遠く赴く、その前に
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話を終え階段を降りているとすぐ下の机にラズリアがいた、ティルと一緒にメイから魔法の事を教えてもらっているようだ。
さっきの依頼の事を伝えないと行けないから丁度良かった。
そのままラズリアの正面、メイの隣に座る。
「どんな感じ?」
進捗を聞いてみると二人で分厚い本に目を落としていたティルとラズリアが顔を上げ
「何となく」
「ちょっと使えるようになったっすよ!」
「うん、後は加減とかその辺りの慣れかな」
いつも通りに、嬉しそうに、少し困ったように。
それぞれ反応を返してくれたが、メイの様子から察するに少し問題はあるが順調のようだ。
「なら良かった、それとこれ、さっき貰ってきた依頼書、読んどいて」
ラズリアに依頼書を渡すとティルも覗き込む。
少しして読み終えると
「この時期にマーチェスってなると博覧会っすかね、マグダレンさんも出るんすね」
「何それ」
一緒に覗き込んでいたティルが不思議そうにラズリアの顔を見上げる。
「マーチェスで年に一回、魔具と魔動機の……何て言えばいいんすかね、まぁ展示会みたいなのやるんすよ、新技術とか新しい発掘品とかそういうのを発表する感じの奴っすね、一般観覧とか出店もあるんでかなり賑やかっすよ」
「……私も行きたい」
話を聞くと見上げるような視線はそのまま、私の方に顔を向ける。
どうだろう、一応仕事だがそれほど危ない仕事ではない。
それにマーチェスに着いた後は自由にしていいと書いてあるが、この自由に、はダレン爺が書いてるのなら本当に自由にして構わない奴だろう。
ほぼほぼ観光とか旅行に近い。
「付いてきても大丈夫とは思うけど……この後店行くからその時聞いてみようか」
「ダレン爺の依頼?」
少しだけ背筋を伸ばして依頼書を覗こうとしていたのを諦めたメイが聞いてくる。
「うん、いつ戻れるかは……書いてなかったかな、それで冷蔵庫の中身空けたいんだけどその時はラズリアも一緒にどうかなって」
「おぉ、お願いします!部屋にあるの色々持っていくっすよー」
「メイも来る?」
「いつやるか次第かなー、やる日決まったら教えてもらっていい?」
「ん、分かった、じゃあとりあえずダレン爺の所行こうか」
ついでにベルにも聞いてみようか、全員と面識があるし仲も悪いわけではない、誘っても問題はないだろう。
それに食べきれないとかそういう時のために人数は多い方がいい。
-2-
「行く行く、シルバの料理久々に食べれるし」
ベルに依頼書を見せると依頼の話をするより先に私の冷蔵庫の中身をどうするのか聞いてきた時点で分かっていたが即答だった。
「ちょっと待ってて、ダレン爺呼んでくるから」
依頼書を持って店の奥に引っ込むと私たちだけになった。
ベルが戻ってくるまでの間立ちっぱなしなのもあれだから、カウンターにもたれかかるとティルを上に座らせる。
「そう言えばティルがさっきみたいに言うのって何か珍しい気がするっすね、なんかあるんすか?」
ラズリアも横に並び、ティルの頬をつつこうとするのを止められながら言う。
お互いまだ片手しか使っていないが少しずつ苛烈さを増しているように感じる。
「別に、行ってみたかったからっ」
いつも通りに言いつつラズリアの手を払うがその直後に両手で来られた為か対応しきれずつつかれていた。
「まぁ、私も行きたいとは思ってたんすよ、依頼で行くことになって丁度良かったっす」
「おまたせぃ、中で待ってるよ」
脱ぎ散らかした靴に飛び移るようにして戻ってくるとその勢いのまま普段の定位置に座る。
「ティルはこっちね、聞いても面白くないだろうし」
「ん」
「じゃあお願い」
ティルをカウンターに置いたままラズリアを連れて居間に向かうとダレン爺が胡座をかいていて、一瞬私たちの方に視線を向けるとまたすぐに戻った。
特に促された訳でもなく、丸机を挟んで正面に座るとラズリアも私の隣に座った。
「マーチェスに向かうまでの護衛だ、カンネースで一泊、その後マーチェスに向かう」
私たちが揃って座るとダレン爺が依頼書を置き、文字に沿って指を動かしつつ改めて内容を確認する。
「有事の際にはその対応を頼むことになる、俺のバイクと……シルヴァーグのトライクで移動する予定だ、格納機の手配は済ませてある、一つ使うといい、質問はあるか」
「ティル連れていっても大丈夫?何か行きたがってるみたい」
質問をすると店の方に顔を向け僅かに目を細める。
「構わんが、カンネースでの部屋は二人部屋で我慢しろ」
「えっと、護衛って移動中だけで大丈夫っすか?街の中もした方がいいっすかね?」
「移動中だけだ、今回はそれでいい、それ以外の時は好きにするといい、詳細な日時は決まっていないがメルヴィアに戻る際には連絡する」
沈黙、私の方は特に聞くこともないがラズリアは何か無いか考えている様子だった。
「何かか思い付いたならその時聞きに来い、出発は二日後、東門に一時集合、依頼の話はここまでだが……」
一拍間を置くと
「持ってきたあの魔具だが既製品ではない、恐らく試作品、それも一級魔具師の物だろう、魔具の一部のようだがまだ分からん」
「……分かった、ありがとう」
なんでそんな物があんな所にあったのか、謎は深まるばかりだ。
「それから頼まれていた治癒石だが出発までには用意しておく」
これ以上は話すことが無いのか、立ち上がると
「話はこれで終わりだ、何もないなら仕事に戻る」
最後に確認するようにお互いに顔を見合わせ
「ん、何かあったら連絡する」
いつも通りの短いやり取りを終えるとダレン爺は奥に向かった。
出発は二日後、明日の晩にやるのがいいだろうか、それまでにある程度冷蔵庫の中を整理しておこう。
「……遠征って初めてなんすけど、なんかテンション上がるっすね!」
「あぁは言ってくれてるけど一応仕事だからね」
立ち上がり店に繋がる戸を開けるとベルはティルの髪型を弄っていた様だ。
私が開けたときは鏡でティルに今の髪型を見せていた。
後ろで髪を編み込んでいるティルは少し新鮮で、尻尾が左右に揺れているから楽しんでいたのだろう。
「付いてきても大丈夫みたいだけど……どういう状態?」
「ちょっとした気分転換?髪が長いと色々な髪型出来ていいよねー、シルバもまた伸ばしたら?」
「あんまり長いのもね、とりあえず明日の夜にやるから適当に」
「あいよ」
そのまま店側に降りティルを抱き上げようとするが、いつもと違う視線でティルから見上げられているように思う。
何かを言ってほしいような、そんな感じの視線。
「似合ってるよ」
「ん」
満足したのか、両手を広げてきたので大人しく抱き上げる。
「とりあえず、準備しないといけないけど何か分からないこととかある?」
「……何をどれぐらい持ってったらいいか加減がわかんないんすけど!」
「カンネースで一泊して、マーチェスに何日いるか分からないんなら……手伝おうか、その方が早いし」
「おぉ、ありがとうございます!」
ティルは……ラズリアの部屋で時間を潰して貰おうか。
孤児院で見て貰おうとも思ったが方向が真逆で面倒くさい、この前送ったときは箱が積まれていたが今は大丈夫だろうか?
「じゃあ、また」
「お邪魔しましたー」
「あいあい、またいつでもどーぞ」




