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幻想教師   作者: 君島 和人
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記憶と忘却のプロローグ

※視点切り替えが多く入ります

カタカタカタカタ



とある一室でキーボードを叩く音だけが部屋一体を包む。

手慣れた作業なのか規則的に音が鳴りそこにはリズム感が生まれていた。



カタカタカタカタ パンッ!



どうやら何かを検索していたようだ。部屋はパソコンの光だけが光源でその空間には冷たい時が流れていた。



カタカタカタカタ パンッ!



「……見つけた。会いたかったよ――――」



開かれた口からは低く、絡み付くような声色。

事務的な操作を止めると男は瞬き一つ入れず扉を開けた。




「お前は逃げられない。咎之」




真っ暗闇にただただ光る画面。そこにはこう書いてあった。


komento gensoukyoushi




――――



無音を貫く一室。日が昇るころにはすべてが終わっていた。



すべて……消失していたのだ。

幻想のようにいつの間にか消えていたのだ。



――――




夢を見た。この場合夢を語る方の夢でなく、睡眠中のものである。


その映像は何度も見たことがあるような、しかしそれは少年時代の記憶で曖昧なもので断定はできないものである。




大地は砕け、森は焦土と科す。

何もない平面に朧気な月光。


そこにぼーっと立ち、双牟は『それ』を見つめていた。



球体。一言で言えばそう表現出来る。黒、赤、白、上部には言葉に出来ない様々な色が渦巻く中。下部には優しい色が広がっていた。まるで感情のように、中心には黒い斑点と白い斑点が螺旋のように渦巻く、誇張的な言い方をすればそれは「人」とともとれるだろう。



突然、少年は話し出した。しかし声は聞こえない。


表情が読み取れない。口から上が陰になっていて読み取れない。

怒っているのか、笑っているのか、それとも泣いていたのか? 


なにもわからなかった。


ただ一つだけ。この少年は唇をかみしめていた。


少年は球体に手を触れた、そして



――――



そしてそこで目が覚めることになった。

俺は何か不思議な夢を見たことは覚えていたが、思い当たる節がありすぎて苦笑した。


早速何か書いてみるか。そう思ったとき




あーたーらし~い 朝がきたーー 希望のあ~さ~がー




朝から耳をつんざくような音でラジオ体操が行われる。

きっと近隣住民も不快感にさいなわれているだろうと思う。




ガラガラガラガラ




窓を開けて伸びをする。そして




「乏しいんじゃ……いや、欠乏してんだよ睡眠が。本当いつもいつも、365日、朝が朝がうるさいわーーーお前らは朝顔か!! 」




「どの口がそんなこと言えるんだい。あーーー」


お母様、勝手に入ってこないでください。

お母様、フランスパンで叩かないで下さい。

お母様、女子力の無駄遣いは止めてください。



とは言うことはないが。断言しよう、ありえない。



「そう思うならさっさと働きに出な! 今日から一人暮らしでしょうが」



「そうだ……そうだったーー。忘れてた」


母に一喝されようやく正気に戻った俺は荷造りを終えた鞄を手に持つ。そのまま部屋を出て玄関へ。


ふう。一息吸って大声で叫ぶ。




「じゃーな母ちゃん!!! また用が会ったら帰ってくるからよ。息子大一号より」


屈託の無い笑顔で母に一時の別れを告げた。それに対して母はというと柔和な顔立ちで息子の出発を見送った。


この後俺は歩いた。ひたすら歩いた。ただひたすらに。

何せ場所が場所なのだ、田舎者の俺が都会に出るということはそれなりに足がいることで、朝早く家を出たのにも関わらず着いたのは昼過ぎだった。


回転率の良い店ならもう客足は過ぎ去ったぐらいだ。



「うわぁ、盛ってるわ。っちょ! 何あの奇抜な髪型! 串焼きにしてやろうか」



縦ロールを見た一言だった。俺から見れば天然記念物級の物珍しさで街並みも並外れた都市だった。


そう都市だった。普通に見物する分にはビル一杯。人一杯。皆さん足並みが揃ってて素晴らしいと思いつつ指を指して社畜を探してみると以外にも多かった。他にも見所があったので二つほど興味が惹かれたものを取り上げてみよう。



飲食店、ファーストフード店一つとっても見たこともない名前が多く、値段にも1000円以上のものから150円と差が激しかった。素材の差らしいが味音痴な俺にはきっと分からないのだろう。


ファッション、さっきも注目していたが髪型から服装。瞳の色からつま先ま……あっパンツ見えた。


これが見せパンというやつか。眼福眼福。


と、取り上げるところはこの2つ。反論を受けそうなので一応言っておく。


俺は男だ。以上。



「あのーすいません」


考えにふけっているところに一つ声が耳に飛び込んできた。


「あ、はいなんでしょうか」


「あの東京の人ですよね? ちょっとここの場所を教えていただけませんか?」



「ちょっといいですか? ふむふむ。あっこれ目的地同じじゃないですか。よければ一緒にどうっすか?」


地図とパンフレットから同じ場所に向かっているとわかり、提案する。

寂しくなったとかそんなんじゃないからよろしく。



「いいですね。行きましょう」


顔が近い近い。


「では行きましょうか」



このあと目的地に着くも時間はまだあることを知った俺たちは軽めの食事をとることにした。

幸いにも打ち解けるために時間がかかることはなく。ちょっと洒落たカフェで時間をつぶしたところで質問が飛び出した。




そしてここで俺は偶然にもおかしなことに気が付く。



「あれなんですか?」



指が指された場所。それは道のど真ん中だった。もっと分かりやすく伝えるならスクランブル交差点の中心、◇の形をした場所を極端に避けていたのだ。つまり大衆の動きは直進ではなくその線を越えないように回り道をして尚且つ軍隊のように統率された動きで乱れなく過ぎていく。




「気持ち悪い」


俺の第一声がこれだった。



因みに俺はさっきまで平然と直進いたのだ。こんな異端な光景に何故目が向かなかったのか、視線を感じるのは気のせいだと願いたいばかりだ。



「ああ、あれね。祭りじゃないの?」



「それ本気で言ってます?」



訂正しよう。視線は目の前の付き添い人からだった。どうやら考えすぎに終わったわけで。



「あ、空から女の子が」


「え、どこ、何処ですか~?」



すまん嘘だ。代わりに海老を頂いた。


「ちょ、いないじゃないですか。それに海老が」



「降ってきたとは言ってないぞ。でもまあ見てみな」



「あっ、本当だ。浮かんでますね」


気球に女の子のイラスト。良かったよ納得してくれて。



「って納得出来ますかー。私の海老が。ううー」



と何だかんだで時間を潰した俺達であった。




――――



世界は複雑に絡み合っている。


陰と陽単純に分ければこの2つなのだが実際は違う。根本的に違うものがある。



それは世界が一つではなく、切り離された一つの個ではなく。



世界は繋がっているのだ。今もこうして、見えないだけで、知らないだけで、視えないだけで存在している。



空間には解れがあり、そこを開けば無ではない。ただ今はそれだけしか分からないのだが……



―――



断崖絶壁。正に二時間ドラマの最後を飾る最終シーン。そこに影もなく一人立ち尽くす少女。彼女は今日も歌う。断崖の歌姫と呼ばれていた。夕闇に照らされた彼女はそれは美しく見るものに感動を与えた。


来る日も来る日も歌った。歌い続けた。その姿を見て歌狂いの少女と安直な名を付けるものもいた。それほどまでに彼女は歌い続けた……



しかし物語には、噂には落ちがないと面白くない。そう思う人は多い筈だ。




落ちはこうだ。



「……っ」



ためらっているのか、いや違う。実際には「歌い続ける筈だった」というのが事実である。




もう彼女には歌えない。羽をもがれた鳥のように、彼女は翼をもがれたのだった。声という概念が焼失してしまったようだった。心は硝子細工の様に脆く、危うさが見てとれる。


「……ッ……ぁ……」



それでも彼女は今日も歌い続ける。贖罪をするように、

彼女は今日も歌い続ける。月が世界から降りてくるまで。


彼女は気づかない。自分が少しずつ壊れていくことを。


今はまだ。気付かない――――出会いがあるまで気付かない。





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