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東方ヘノ遠征

 城郭都市を前方に控え、陣を整えた軍団があった。センタクスの正規軍、数としては二千ほど。それを率いるのは若き将、レクトだ。帰還して報告をする際、証拠もなくまた〝神殿〟内部のことに触れると不味いと分かっていて、だからこそ嘘の報告をした。その結果がいまここにある。

「いいか、今回の任務は先の災厄によって放棄された城郭都市を占拠、及び実効支配している武装集団の排除、都市の解放だ」

 崩れた城壁の向こう側、都市の内部の様子は分からないが、さらに向こうではセンタクス軍の軍団がまた別に二つほど展開している。総数としては六千、事前情報では元カザークの傭兵たちが立てこもっているらしい。本当ならばこれだけの規模をぶつけたとしても、制圧し終わった頃には全滅の判定が下る。それだけの損害を出してまで攻めるのは、放っておいた場合に考えられる損害の方が大きいからだ。

 しかし……。

「あー……おれがしきかんだーいうこときけー……ダメだ、やっぱり僕は少数部隊の方が……」

 誰も言うことを聞いてくれない。若いから、そして貴族でもなければ名門でもない。たったそれだけ揃えば十分だ、どんなに凄いことをしようが、証拠がない。とくに瘴気の件など誰かの手柄を横取りしたんだろうと、もともと率いていた隊員以外からは陰口や嫌がらせばかりだ。

 今までの主な任務も外部部隊の指揮や少数部隊を率いての奇襲などが主だった。大軍団を指揮したこともなく、頼りになりそうな副官はいない。取りあえず開戦の合図で勝手に突撃してくれるだろう。

 そもそも、表向きは城郭都市の奪還だが、レクトが受けた命令はできる限りこの部隊を損耗させろというおかしな物だった。どうも今回に合わせて引き抜き、再編された〝使えない連中〟の寄せ集めらしい。その中でもとりわけ死んで貰った方が遺族に払うカネも何もなく、将来的に考えれば減らして人員補充でまともなのを増やしたいとかいう物だ。

 相手が元カザーク、ならば放っておいても全滅するだろう。壊滅してくれていい。

 そんなことを思っていると城壁付近で爆発が立て続けに起こり、空に爆炎が上がった。開戦の合図……にしては大きい。おかしい。


 ---


「うひょー凄いねー」

 アーヴェが空を見上げてそんなことを言う。今しがたホノカが設置した鉄の筒から放たれた鉄の塊が空の彼方で炸裂して爆炎を散らした。降ってくる破片などはなく、音と衝撃波が砂埃を少し舞い上げる。

「迫撃砲、だよね……それ」

 と、ミコト。

「説明書にはそう書いてあるけど、なんかちがくない?」

「それ砲弾が違うんです。こっちに書いてある……えと、ちゃくはつしき? って言う方を使うんだと思います。いまのは、くうちゅうさくれつしんかんっていうものです。」

「ユキちゃーんちょっち貸してみ。空中炸裂信管……対空砲弾、制空砲弾、燃料気化砲弾、対地榴散弾いまのどれ?」

「燃料気化じゃない? あ、これ面白そう、長距離使用すること・消失弾頭ってやつ」

「怖そーそれ。やめとかない、危ないって」

「だいじょーぶだいじょーぶ書いてあるとおりに角度合わせて砲弾入れて」

 キュポンと気の抜ける音を立てながらも、その飛び方は戦車砲から飛び出た砲弾よりも速く大きな弧を描いて城壁の向こう側へ。

「…………?」

「不発?」

 やけに静か……思った矢先に地震が起きて、おおよそ着弾したであろう場所に土煙の柱が上がった。

「やばくなーい」

「思ったより凄かった、次これ」

「おっけぃ」

「無駄遣いはやめた方が良いと思いますけど」

「いいじゃん、弾は一杯あるんだし」

 ぐいっと指差す先には百発ほどが山積みにされていた。危ないがどうでもいいらしく、取りあえず専門家の指導もなくスコールの書いた説明書通りに合わせて砲弾を放り込んでポンポン撃っている状態だ。

「もうちょっと右向けてみて」

「これくらい?」

「たぶん、ほいやってみよー」

 次々と放たれる砲弾、本来この場所に存在してはいけない〝兵器〟だが持ち込んだ側は気にもしていない。しかもちょうどレクトが布陣していたところに着弾し、微調整のまねをして変えられた角度と方向は偶然にも回避した場所を的確に狙っていて――

 そんなこと知るよしもなく、少女二人はガンガン撃った。

 実際の光景を上空から見下ろしていたヴェントは、一人後方へと走って行く敵兵を確認した。腰に剣を下げてはいるが、格好からすると指揮官なのだろうか。指示も出さずに一人で逃げる、それは許せることではない。しかし指揮官が一人で、つまり護衛がない。捕まえるには好都合、人質として交渉材料にでもしてやろう。

 加速しながら急降下、姿をしっかりと捉えたところで姿勢を反転、蹴りをぶちこもうとして伸ばしたその足を蹴られた。

「いづっ!?」

 姿勢が崩れる、不安定な状態で上昇、立て直そうとして体に糸のようなものが絡みついていて――

「これは――」

 ペルソナが使う鉄の糸。暗殺任務で使っているというのは聞いたことがある、気付いたときには手遅れ、人の首、皮、肉、骨まで一気に切断する凶器。入手性が悪く自分で生成する術もないからと、無闇な使用はしてこなかったが、使ってくると言うことは、敵として見られているのか。

「何のつもりだ!」

 地上に、糸を辿って見つけた姿に叫ぶ。いつもの、仕事の時の無表情だった。斡旋所で見る無表情とは少し違う、感情の欠片もない顔。糸を握る手が引かれ、体が落ちる。魔術が霧散して、風が逃げる。

 それがペルソナの――思いかけて、違うと知った。明らかに自分を狙った照準が放たれていた。落ちる、引っ張られ、数瞬前まで飛んでいた空間を砲身のような魔術が突き抜け、光が焼き尽くした。

「げはっ」

 地面に叩き付けられた。

「返せ」

「ちょっ、なにをっ」

 ペルソナが手を伸ばし、ヴェントが背負う三尺刀を奪い取る。

「……そういや、お前のだったな」

「抜けない」

 ガンガンと柄を叩いて、股に挟んで力一杯両手で引き抜こうとするがまるで動かない。諦めるかに思えたが、両手で振り上げ、思い切り地面、露出した岩に叩き付ける。二度、三度、何度も叩き付け鞘が割れる。久方ぶりに日の光を浴びた刀身は、錆び付いていた。

「俺は何もしてねえからな」

「つまり手入れすらしていないと?」

 首元に刀が添えられる。見たことがない、不思議な模様を持つ刀身。

「あ、いや、そ……うだ、です。やめろ、下ろせ」

「もう用がない」

「元仲間だろ」

「そう〝元〟で、今は他人」

「他人でもお前、いままで――」

「さよなら」

 首を刎ねようと刀を上段に構え、嫌な感じがして二人とも飛び退いた。

「照準波……また」

「分かるのか」

 光は一瞬で到達し、砕け散って青い破片の雨を降らす。何が起きたのか分からなかったが、ペルソナが小さな声で呟くとおおよその発射方向、地平線付近で爆発が起こる。

「ペルソナ、行くよ」

 そっちに気を取られていると、先ほど蹴ろうとして蹴られた指揮官がいた。

「分かった、レクト。これからの予定は」

「封緘命令に従って東方、グランバルへ向かう。そこで先行部隊と合流」

「了解」

 素直に従っているペルソナを見て、疑問に思う。こいつは仕事として契約を交わしても、目標だけ確認して後は勝手にやる口だ。

「なんでこんなやつに従ってる、ペルソナ」

 それを無視して歩いて行く。

「ヴェント、ペルソナもう君が知ってるペルソナじゃない」

「……そうか、思い出した、お前は神殿を攻めたときの指揮官だったか。あいつに何をした」

「何も。僕は彼女がやりたいことを手伝うだけ、そのために僕のことも手伝って貰う。それだけだよ。君も来るかい? あっちはもうダメだろうけど、僕は支援しない。より上位の命令があるからね」

 城郭都市は被害を受けず、しかし攻めたセンタクスの軍は逃走に移行しながらも被害を増し、追撃する少女たちの砲撃の雨、元カザークの傭兵の苛烈な追撃。アレならば放っておいたところで陥落する事はあり得ない。

「いいだろう、一緒に行ってやる」

「報酬は何がいい」

「ペルソナを返せ、それだけだ」

「それは彼女が決めることであって、僕が決めることじゃないよ」



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