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ナインテイルス ~異世界九尾語り~  作者: クルマキ
五章 その手を取って君の名を呼ぶ
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ハーリング支部にようこそ!

-1-


少し早めの粗末な昼食を食べ終え一息つく。


マーチェスを出て三日目、そろそろハーリングが見えてくる頃だ。


クリミナとエスリックの国境沿いの街、立地の都合もあってエスリックに関わる輸出入品は一度この街を通る事がほとんど。


おかげでクリミナの中でも活気のある街で他種族との交流も多いからか他種族排斥も強くない、警備がしっかりしてるから、というのもあるんだろう。


しばらくは来ることも無いと思っていたけど、ここを出て数ヶ月でまた来る事になるとは思わなかった。


休憩も終えてそろそろ行こうかと思った所で何か重たいものが動くような振動を僅かに感じた、継続的にどどど、と響く弱い振動、地震……では無さそうだ。


辺りを見渡し原因を探す、少なくとも何か起きてるのは間違いない、何か見て分かる異常がある筈。


辺りを見渡すと遠くの方で砂埃が上がっているのが目についた、その砂埃の前に運搬用の大型魔動機が走っているのが見えた、その後ろから巨大な黒い半球が追い掛けている。


急いで方向転換し最高速で向かう。


オオヨロイ、天敵がほとんどいない魔物でその理由は全身を覆う硬い殻と単純にその巨体、殻の内側で子供を育てるおかげで外敵に数が減らされる事も滅多にない。


この近くの湖に生息していたとは思うけど街道にまで出てきた原因が何かある、人為的な物か、自然的な物か、どちらにせよ野放しにすれば被害が出る。


魔動機に追い付くと側面に回り込み、扉を魔力で叩いて到着した事を知らせる。


「まだ走れますか!」


「あ、あぁ?!ずっと全速力だからよ!いい加減炉心休めねえとぶっ壊れちまうかもしれねえ!」


「こっちに引き付けます!」


速度を落としオオヨロイと魔動機の間にトライクを滑り込ませる。


オオヨロイの殻は隙間無く何層にも重なっていて頑丈で強固、だが内側はそうでもない。


罠を仕掛けて下から殻の内側を攻撃するのが定石、今はそんな状況では無いから無理。


殻の上から強い衝撃を繰り返し与えれば弱らせる事はできる、だけど今の装備だとそれも無理。


ダレン爺から試験品が返ってきていてよかった、そうでないとこんな方法取れなかっただろう。


位置を調整してオオヨロイの斜め前、直進してもぶつからない距離にトライクをつける、ここまで近付いても狙いを変える様子は無い。


鯉口を緩め一閃、すれ違い様に切っ先が殻を裂いて、止まらないオオヨロイに沿って青い残光が真っ直ぐに走る。


手応えすら感じない、ただ通る道に刃を置いているだけ、巨体が通り過ぎると同時に滑るように地面を転がり砂埃をあげた。


衝突しないように急いでハンドルを切り、一旦様子を見る。


これで注意は引き付けた筈だけど殺すにはまだまだ足りない、まだバランスを崩して転ばせただけだ。


オオヨロイはすぐに体を起こし私の方に向き直ると、怒りをぶつけるような不快な鳴き声をあげながら外殻を震えさせ甲高い音を立てる。


刃が通る以上殺すのに支障は無いだろう、後始末の方法については後で考えよう。


改めて気を入れ直して、動こうとした瞬間


「よいしょぉっ!!」


聞き覚えのある声がオオヨロイの真上から聞こえ、鈍い殴打音が短い感覚で二度辺りに響くと途切れた断末魔の声が一瞬響いた。


着地の衝撃で起きた風で髪が乱れ、巨体が地面にめり込み土埃が舞う、その上では今しがた殴り付けただろう拳を冷ますようにぱたぱたと振っている人影が見えた。


私と同じぐらいの背の腰ほどまで黒髪を伸ばした竜人の女性、腕を通していない片袖と細長い黒い尻尾が揺れていて、額からは先の欠けた大きな角が生えている。


「ごめん!この先にいるから追っ掛けてきて!」


私の方には目もくれずすぐに飛び降りて先に行ってしまった、ハーリングが近いとはいえこんなに早く来るとは思わなかった。


「にしても、なんでこんな所に……」


街道に出てきていい魔物ではない、縄張り争いや雌を巡って争う時以外は基本的に大人しい魔物の筈、稀に森を食い荒らす事があるからその時には討伐、もしくは誘導の必要がある、けどあそこまで積極的に何かを追い掛けるのは初めて見た。


……それにしてもどうして魔動機なんか追い掛けてたんだ?


追い掛ける理由を考えながら道なりに進むと道の端にさっきの魔動機が止まっていた、後ろには荷台を見上げている赤い鱗のリザードマンが立っている。


「あぁ、姐さんも追いついたのか、いやぁ、助かった、後でちゃんと礼はするから」


会ったのはラズリアの初依頼の時に乗せて貰ったのとラズラさんからの依頼の時、これで三回目、相手からすれば二回目だけど。


「もう一人いたと思うんですけど、そっちの人は?」


「今荷物調べてる、怪しまれるのは仕方ねえわな、しかし魔物被害が増えてるからってんで魔物避けしてた筈なんだが、やっぱり救援光積んだ方がいいのかね」


「元々多い所ではありますけどね……被害の埋め合わせはあれで何とかなりそうですけど、売る当てとかはありますか?」


「こっちには普段あんまり来ねえし、魔物の卸し先も知り合いにはいねえなぁ」


「でしたらハーリングに冒険者組合が出来たんで、そこを頼ってみてください」


オオヨロイから採れる物で一番高価なのは層状に重なった殻、切り分けて様々な用途で使われる、状態も凹んでる所と私が斬った所以外は悪くはないだろう、爪と血は薬になるし肉は珍味で取引される。


組合内に解体出来る人は居るには居る、卸し先がまだ見つかってなかった気がするけど紹介しない訳にもいかない、食べられる所は組合で買い取る事になりそうか。


「何かヤバいのでも運んでるのかと思ったけど、マーチェスの?」


「おう、こっちの方でも最近魔動機の需要が増えたって聞いたんでな」


何故か残念そうに出てくると軽い調子で荷台から飛び降り、魔動機に視線を向けたままこっちに近付いてくる。


「魔力漏れてるみたいだから何個か壊れてるかも、検品必要なら手伝えるよ、あ、補填とかその辺の事はオオヨロイの分で何とかなるから気にしないで、そっちの人もありがとね、謝礼がいるなら……」


そこで初めて私と目が合い、反応に悩んだのかそのまま数秒。


「……忘れ物?」


「したとしてもわざわざ取りに来ませんって」


さっきまでの外向けの雰囲気とは一変していつもの様子に戻った。


ヴィーヴァル、ビバさんって呼ばれてる、私が冒険者に入ったとき面倒を見てくれた人。


「姐さん方知り合いだったんか」


「そそ、私の可愛い後輩、とりあえずオオヨロイの牽引はこっちでやっとくよ、詳しい話は街に着いてからかな、すぐ追い付くから門の横で待ってて、シルバ運転よろしく」


「はいはい」


ビバさんが魔力で持ち上げて、私が運転するだけ。

こうするのが一番早いのは分かるけど、何も知らない人からどう見えるかは気にしない事にする。



-2-


街の入り口でオオヨロイに関係した手続きが済んだ、手続きに時間が掛かったせいで野次馬が集まってきている、当事者とばれて説明するのが面倒だから出来るだけ関係の無いふりをしておく。


運転手の人はしばらくここで滞在するみたいだから滞在先の場所を教えて貰って進展があれば連絡する手筈になった。


「シルバがやってくれても良かったのに」


「試験品の手続きしてたんで」


適当にそれっぽい理由で言い逃れる、実際その手続きはすぐに終わったけどやる気が無かったのが伝わればいい。


一瞬冷ややかな目線で私を見ると外壁に沿って歩いていく、ハーリングの組合は門からそれほど離れてない、外壁沿いに少し歩けばすぐに着く。


「そういえば来るの早かったですね」


「丁度ハーリングに戻ってくる途中で見つけてさ、まさかシルバに会うとは思わなかったけど」


「人手足りてないんですか?」


「あー……それについては見たら分かるよ」


説明するのが面倒なのか言葉を濁す、組合につくとすぐに理由が分かった。


少し見ない間に随分と繁盛している、丁度今がお昼時なのもあるだろうけどそれにしてもだ。


座席は埋まっているし、新しく作られたらしい入り口横の待合室では席が空くのを待っていて、その待合室にも列が出来ている。


私がいた時もそれなりには忙しかったけど、こんな風に列が出来る程ではなかった。


その地域に馴染みの無い文化である以上、まずは親しみやすくなって貰うことから……と、アルナイルさんは言っていたか。


そういう意味では間違いなく正解だったんだろうけど、組合というよりはただの食堂みたいになっている。


「大繁盛でしょ、待合室まで新しく作っちゃってさ」


体を少し屈めて私と同じように組合の中を覗き込んでいたビバさんが背筋を伸ばし自慢げに言う。


「さっき言ってた人手の話、食堂の方に結構回してるんだよね、元々依頼が少ないってのもあるんだけど、応接室で待ってて、落ち着いたらすぐ行くから」


ひらひらと手をひらつかせ小走りで裏口の方に向かう、少し遅れて私もその後を追い掛ける。

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