グランバルノ戦線
「警告、前方に――」
何かが爆ぜた、それを認識したときにはもう、ヴェントとペルソナは空中に打ち上げられていた。
「っ、なんだ、今何が」
風が乱れ、感じられるはずの流れも気配もすべてが乱される。呼びかけても風が怯えている、従わない、逃げていく。
「空間感知……アクティブステルス、こいつ、なに?」
空気を押し除けて物体が〝移動〟する限り、風の流れ、空気の動き、伝わる〝振動〟までをも知覚できるため、まるで野生動物のように、本能的に敵を見つけ出す勘を備えているかのように見える風使い。それは他の魔術師にも言えることだ。乱されてしまえば使えないということも。
「ペルソナ、分かるのか」
「そこにいる、分かる、でも見えない。周辺環境パターン収集、たぶん光の屈折、解析、演算して」
その言葉はヴェントに向けられていない、そこにいる、でも分からない、敵ではないもう一つに向いている。
『IFF応答無し、CIPパターン不明――対象ロスト、周辺に航走波無し、追跡不能』
声は少女の物だが、姿が見えない上に発している言葉に理解できない語が混じっている。ペルソナの言葉にもだが。
「消えた……逃げた、違う? 空に、なにが目的で」
見回すと空と地上の境目あたりで光が瞬いてた、かなり距離があるが戦闘が行われている。
『アラート、真東、トゥーボギー、アプローチ』
「ペルソナ、どういう意味だ」
「東から敵性二つ、接近中。ここ、たぶん戦争が――」
『ミサイル、インターセプト』
警告と同時にペルソナが拳を握り締め、光の粒を投げた。三秒、赤い火の玉が見えたかと思えば光の粒に衝突して炸裂する。
「爆破の投擲魔術か?」
「違う、しつこく追いかけてくるやつ。ヴェントじゃ無理」
目をこらして飛んで来た方を注視する。見えた、グランバル中央軍だ。何度か派遣されて同じ戦線に投入されたことがあるから分かる、戦闘方式もある程度は知っている。センタクスやセントラと違って正規軍として空軍と海軍を有し、戦術もしっかりと構築し訓練している。飛ぶならば同時に三つ以上の魔術を扱い、飛行術式、攻撃術式、防御術式、治癒術式は絶対に習得させられる。軍の中でも上位者のみで構成されるような精鋭部隊が、通常の部隊として配備されている。
だが軍事国家ではない、それほどの武力を持っておかないと魔物と渡り合えないからだ。そう、知っているペルソナは、グランバルは対人訓練を主にしていないから、強いようで弱い、崩し方を知っている。しかしそれを知らない他国は、侵略の用意をしているのだろうと疑う。国としての付き合いがないから、何も分からない、だから恐れる。
「お前ならやれるのか」
「今は、無理」
次が飛んで来た。再び光の粒を散らすとペルソナがヴェントを掴んで一気に降下する。敵は空対空、空対地、どちらもやってくるだろう。しかしこちらは飛べるだけ、オマケ程度に近距離戦が出来るだけだ。だったら地上に降りて迎え撃ってやれば良い、空を飛ぶ、空気という物質に満たされた中を〝移動〟するのなら、竜巻でも起こして異物を巻き上げて、さらには巻き込んで飛べなくしてしまえば良い。
「竜巻、用意。着地と同時に放て」
「はいはい」
ペルソナが手を離して上昇していく。と、同時にヴェントは自分の速度が落ちることに気付く。飛ぶのはペルソナの方が速いようだ。
「おまえっ」
「追い付かれる、インターセプトする」




