4 ハルトバドラ
なんだ? 今の声は?
行くべく世界ってなんなんだ?
幻聴が聞こえるようになったのか?
——破虎よ! さぁ立ち上がれ!
「誰だ!」
「破虎。どうしたんじゃ?」
「変な声が……聞こえなかった?」
「儂には何も聞こえんぞ」
「さぁ立ち上がれって……聞こえてたのは俺だけ? でもなぜ俺にしか聞こえてないんだ?」
なんなんだこれは?
——お前に与えられた役割を果たすのだ!
まただ。これ一体どこから聞こえてくるんだ?
「おい! 誰だ、お前は! 役割ってなんだ! 応えろ!」
「破虎、どうしたんじゃ、落ち着け! ええい、今日の稽古は終わりじゃ!」
なんか、分からんようなってきた。
不思議な力を宿した斬魔刀や、俺にだけ聞こえる謎の声。
話がぶっ飛び過ぎてて、いまいちピンと来ない。
でも、ハッキリしてるのは、羽山水弦流抜刀術十九代目の継承者になって……三振りの斬魔刀を受け継いだこと。
とは言え、なんか実感湧かねぇ。
そしてこの斬魔刀の抜刀は、危険な代物。言い換えれば刺激的……か?
——お前の行く道は、抜刀術の後継者だとか、そんな手ぬるい話ではない。
何だと……いや、無視だ。
ここは冷静に……幻聴なんだ……これは。
でも、それならそれで面白い。
まぁ、何はともあれこの三振りは、ワクワク度MAXで刺激的。
あまりにも現実離れした出来事に忘れかけていたが、図書館の一件、あの本はどこに消えたのだろうか?
興奮し過ぎて、ちと疲れたわい。
もうあかん……寝る。
「バタン」
なんだ?
誰かに見られてる?
いや、締め切った俺の部屋には誰もいやしない。
あれ? 机の上に見たことのある見慣れないものが見えるぞ。
えっ、あの本じゃん!
なんでここに?
ん? 金縛り? うつ伏せのまま動けない! 瞼が落ち……るぅ。
——目覚めよ破虎よ!
ううっ、まただ。
あれっ、身体が、動くぞ。どうなってるんだ?。
まて……ここはどこだ?
何もない空間?
幻影……か?
いや。
……そこにいるのは誰だ?
——私はもう一人のお前、厳密にはお前は私そのものだ。
何言ってんだ!
お前が僕だって?
冗談はやめてくれ。
俺は俺であって、他の誰でもない俺自身だ!
了解なしに、俺の領域に土足で踏み込んでくるなよな!
——フッフッ、どうやらお前はこの世界に紛れた時に、記憶を消されてしまったようだな。
——まぁ良い。
——教えてやろう。
——この空間は私が造った意識の世界。
——創造主と呼ばれるイデアの住人だとて知るよしもない世界。
——実体がまったく存在しない世界だ。
——見えているのは意識によってイメージ化されたお互いの姿だ。
なんだって……
——この意識の世界は、今の私の能力では長く保つことはできない。
そうか。分かったぞ。
伝えたいことがあって現れた。
そうだろ?
——察しが良いな。
——破虎よ。
——世界は今、イデアの住人たち《じゅうにん》によって消滅の危機に晒されている。
?
——イデアの力によってお前は神の世界から、
——そして、生きて私の下まで辿り着くのだ。
えっ……僕は……破虎?
イデアの住人ってな何だよ?
世界を守れって?
お前のところまで行く?
あんた、一体誰なんだ!
——いずれ分かるだろう。
——すぐ近くまでゲートが迫っているはずだ。
——ゲートを潜り抜けた先の世界で、私はお前を待っている!
ううー、意識が消えてゆく……
……ああ、ここは、我が家……か。
ううぅ……なんか頭痛するわ。
いろいろあり過ぎて……って、えっ、あの本が机に……ある。
でもなぜ?
……つまりこれが……ゲート?
そう考えるのが自然か?
なんか怖い気がしてきたが、気持ちの高まりは抑えられない。
これも俺の本能か?