10 バットウノビガク
狩場
「儂らは運がいいぞ。あれはヤーヂョと言ってな、この辺りに生息する食肉獣じゃ。しかも仲間がおらんわい。あれを一頭を仕留めれば、一月は楽に暮らせるほど高値のつく代物じゃ」
「あれが……でもこのサイズ、丸太のようにはないですよ」
「あのサイズだから価値があるってもんだ」
ボーロがハルトにこの場合の狩猟の手順を伝え、いきなり実践が始まった。
「あんなデカいの、今の手順でやれるんですか?」
「いいから、あそことあそこを見てみなさい」
「ええっ、あっ、ハンターが他にも……」
ハルトが見た限りでは、三人はいると把握できた。
「ここらのハンターは必ずさっきの手順で捕獲に入るから、儂らは儂らの役割をきっちり果たせばいいんじゃよ」
とボーロが呟いた。
「んじゃ、風上の彼らが奴を追い込むから、俺とボーロさんが後足の付け根を槍で刺せばいいんですよね!」
「そうじゃ、そう言うことだ。狙いを外すなよ!」
「もちろん」
風上のハンターが追い込みを始めた。
「さぁ、儂らの番じゃ!」
「はい!」
ドコドコドコドコ……!
「おい、ハルト! はよ投げるんじゃ!」
「わかってますって! おりゃーっ!」
「刺さったぞ!」
「ダメだ、まだ逃げ足があるぞ!」
ボーロは、ポケットから分銅手裏剣のような捕獲用具を、奴の後足目掛けて投げつけた。
「足に絡まったぞ!」
ハンターたちはヤーヂョを囲むように集まった。
「ボーロ、こいつは誰だ、お前の弟子か?」
「いや、違うぞオコナよ」
「じゃあなんだ?」
「俺はハルト、この世界で旅をしている、君は?」
「俺はオコナ、こいつは……」
「私はドリトムだ。表向きはハンターをしているが、王国奪還のためこの地で強い漢を探している」
「ドリトムはな、前国王の側近中の側近だたんじゃ」
「ならばドリトムさん、王国で何が起こったのか、教えてはくれまいか?」
「……それを聞いてどうするんだ?」
「俺はこの国を変えるために……この世界に導かれたんだから」
「ふっ、ふふふ。何を言うかと思えば、導かれし漢か……んっ、まぁ良い、悪くないね!」
なんかわからんよね。
真面目に話してるつもりなんだがね。
「キミの名を聞くとしよう!」
ドリトムは両腕を胸の下あたりでギュッと組み、目を閉じた。
ハルトは咳を一つ切ってから大きな声で見栄を切る。
「羽山流抜刀術師範の羽山破虎、ハルトと読んでくれ!」
「抜刀ってなんだ?」
ドリトムが首を傾げた。
この世界では刀の文化がなさそうだから……どう説明すべきか。
「一瞬で相手を切り捨てたり、太刀捌きであったり……刀という武器を操る技術なんですけど」
「料理をする時のナイフみたいなものか?」
ナイフはあるんだ。
「そうだな、ナイフを長くした物が刀で、ナイフのケースが鞘と言って、鞘に入ったままの刀を一瞬で抜き、相手を切り、すかさず鞘に戻す術なんです。つまり抜刀から納刀までの技の美学なんです」
「今できるんか?」
「いやぁ、刀がないので……」
「じゃあ、この槍を刀に見立てお相手していただくとしようか」
ドリトムはハルトと向き合い、間合いを取る。
そしてドリトムは槍先をハルトに向けるように握り中段に構えた。ハルトは槍先が後方を向くように帯刀し、左手親指を鍔にかけるイメージで少し槍を前に突き出すように構え右手を柄のあたりに近づけ重心を低く構え目を閉じ精神を研ぎ澄ませた。
「眠くなったのか? ではこちらから行かせてもらうぜ!」
ドリトムは槍先をハルトの心臓目掛けて突き出した。
「オリャー!」
その瞬間、ドリトムの槍は天を舞い、ハルトは槍でいくつかの円を描くようにしたあと、槍を構えていた左脇に納めた。
側で見ていたボーロもその一瞬の動きに息を呑んだ。
「な、何が起こったんだ?」
「それは俺様のセリフだ! おい、ハルト、今何をしたんだ?」
ドリトムは飛ばされた槍が落ちて来て地面に刺さった瞬間、何が起こったのかを察した。
胸あたりに二本の切筋があり、着衣が垂れ落ちた。
「ハルト、お前さんは槍を跳ね飛ばしながら、ドリトムの身体を切り付けることなく着衣のみを切り捨てた、そうだな?」
ハルトは静かに頷いた。
ドリトムはハルトの太刀捌きに魅了された。
「これが抜刀術なんだな!」
「ええ」
「決めた、俺はお前さんの弟子になる」
その様子を見ていたボーロがふたりに声をかけた。
「花より団子、そんなことよりヤーヂョをどうするかが問題だぞ! こないなデカブツをどう運ぶんだ?」
ドリトムがボーロに答えた。
「心配ご無用! ピューピュ」
ドリトムは口笛を空に向かって吹いた。
しばらくすると空からドラゴンが現れた。
ボーロが驚き呟く。
「この獲物をドラゴンが運ぶんじゃな?」
「ああ、このまま買取商のところまで運ぶから、いつものとおり金貨と肉をもらいに行ってくれ」
それはそうとボーロはドリトムに尋ねた。
「お前さんはドラゴン使いの一族の出身であったか」
「これまで知らなかったのかい? 俺はドラゴン使いの一族で、兄はドラゴンクロウのナンバー2だ」
「ドラゴンクロウと繋がりがあるのか?」
とボーロが聞き返す。
「いや、俺はドラゴンクロウのような卑劣なやり方を認めちゃいない。かつて俺が国王の側近でいた頃、ドラゴンクロウが王国転覆を企んだ罪で世界の果てに追いやられてしまったんだ。俺はあいつらを指導したとして投獄されたんだ。実の兄弟と言っても、お互いに憎み合う関係さ」
ハルトはドリトムのかつての顛末を聞いたあと、敢えて彼を弟子にはしないが、パートナーとして一緒にドラゴンクロウに盗まれたスマホを取り返す交渉に同行して欲しいと頼み込んだ。
「ドラゴンクロウの面々には誤解を解き、すべてが現国王の陰謀であったことを伝えたい。そして盗賊に成り下がってしまった今を抜け出して、気高きドラゴン族の誇りを再び取り戻して欲しい! そう思っていたところだ。だからドラゴンクロウへの案内は俺に任せてくれ!」
ふたりは熱い握手を交わした。
そしてドラゴンクロウの巣食うあの山岳を見ながら、ハルトは叫んだ。
「待ってろよ! ドラゴンクロウ!」




