堕天のお使い3
まず、龍の逆鱗とは龍の顎辺りにある逆さまに付いてる鱗のことだ。それに触ると龍は激しく怒るらしい。ヴリトラが教えてくれた。
それを集めろってアザゼルさんは言ったけど・・・・・・。
『無理だろ。死ぬぞ』
ヴリトラが頭の中で囁いた。まあ、ですよね。そもそも龍がちゃんとした形で実在するのかどうかも謎だ。ヴリトラと同じように人の中にいる龍の逆鱗を取るなんて不可能なんだから。
「なあ、レヴィ。逆鱗って集められるのか?」
「ん、大丈夫」
そういうことらしい。ちなみに今俺達は山の中を歩いている。見渡す限りの木、木、木! そしてたまに魔獣! 小枝は体に刺さるわ魔獣には噛み付かれるわで最悪だ。
続く森林の中に何かを見つけたのかレヴィの動きが止まり、前方を指さした。
「逆鱗、みっけ」
「えっ?」
レヴィが指さした方を見ると・・・・・・やっぱり木しかない。もしかしてグリム功績と同じように虫の形をしてるとか!?
『馬鹿言うな。でかい魔力が複数あるぞ! 気をつけろ』
ヴリトラの声を合図にするように森の茂みが動いて人影が見え隠れし始めた! ほんとに何かいる。まさか・・・・・・あれが逆鱗か!
即座にヴリトラを纏い地面を蹴る。目指すは人影。狙うは一刀両断!
「なっ・・・・・・!?」
耳に響いたのは鋼を叩いたような音。茂みの裏にいた「それ」は俺の一撃を腕で容易く弾いた。驚く程に硬い皮膚。それだけじゃない。「それ」の見た目は正しく────
「────龍」
『チッ! そういうことか! おい! 全力で潰せ! じゃないとお前が死ぬぞ!』
「了解! 第二段階────二重起動!」
ヴリトラの声に反応して鋼の翼を生む俺に相手の龍は笑みを浮かべて拳を握る。
「また誑かされる馬鹿者が来たか」
迫り来る衝撃を両手に黒炎を纏わせて迎え撃つ! 衝突する二つの龍の力。それは周りの木々を薙ぎ倒して互いの鎧を破壊していく。
「StrikeⅡ《ストライク・セカンド》!」
俺の囁きと共に俺の魔力が膨らんで爆発する。俺は黒い焦土と化した目の前の風景を見てガッツポーズを繰り出した。
「よっしゃ! 勝った!」
それにしても凄い力だ。強化されたっていうのは聞いてたけど力を使う場面が無かったからよくわかんなかったんだよな。最近は力を使っても勝てない場面とか多いし────
「誰に勝ったのか教えてもらいたいな、若造」
横から聞こえた言葉。それに振り返るまもなく地面に組み伏せられた。硬い! どんなに暴れても解けない。つーか暴れると痛い!
「邪竜を従える悪魔とは・・・・・・。生かしておく理由もないか」
俺の腕を掴む手に力が入った。このまま折る気らしい。だが────
「待って」
レヴィの声がそれを止めた。何が起きてるかは分からないが複数の呻き声が聞こえる。何となく予想はついたな。レヴィ強いもんね。
「サナ様・・・・・・」
そう呟いた龍は俺の腕を離して膝をついた。もしかしてお知り合い? じゃあ俺が戦ったのは・・・・・・余計なことをしたのかな。
「その人、レヴィの、友達。殺す、ダメ」
「このような輩がセラ様の・・・・・・? いけません! こんな下位の者と関わりを持つなど────」
「黙って」
すげえ。レヴィが睨んだだけで黙ったぞ。やっぱり魔王様の眷属なんだよな、レヴィは。色んな悪魔を知っていて命令できるなんて凄すぎる。
「本題。レヴィに、逆鱗、頂戴」
隠そうとなんて欠片もせずに可愛く首を傾げるレヴィ。いくらレヴィでもそれは駄目だろ。だって逆鱗だぜ。触れると怒るって────
「分かりました。すぐにご用意致しましょう」
────しちゃうのかよ! 怒るんじゃないのか!? そんなの軽く渡していい物なの!?
「村の者共にも言い、質の良い物を集めよ! セラ様が逆鱗を求めておる!」
俺を倒した龍がそう言うのと同時に呻き声を上げていた龍達が動き出した。村とやらに向かっているんだろう。
「レヴィ、殺す、してない。偉い?」
レヴィが龍の動きなんてどうでも良いとでも言うように俺に近づいてきて問う。個人的には殺す殺さないより凄いことが起こってるんですが・・・・・・。これ見てどう思う? ヴリトラ。
『さあな。知らん』
興味なさそうに答えるヴリトラ。なんか情けないよ、俺は。
「レヴィ、偉い?」
答えない俺にもう一度レヴィが問う。
「そうだな。偉い偉い」
頭を撫でる俺。それを受けたレヴィは嬉しそうに笑っていた。
「村中の逆鱗を全て集めました。どうかお納め下さい」
あの後、村に連れてこられた俺達は村の真ん中で口をあんぐりと開けていた。だって鱗が山になってる。俺の身長の3倍? 4倍? いや、もっとある。積み重なってる逆鱗にただただ情けなくなってくる。悪魔が恐れる龍がこれだぜ? 笑うしかない。
「いっぱい、いらない。これで、十分」
その山から3枚だけ取って背を向けるレヴィ。嘘っ! こんなにあるのに3枚! しかももう帰るの!? 知り合いなんだから話せばいいのに。まあ、レヴィが帰るならいっか。
「さっきは迷惑かけてすいませんでした。それと逆鱗ありがとうございます」
頭を下げてレヴィの元へ走る俺に龍が声をかけてきた。
「待ちなされ、邪竜の子よ。お前は何の目的でセラ様に近づく?」
「えっ? 目的? そうですね。ちょっとお使いを頼まれまして、それの手伝いをしてもらってます」
「お使い? お前のような下位の者が? 笑わせる。魔王様がお前とサナ様をここに連れてくる理由がない」
確かに魔王様ではないけどお使いは本当だぞ。てか面倒くさいな。レヴィはどんどん先に行っちゃうし。
俺はポケットから携帯を取り出してアザゼルさんからのメールを見せて言う。
「ほら、お使いです。なんでも和平が組まれたから平和のシンボルを作るらしいですよ」
これは嘘だ。反和平組織への対抗手段を作るだけ。でもそれを言うとまた面倒くさいことになりそうだから黙ってる。
携帯画面を覗いた龍達は感嘆の声を上げた。
「おぉ。アザゼルがそんなことを。なかなか粋なことをする」
「確かに象徴があれば意識も高まるだろう」
「うむ。これで私達も解放される可能性が高まったな」
それぞれの思いを語り合い始めた龍達。なんか人間みたいだ。
『なんかじゃねぇ。こいつらは人間なんだよ』
「はっ!? 人間!?」
ヴリトラの声に驚き隠せなかった。だって・・・・・・人間? この人達が? 確かに人型だけど体は鱗でびっしりだし、魔界にいるしで人間要素なんて殆どない。
驚いた俺を見て1人の龍が言う。
「龍を持つお前は知った方がいいかもしれん。龍を持つ者の末路を。付いて来い」
背を向けて歩き始めた龍に連れてこられたのは狭い家だ。昔風の藁で出来ていてすぐに壊れそうだ。
中に入ると龍が一体倒れていた。いや、厳密には龍ではないんだろう。体の一部は人間の物だから。これは人型の悪魔がこうなったのか。それともヴリトラの言う通り────
「これが龍を持つ者の末路。力を使い続け、溺れた者のな」
「力を使い続け・・・・・・って、龍の力を使うとこんな風になるんですか?」
『いや、普通はならねぇ』
龍の代わりにヴリトラが答えた。それを肯定するように龍は頷いた。
「普通は・・・・・・な。だが、俺達は普通じゃない。悪魔に命令され、無理矢理龍の力を纏い続けた。その結果、龍の力が魂に溶けて体まで変化しだしたんだ」
『龍と化した魂は戻ることはねぇ。永遠に龍に囚われて戦闘本能が暴走し始める』
えっと・・・・・・つまり、力を使い過ぎると体が龍と同じになって戦いたくなるってことか? そういえば前に力が暴走した時、体が龍になったよな。あれと同じか。
じゃあ力を使わなければ・・・・・・。
『ならお前は俺を使わずに悪魔と戦えるのか? アーサーを倒せるのか? 無理だろう。使わなきゃ死ぬ。お前はもう引き下がれねぇ所まで来てるんだよ』
確かにヴリトラの言う通りだ。でも使い続けて、最終的に行き着くのはこういう姿。それは嫌だ。
『安心しろよ。お前が自分さえ見失わなければ問題は無い。いつも以上に女の胸に集中してれば変化なんか起こらねぇ』
「そういう問題!? おっぱいとか太ももとか、そういうこと考えてれば大丈夫なの!?」
「かはは。確かに大丈夫だな」
そう笑う龍。大丈夫なのかよ! 案外弱いな、龍の力! でも安心した。今のまま強くなれば問題ないってことなんだから。
「だが、そうもいかん。力を求めれば自然と変化は起きる。自覚無く覚える場合もあるのだから」
そう続けた龍の顔はさっきの笑みなんて残ってない。その顔に映るのは悔恨と憎悪。あの時の御剣と同じ顔だ。
パンッ! と自分の頬を叩いて言う。
「大丈夫です。だって今は和平があるんですから。戦う事自体少ないですよ。それに戦うとしても俺はあなた達を知りました。あなた達の思いも俺の思いも全部背負って戦い続けます」
「俺達の思いも・・・・・・? それが何になる?」
「1人じゃなくなります。俺1人じゃ勝てなくてもも誰かと一緒なら勝てるかもしれない。そして、誰かの思いに支えられて俺は生き続けます。なんかそういうのって良いと思いません? 人間っぽくて」
少しだけ間の抜けた間が続いた。なんかかっこつけて白けた感じがして恥ずかしい。
そして、突然龍が笑い出した。
「くっはははははは! 面白いことを言う。悪魔が人間っぽさを求めるとはね。下等生物と嘲笑してた頃が懐かしいな!」
『転生だってことは黙っておけ。色々面倒くせぇ』
ヴリトラの声に頷く。あとそろそろレヴィに追いつかないとやばい。
「じゃあレヴィが待ってるんで行きますね」
「ちょっと待ってくれ。1つアドバイスをしたい」
「アドバイス? さっきは殺そうとしてたのに・・・・・・?」
「気が変わったと思ってくれ。笑わせてくれた礼だ。さっきのお使いのことだが、ユグドラシルの枝を採る時には神に会っといた方がいい。必ずお前の役に立つ」
「分かりました。アドバイスありがとうございます」
もう一度頭を下げて家を駆け出した。早くレヴィに会わないといけない────っと思った瞬間、
「遅い」
目の前にレヴィがいた。気づいて戻ってきてくれたのか。随分優しくなった気がするな。
「ごめん。ちょっと話しててさ」
「ん。次、早く、行く。終わったら、ボール」
「はいはい。全部終わったら日向呼んで遊ぼうな」
手でボールをつく仕草をするレヴィに笑って答える。次はベヒーモスの牙だ。あと二つだし、明日には終わるだろう。
それまではレヴィがサナと呼ばれた理由。そして、それを俺に隠してる理由は聞かないでおこう。
俺の心に生まれた不安。それをかき消す様にベヒーモスの存在する地────北の大地へと歩を進めた。




