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ナインテイルス ~異世界九尾語り~  作者: クルマキ
五章 その手を取って君の名を呼ぶ
98/102

空が裂ける

-1-


「あの子なら何とか出来るかもしれない、けどそれが出来るならもう止められないかもしれない」


視線を広場中央に向ける、この場にいる誰よりも魔力を持っている存在、何とか出来る可能性があるならあの子しか思い付かなかった。


「魔力の使い方は分かってたみたいだったから、出来るとさえ分かったら後は私以上にうまくやれる……と思うよ」


あの子が魔力を初めて使ったのは私が使った後、私のを見てそういう事も出来ると分かったからだと思う。


あの魔法陣が自分に害意があると分かれば、それを排除しようとしてくれる筈、結局問題を先送りにしているだけだけど、今はあれを何とかしないとクルクスは……


「……責任は俺が負う、やってくれ」


「止めないんだ?」


「お前たちにとっては愛想の悪い街でしか無いかもしれないがな、俺にとっては長く世話になった守るべき街なんだ、守る事が出来る可能性が少しでもあるならそれに賭ける、それに……上の連中が好きにやってるんだ、俺も好きにやらせてもらう」


「愛想が悪いのは助けない理由にはならないよ、時間もないし早くしないと、シルバは……一緒に来てくれると嬉しいかな」


鎖を壊してあの子を解放する、その後は……この状況を解決してくれる事に賭ける、私たちだけなら逃げられただろうけど、シルバがそうしたくなさそうだから仕方ない。


急いで広場の中央、鎖で身動きの出来ないあの子の元に向かう。


近付くと鋭い視線を感じる、気にせず周囲の状況を確かめる、周囲には特に違和感はない、明らかに違和感があるのはこの鎖だけでさっきみたいな歪みは見えない、助けてすぐにまた捕まるって事にはならないだろう、それに今度は私もいる、そうなる前に助けられる。


魔力で編み上げられた鎖、初めて見る魔力とはいえ仕組み自体はそう変わらない筈、魔法にはそれぞれある程度決まった魔力の形がある……と思ってる、感覚的な所だから上手く説明は出来ない、ともかくそれを崩せば形を保てずに魔力に戻る。


鎖に触れ、魔力を順にほどいていく、初めて触れる魔力だ、とはいえ触れるならどうとでも出来る、一つ、二つ、そうやって続けていくと次第に鎖は形を保てなくなったのか、僅かに歪みを残しながら消えていった。


これでやっと一つ、このまま続けてたらどれだけ時間が掛かるか分かったもんじゃない、けどそれをきっかけに鎖が一斉にひび割れ始める、ピシ、と短い破裂音を何度も響かせ少しずつ押さえ付けられていた体を起こそうとしている。


この鎖が壊せると分かった、方法は……私のを見て分かったんだろう、ここまで覚えが早いともう本当に手がつけられないかもしれない。


……少しボーッとしてたみたいだ、鎖が壊れ始めるとシルバは私の腕を掴み、近くの物陰に身を滑らせた。



-2-


鎖が完全に砕けると、身震いし押さえ付けられていた怒りをぶつけるように大きく吼え、周囲を見渡す。


今は私たちに注意を向けさせるべきじゃない、このまま身を隠して成り行きを見守る方がいいだろう、どうしても駄目そうならこっちで誘導するつもりだったけど外壁に相対すると威嚇するように再度吼えた。

魔力の流れがより激しく、竜に向かっていくのがはっきり分かる、周囲の街灯が不規則な点滅を始めたかと思えばすぐに壊れたのか明かりは消えた。


外壁に浮かんでいる魔法陣が竜に引き寄せられるように歪んでいく、魔法陣を作っていた光の軌跡はさっきまでの整然とした動きから不規則な動きに変わり、ゆっくりと動きを止めた。


竜は力を込めるように身を屈め地面を踏み締めると目の前に巨大な魔法陣が浮かび上がる、あれは……外壁に浮かんでいた魔法陣?


「■■■■■■■■■!!!!」


怒号のような咆哮と共に竜の口から放たれた光が魔法陣に吸い込まれる、魔法陣は青白く光り始め輝きを増していき……そうして魔法陣の輝きが限界を迎えた、ほんの一瞬辺りから音が消え時間の感覚が引き伸ばされたように感じた。


閃光と轟音と衝撃、姿勢を低くして、壁にしがみつくようにして何とか持ちこたえる。


状況が収まるのを待って顔を上げると辺りの景色は一変していた、


さっきの衝撃で荒れた広場、辺りには割れたガラスが散っていて日の光を受けて光っていた、真っ直ぐに線を引いたように抉れた地面、それを視線で追っていくと一目で異変に気付く。


外壁はまるでその部分だけ最初から無かったように、抉り取られ向こう側の景色が見えた、雲のくり貫かれた空から差し込む太陽の光を受け、煌めく姿には神々しさすら覚える、あれが敵意を持っていなければどれだけよかったか、あれと対峙する事がなければどれだけよかったか、この場に居合わせてしまった事を後悔してしまいそうになる、それだけ圧倒的な力。


……それでも逃げる訳にはいかない、あそこにはティルがいる、絶対に何とかしないと。


正攻法で戦っても勝てる相手じゃない、そもそも勝つ必要がある相手じゃない、今必要なのは動きを止める事と魔力を引き剥がす事、ビバさんがやれると言った、ならそう出来るようにするだけだ。


「防御はこっちで何とかするから、おんぶよろしく」


言い終える前に私の背中に跨がり身を屈める、重さはあまり感じない、防御は何とかしてくれるビバさんの言葉を信じて強く地面を蹴り一気に懐に飛び込む。


足の間を通り抜けるのと同時に一閃、僅かに抵抗を感じつつも何とか足を一本斬り落とす。


さっきよりも魔力の消費が激しい、加速するにも停止するにも想定していた通りに動けない。


竜の放つ魔力の塊が辺りを見境無く蹂躙する、私目掛けて放たれる筈の魔力が不自然に軌道を変えた、放たれ続ける魔力が私を避けるように曲げられていく。


続けて一閃──足を斬り落とす筈が輪郭をなぞるように太刀筋を歪められた、ビバさんのしている事と同じことを見ただけで真似されている。


想定していたのとは違う軌道、崩れる筈だった姿勢が見えない何かに支えられ、そのまま強引に前に押し出し、攻めの手を決して緩めない。


もう抜いて纏っただけの魔力じゃさっきと同じ結果になるだけだ、出し惜しみしてる場合じゃない、刀身は抜いたまま鞘に込められてる魔力全部を使ってきっかけを作る。


少し力を加えると鞘から一気に魔力が吹き出す、長くはもたない、この短い時間で最大限やりきる。


地面を強く蹴り足の間を通り抜けるのと同時に鞘を振るい僅かに抵抗を感じつつも何とか残りの足を斬り落とす、いつもより魔力の消費が激しい上に加速するにも停止するにも想定していた通りに動いてくれない。


元々短い時間、僅かな無駄でも大きく響いてくる、鞘の魔力はもう持たないだろう、それでももう一撃、この位置から狙えるのは……首だけだ。


これが最後、次の攻撃の事は考える必要はない、全身全霊で、魔力を爆発させ飛び掛かるように突き立てる。


魔力の刃は確かに首を貫いた、ただ首を落とすには間に合わなかった、鞘を纏っていた魔力は突き刺した所で霧散し、勢いを殺しきれないまま鞘を支点にして空中に放り投げられる。


後はビバさんに何とかやってもらうしかない、いつの間にかビバさんは背中から飛び出していて傷口に突き刺さった鞘を掴むと傷口から濁った青い魔力と色の無い魔力が同時に噴き出し、色の無い魔力はすぐに掻き消えていく。


軌道を整え竜の頭に着地した瞬間、何故か浮遊感を覚えた、景色が傾いてさっきまで確かにあった筈の足元の感触が無くなる、自分で首を斬り落とした?これ以上魔力を奪われないようにするために?


さっきまであった筈の頭が魔力へと霧散したかと思えば、すぐさま形を成し振り下ろされる。


不意の一撃、回避は間に合わない、今やれる限りの全力で防御するしかない。


正面への防壁、強度も範囲も何もかも足りない、受け止めきれる訳もなく防壁は砕かれ魔力ごと地面に叩きつけられる。


「ぐぅっ……!!」


意識が朦朧とする、何とか立ち上がろうとしてもふらついて上手く立ち上がれない、私の頭上に魔力が集まっていくのが分かる、早く動かないと……


「シルバ!」


ビバさんが私の前に立つと私達を覆うように防壁が形成され、魔力同士がぶつかる高音が響き続ける、絶え間ない攻撃でここから動く事が出来ない、このままじゃ……いつか押し潰される。


防壁の内側からじゃ外に対して干渉できない、どうすればいい?どうすれば……


「一番から六番!放てぇ!!!」


どこからでもよく通る号令が響くのと同時に低い轟音が絶え間なく鳴り響き続ける。


「注意を引き付けろ!砲撃を絶やすな!」


魔力同士のぶつかる音が止んだ、代わりに今度は低い衝撃音が絶え間なく鳴り響く。


隙を作ってくれてる……?考える間もなく、ビバさんは私を担ぎ上げ砲撃の合間を縫うようにここから離脱する。



-3-


……意識がはっきりしてきた、遠くからは絶えず轟音が聞こえてくる。


すぐそこにはビバさんと……さっきの衛兵の偉い人がいて何か話しているようだった。


「今はまだ竜の攻撃を砲台の防壁で凌げているが……それも時間の問題だろう」


「わがまま通してもらったんだから責任は取るよ、避難は終わってるんだよね?」


「確認は住んでいる、が……そもそもどうにか出来る物なのか?」


「……私なら出来るよ、さっきシルバが……そこの子が言ってた事についてだけど、竜人がしたって事なら少しはマシになると思う、解釈は個々人に任せられるけど、人が殺すよりはずっとマシな筈だよ、それと頼みがあるんだけど外壁にある魔力を使わせてくれないかな、まだ生きてるみたいだから、それで何とかするよ」


「凄まじい注文だな……いいだろう、話は通しておく、だが援護には期待するな」


「協力的で助かるよ、後は……」


私が起きたのに気付いたようで、話をそこで終えると衛兵の人に目配せすると離れていった、二人で話したい事があるのか、私の隣に座る。


「結構派手にやられてたけど大丈夫?」


「そこは何とか……死ぬ気ですよね?」


「バレてるか、まぁ死ぬって決まってる訳じゃないし運が良ければ生きてるかもしれないし……けど、探してた子の事は、ごめん」


「謝られると反応に困るんでやめてください」


誰も犠牲にならずに、ティルを助けられる方法、そんな都合の良い方法があれば良かった、自分の願った通りに物事が進む訳じゃない。


どうしようも無かった、他に手は無かった、仕方がなかった……色々諦める言葉は簡単に浮かんでくる、ティルを助けられなかった事、ビバさんが犠牲になろうとしている事。


「遺言あるけど聞いとく?」


「……ちょっと考えさせてください」


あの時のラズリアもこんな感じだったのかと、ふとそんな事を思った、違うのは私は別に死ぬ事を受け入れられない訳じゃない事、けどまだ諦めた訳じゃない、まだ少しでも可能性があるのならやるべきだ。


何か方法は……魔力を逸らす方法を見ただけで理解した、なら防壁も同じ筈、だとしたら……もう傷をつける事も難しい、鞘の魔力はもう空で使えない、今の私に有効な攻撃手段は無い、傷をつけないと魔力を吸い出せない、この時点で今までの方法は使えない。


竜に攻撃が通る方法があるとすれば……ビバさんなら、何とか出来る、殺す事が出来るなら当然出来るんだろうけど、それをすればビバさんは死ぬ。


他に魔力を引き剥がす方法、殺さずに済む方法、ビバさんを犠牲にしなくても済む方法、ティルを助ける方法、……魔力を引き剥がす方法?


「……魔力を込めようとすれば、いいんですよね?」


「そうだけど、さっきみたいに傷を作るのは多分もう無理だよ、亀裂からしか魔力は吸い取れないから」


「いや、そうじゃなくて……さっきの魔法陣に割り込めませんか?」


この鞘に魔力を込める時に少しずつ込める理由は一気に込めると魔力を持っていかれるから、魔法陣に魔力が満ちる事で魔法が発動するのなら、鞘をそこに割り込ませ竜に魔力を込めさせればそこから連鎖的に魔力を引き剥がせるんじゃないかと。


しばらく考えると


「可能性は確かにあるけど……問題が多いね」


魔法陣を使わせるだけの状況を作る、もう一度あれを使わせる程の状況、間違いなくその必要があると思わせる程の危機、仮に魔法陣を使わせられたとして近付けるのか、近付けたとして魔法陣に割り込むのはそもそも危険で、もし魔法陣が欠損してしまえば中に込められている魔力がどうなるか分からない。


「殺そうとすれば、魔法陣を使って止めようとしてくれる……といいんだけど、そこからは先は……」


「そこから先は、私が何とかします」


確証は無い、作戦と呼べる作戦も無い、ただ目的に向かって行き当たりばったりで、失敗する可能性だってある、それでも可能性があるのならやるべきだ。


「……けど、忘れないで、駄目って判断したら私はあの子を殺さないといけない、ギリギリまでは待つつもりだけど、巻き込まれないでね、そんなの嫌だから」



-4-


外壁の上部、街を一望出来る場所、破壊の痕跡をこうやって見ると凄まじさにげんなりする。


外壁の上部に向かっていた魔力の流れはまだ感じられる、準備は出来てる、魔力を引っ張ってきて自分に繋げる。


深く息を吸って、深く吐く、手加減は出来ない、精々やれるのはギリギリまで引き伸ばすぐらい、シルバがやってくれればそれが一番いい。


遺書は一応書いておいた、無事に終わればそれがいいけど準備しない訳にもいかない、書いたのはハーリング支部の事とクルクスの事、支部は私がいなくても大丈夫だろうから業務連絡程度、クルクスにはこれから支援が必要だろうからその要請と支援内容、衛兵の人にも話は通してある、結局個人的な事を書く時間は無かった。


書くとしたら……まずはロナさんかな、色々お世話になったし、後はダレン爺とアルナイルさんにも、実家には書かなくていいや、後は……考えるとキリがない。


シルバにはちゃんと話しておいた、謝る事とかお礼とか、謝るのはルシアを見つけられなかった事、あの時すぐに見つけられていれば、学校を辞めて冒険者になる事もなかったかもしれない、それから探していた子を助けられないかもしれない事。


お礼は……改めてになるけど、あの時シルバがいてくれなかったら私は死んでたんだからそのお礼、分かってはいたけどあんまり良い顔はしなかった。


思い返せば伝えたい事ばかり、私の知ってる人全員に伝えたい事が残ってる、今生の別れってなるとやっぱりキリがない。


……死ぬと決まってる訳じゃない、そうは言ったけどシルバも信じてはいないだろうし、私も言っただけでそうは思ってない、ここにある魔力だけじゃ間違いなく足りない、それにあまり自分の中に入れるべきではないと思う、あの子がああなったのと同じ魔力だ、だから使うのは外側にだけ。


魔力が集まっていくのを感じる、もう一度深く息を吸って、深く吐く。


魔力の奔流がいくつもの魔法陣を作り、それを何重にも重ね合わせ巨大な一つの砲身を形作る、あの子を殺す為の物。


後は……指輪を外す、この指輪は制御出来ずに自分の体を壊すようになった私の魔力を抑えるための物、あの子を殺すにはこうしないといけなくてそうすれば私は間違いなく死ぬ。


酷く耳鳴りがする、まだ自分の魔力を使っていないのにこの様、とはいえやることに変わりはない、覚悟も同じ。


「……頼んだよ、シルバ」


出来るならば使うことが無いように。

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