここどこなんよ?」
俺ってば、見知らぬ大草原でひと眠りって、この物語、最初から設定が手抜きじゃないの?
気候は暖かく、時折り吹き抜ける風が爽やかで、見渡す限り緑の草原ってのもありきたりで、ズッコケだね、まったくさ!
覚悟を決めて飛び込んだのにと目に映る景色を退屈そうにして眺めていたその時、突然それまでと明らかに異なる空気振動がピリピリ伝わってきた。
「これこれ、超ヤバいやつじゃない?」
急激に辺りが暗くなり、強い風が吹き出し、体感温度が下がり、背後に何かいるのを直感した。
俺が振り返りざま、空を見上げたその瞬間、
上空背後から超デカな怪鳥の急襲を受けた。
「ワイバーンっすか? 異世界ご都合主義のあれですね、けど超デカじゃんか、まいるねーほんと」
「ヴォォォー!」
「ってそれやべぇーじゃんか! うわーっ!」
異世界あるあるみたいな展開に、余裕ありげな解説ぶっこんだ割に、俺は回避ままならず、やつの大きな爪足の餌食となり、不覚にも意識を失ったんだ。
見るからに野蛮顔した男がワイバーンから降り立つと、あたりの茂みに潜んでいた輩達も姿を露わにして、ハルトに近寄り囲んださ。
「奴らの仲間か?」
「そりゃちゃうわ。こんな弱っちいはずないからな!」
「どないする?」
「剥ぎ取りだな」
「それ、手首に巻かれとるやつあっべ!」
「どれどれ? あっ、そいつだな!」
「ちょっ、ちょっと待ちい!」
「それはなんじゃ? 魔除けか? 鏡か? それとも奴隷の手縄か?」
「……こんなん見たことないわい! こりゃきっと金になるばい!」
「肉獣が何頭買えるんか?」
「金貨相当じゃねえんか?」
「じゃあ何枚じゃ?」
「何枚じゃねえ。何十枚じゃ!」
「おいおい、早いとこやっちまうぞ! 王国の傭兵に見つかったら面倒だかんな。お前ら! とっととそいつの着ぐるみ剥がしてずらかるぞ!」
そう言って盗賊らはこの場を後にした。
「ん? ……ここは……どこだ?」
目を覚ましたハルトは、四方丸太組みで囲われた部屋のベッドに横たわっていた。
「ええ? ちょっと身体のあちこち痛いじゃんか」
ん? 誰だ? この子は?
「ねぇ、じいちゃん、じいちゃん! お兄ちゃんの目が開いたよ!」
「おぉ、そうかね。ちょうど薬ができたとこじゃ!」
「ねぇえ、お兄ちゃん。足の怪我痛くない?」
そう具合を確かめるように、俺の顔の前で心配そうな顔をして見せた。
俺怪我してたのか?
「足の……怪我だ、ひどい、あっ、イタタタタ! 動くけど、ヤベェ痛さや」
「ねぇ、お兄ちゃんは、王国の兵隊さんなの?」
「兵隊? いやいや」
何を言うてるのか、この子は?
それに言葉が通じてる?
異世界文化はやっぱりご都合主義なんだな!
「兵隊さん違うの?」
この子は、俺を兵隊だって思い込んでいるのか? なぜ?
「俺さ、兵隊に見えるかい?」
この子は笑いながら、
「兵隊に見えるよ。だって、お怪我して血を流してここに来たんだもん。戦って負けて動けなくなったから、おじいちゃんがおんぶして運んできたんだからね」
と俺に教えてくれた。
そうだった。
この展開、異世界ご都合主義ので何者でもないじゃないか。
「そっか、あの時、飛んできたワイバーンに踏み潰されたんだった!」
おじいちゃんと呼ばれるその大柄な男が話しかけた。
「お前さんよ、どうやら左脚は骨折しとるよ」
やっぱそうだ。
ここで静養する展開?
先読みできるよまったくさ。
「あゝこの痛み、そうなのかも知れませんね」
でも医学が発達してなさげだから、その骨折と言う診断も怪しいが……。
「お前さんが寝ている間にな、村の治癒師に来てもらっておって、怪我した箇所を診てもらっておるんじゃ。骨折だそうじゃ。まぁ数日すれば元通りに戻るじゃろうて」
「ありがとうございました……って数日で治るものなの?」
ほら、治癒師って。と言うことはここは魔術が発達した世界なのか?
だから、骨折くらいは直ぐに完治すると言うことか。
「ところでお前さん、名はなんて言うんだね?」
「俺はハルトと言います。あなたは?」
と尋ねた大柄の男の隣にいた女の子が返事をした。
「私ね、チェリーって言うのよ」
「チェリーちゃんか……お世話になります」
「どういたしまして」
すると大柄の男が話しかける。
「チェリーは訳あって儂が面倒を見とるんじゃ。儂はボーロじゃ」
続けてチェリーもボーロについて語り出した。
「じいちゃんは弓の名人なんだ。いつもこーんな大きな動物を捕まえてくるんだよ。こーんなのだよ、こーんなの」
「こーんなのだね」
「そうだよ、こーんなのだよ」
静かな森に住む老人と幼女に主人公が救われる設定、まさに異世界純度二〇〇%の環境設定だ!
「おい、チェリーよ。すまんがちょっとこのおじいに話をさせてくれんか?」
「はーい、お兄ちゃんまたね」
とチェリーは手を振りながら隣の部屋へかけて行った。
「あゝまた!」




