魔動機大国
-1-
いつもと変わらない時間に目が覚めた。
いつもよりかなり窮屈なベッドから静かに降り、カーテンを開ける。
日差しは差し込まない、曇っているが雨が降る様子は無さそうだ。
誰がベッドで寝るのかについてはティルが外れを引いてしまって結局もう全員で寝よう、という事になった。
全員の寝相が大人しくて助かった、消去法で真ん中に挟まれたティルはかなり窮屈そうだったがそこは諦めてもらうしかない。
二人が被っていたシーツを強引に剥ぎ取る、ラズリアが反射的にシーツを探して手を伸ばしているが当然そこにシーツは無い。
ティルの頭に手が触れた所でティルが目を覚ました。
状況を確認するように一瞬固まると冷静にラズリアの手を払いのけ、のっそりと体を起こす。
「おはよ、ちゃんと眠れた?」
「……微妙?」
自分でもよく分かっていないのか、少しだけ首を傾げながらそう言う。
「ラズリアも、いい加減起きないと遅れるよ」
声をかけるが反応は無い、相変わらず満足そうに寝てる、ちょっと強引だが仕方ない。
「ティル、ちょっと降りといて」
「ん」
「よっ」
ティルがベッドから降りたのを確認すると敷いてあるマットの端を掴み、勢い良く持ち上げる。
ラズリアの体が一瞬宙に浮いて、すぐにマットに沈んだ。
流石に起きたのか、ゆっくり体を起こし
「……おはようございます、先輩、ティルもおはようっす」
「おはよ、いい加減起きないとね」
深々と頭を下げ、普段と比べるとかなり低い声で挨拶を返してきた。
「二人とも準備済ませといで、私は朝食貰ってくるから」
「了解っす」
「わかった」
-2-
朝飯はほどほどに美味かった。
縦に切り込みの入ったパンに肉だの野菜だのを挟んだ物、ホットドッグと言うらしい。
味付けが少し辛いがなかなか悪くない、大口を開けなければ食べれないのが欠点か。
今いるカンネースを出たのは早朝だったが、マーチェスに着いたのは日が暮れる頃だった。
とは言え私がやることに変わりはない、ラズリアとシルヴァーグの雑談を聞き流し、時折景色を見ながらラズリアから借りた本を読んでいただけだ。
気になった事と言えば、石で出来た四角い建物らしい物がいくつか見えたこと。
相当な年月が経っているのか、風化している様子だった。
ラズリアに聞いてみるとあれは遺跡らしい、あれは入り口でまだ地下に空間があるようだ。
人が住んでいた痕跡があるとかエスリックには遺跡が多いとか言っていたか。
それから魔動機が見つかる事があるらしい、また使い方が不明な魔動機や魔具も見つかることがあるという。
掘り出された物は発掘品として市場に流れたり、研究に使われるらしい。
発掘される一部の魔動機や魔具は未だに仕組みが解明されておらず、発掘品をそのまま使っているらしい。
シルヴァーグが使っていた格納機と呼ばれる魔具もそうらしい。
大昔に何かあって製法や技術が遺失してしまったとかで、今では普及しているが魔動機に使われている炉心も最近まで製法が不明だったらしい。
魔動機が普及してしばらく経つがそれでもまだ発掘品の性能に追い付けていないと、随分嬉しそうに説明してくれた。
何でそんなに嬉しそうなのか、聞いてみると
「まだまだ上があるって事っすよ?楽しいに決まってるじゃないっすか!」
との事、気持ちは分からないでもない。
ともかくマーチェスに着いた、みたいだ。
メルヴィアで見た門と比べてかなり大きい門だ、その横で手続きを終わらせるとようやく門を抜ける。
マーチェスはエスリックの中でかなり大きい街で、魔動機技術の研究が盛んで魔動機の多くはマーチェス産の物だと言われている。
大きな川を跨ぐようにして街が作られていて川を挟んで東マーチェス、西マーチェスと分けて呼ぶらしい。
それから米が美味いらしい、具材と一緒に炒めた料理がマーチェスの家庭料理だとか。
この前読んだ古めかしい本にそう書いてあった、気になる。
「帰る際にはまた連絡する、これが報酬、それから俺がいる場所だ、何かあったら来るといい」
シルヴァーグに巾着袋と紙を手渡す。
「組合の宿にいるよ、そっちこそ何かあったら」
「お疲れ様っしたー!」
ラズリアが深々と頭を下げると背を向け壁沿いに歩いていくと人混みに紛れてすぐに解らなくなった。
さて、と言った様子でシルヴァーグが短く息を吐く。
「トライク預けたら組合まで行こうか、マーチェスの組合は宿やってたはずだし」
「中入るの初めてなんすよね!外観しか見たことなくて!」
シルヴァーグが私を抱き上げると当然視界が広くなる。
一番に目についたのは正面の大きい道を通っていくいくつもの魔動機だ。
メルヴィアとはかなり雰囲気が異なる、確かエスリックは魔動機大国と呼ばれているんだったか、遺跡が多いのも関係しているのだろう。
これまで想像もしてこなかったような景色で少し新鮮だった。
-3-
マーチェスの支部は何度か来たことはあるから場所は覚えている、確か街の中央辺りにある橋のすぐ近くだったはずだ。
立地がいいため何かと都合が良い、メルヴィアのももう少し真ん中に移動しないかとたまに思う。
中央に向かって歩いていると丁度そっちに向かう魔動機があったからそれに乗り込んで近くまで向かう事にする。
それほど人は乗っていない、まばらに何人かが座っている程度だ。
ティルを膝の上に乗せたまま座るとすぐに窓に顔を貼り付け、外の景色を見始めた。
ラズリアが隣に座って少し経つと低い音を立てながら動き始める。
何か話す事はあっただろうか、移動中に粗方やってしまったからネタが尽きてる。
考えてみても特に何も思い付かない、少々気まずいがこのままでいいか。
魔動機に少し揺られて組合の前で魔動機が止まると痺れた足で何とか魔動機を降りる。
赤いのは同じ、違うのは似たような建物が二つ並んでいる事だろうか。
メルヴィアの組合は食堂を兼業しているがマーチェスでは宿を兼業している、単に立地が良いからだろう、それに簡単な食事ぐらいなら出してくれた筈だ。
受付に向かうと旅行客は他の宿を使うのか、部屋は結構空いているようだ。
「組合の方でしたら割引が効きますが、エンブレムはお持ちですか?」
お互いに顔を見合わせた後、二人分のエンブレムを渡し、検品するようにしばらく眺めた後受け皿を取り出しそこに鍵と一緒に乗せて返す。
「……でしたら二割引きです、ごゆっくり」
「そういうのもあるんすねー」
「前は無かったと思うけど、待遇変わったのかな」
安くなるならそれに越したことはない、鍵とエンブレムを受け取り部屋を目指す。
「荷物置いて着替えたら晩飯食べに行こうか、何か食べたいのとかある?」
「米」
道中聞いてみると間髪入れずにティルが短く答えた。
あんまりに早かったからお互いにティルの方を見るが相変わらずだった。




