襲撃者ノ末路
「さて……どうするか」
最後は自分でやったとは言え、どことも知れない平原の沼地に墜落して降り注ぐ積荷や馬車の破片から逃れる為に数分潜っていた。泥だらけで藻だらけで、酷い腐敗臭にまみれて足に絡みつく水草を引き千切りながら沼から脱出する。
陸地に上がってよく沼を見ればところどころに特徴的な目を出してこちらを伺う動物、肉食の爬虫類が……。よくもまあ潜っている間に襲われずに、そして何事もなく脱出することが出来たなと思う。
「あいつらは……」
目を閉じて風の流れに感覚を澄ます。
いない、近くには瀕死の狼と息絶えた骸が転がっているだけで彼女たちの気配がしない。まだ使いこなせていない風の力では、遠くの存在までは感じ取ることが出来ない。
さすがに管理を任された手前、死なせたとあってはうるさく言われるだろうし分からなくなって放置というのはなおさら悪い。最悪の場合は、死体だけでも回収して処分する必要がある。
前回は管理を任された〝個体〟を仕事中に強奪された挙げ句〝神殿〟の神官連中の傀儡にされてかなり怒られた。奪還をすると言っても誰もついてこなくて、そしてまた同じように任されたのを失ったとあってはいよいよ後がない。
「はぁ……めんどくせー」
ポケットから笛を出して口につけ、息を吹き込む。腐敗した泥と吐き気を呼ぶ臭いを我慢して、何度か吹くと遠くから狼たちの遠吠えが帰ってくる。
大まかな位置はそれだけで把握できる、後は彼女たちをどうやって捜すか。手っ取り早いのは狼たちと合流して捜させるのが良い。ついでに散らばった積荷を集めさせるのも良いだろう。
間を置きながら笛を吹き、良い風が通り抜ける平原を進む。
余所と比べると比較的魔物は弱く、盗賊も大したものではない。襲われたところで困らないし、人目がないから遠慮無く戦える。むしろ今は戦って発散しておきたいところだ、無駄撃ちして辺り一帯結晶化させて……一番早いが後始末が面倒だ。
散らばっている積荷を集めながら、何の気なしに風の刃を放つ。雑草が引き千切られて、風に乗って飛んでいく。草刈りには使えるが対人戦闘ともなるともうちょっと威力が欲しいところだ。
「使えそうなもんがねえし」
集めて捨てて集めて捨てて、一度上空に巻き上げて地面に叩き付けられたものの中に売れそうな物はなかった。
「何もないし、遊ぶかっ!」
振り向きざまに風の刃を乱発した。
「うぇあっひゃいっ! いきなり!?」
「アーヴェって言ったか? ちょっと付き合え、魔力が空になるまででいい死なずに的になれ」
不意打ちを狙ってきたところに不意打ちのカウンター。変な姿勢で急な回避行動を取ったせいかあちこちぶつけて擦りむいてアーヴェはすぐに動けなかった。
体中に噛まれた後があって血も出ているが、放って置けば感染症で膿んで壊死だ。
「ちょぉっとおにーさん、このかわゆい女の子に――」
ドォッ! と地面が根こそぎ、真横ギリギリ当たらないほどが吹き飛んだ。
「……マジで」
「殺そうとしてきた相手を生かしておくほど優しくはないんでな」
「あのー……あたし処女なんですけどぉタダでヤらせて――」
ドォッ! と。今度はさっきの反対側が吹き飛んで空の彼方に散った。
「鬼ごっこしようか、捕まったら娼館行きで」
積荷の稼ぎが望めなくなった以上、別のところで利益を上げなければいけない。目の前には結構傷がついてしまっているが、商品価値が高い品が転がっている。こいつと、もう一人魔術師が死んでいなければそいつも捜して。
「いっ……」
「三十秒だけ待ってやる」
「や、ね? 立てない、腰抜けたの、おにーさん? え? なに、その目マジな話なの?」
そうして返答のないまま三十秒、腕の力だけで逃げることなんて出来ずアーヴェは肩に抱えられて運ばれていったのだった。




