第10章:楽園の目覚め、そして私たちのサバイバルは続く
1.恐怖の腕枕と、極楽浄土の寝言
一体、どれくらいの時間が経ったのだろう。
私は、心地よい暖かさと、どこか泥臭くて安心する匂いに包まれながら、いつの間にか深い眠りからそっと目を覚ましていた。
パチ、と瞼を開ける。
「あっ……‼️」
そこは、見慣れたシミだらけの自室の天井ではなかった。ヤシの葉と流木がガッチリと組み合わされた、手作りの簡易的な小屋の天井。
私はまだ、あの他人の視線が一つもない、平和な無人島にいる。
「よかった……。夢じゃなかったんだ……」
学校に行かなくていい、あのギスギスした教室に戻らなくてもいいんだという圧倒的な安心感から、私の目頭にじわっと涙が滲む。
心がホッとして、ようやく冷静になって周りをよく見回してみた、その瞬間だった。
私は全身の血の気が引き、思考回路がガチッとショートした。
ゴゴゴゴゴゴ……、と地鳴りのようなうるさい鼾が、私のすぐ耳元で響いている。
私はあろうことか――あのド変態の佐藤上等兵の無骨な腕を、完全に『腕枕』代わりにして、その胸元に抱きつかれるようにして寝ていたのだ。あのうるさい地鳴りのような鼾を、子守唄代わりにして熟睡していたらしい。
さらに横を見れば、佐藤上等兵が大切にしていた『携帯天幕』と、目の詰まったウールの『軍用毛布』が私たちを優しく包み込んでおり、その温もりの中で、金髪のロロちゃんも、クマちゃんも、みんなが幸せそうな寝顔を並べて固まって寝ていた。
みんなで一つの毛布にくるまって眠る、無人島の初めての夜。
「……って、エモい雰囲気になってる場合じゃないよっ!」
さすがに上等兵の鼾に辟易した私は、顔を真っ赤にしながら、彼の大きな身体をフンッ!と力任せに押して無理やり寝返りを打たせた。
「う、ううむ……」
佐藤上等兵は深い眠りの中に落ちたまま、ゴロンと背中を向けた。だが、その寝返った先には、すやすやと眠るロロちゃんがいたのだ。
「……う、うーん。ロロたん……おっぱい……」
佐藤上等兵はデレデレの締まりのない顔で涎を垂らしながら、無意識の手でロロちゃんの柔らかい身体を不躾に触り始めていた。
「……やっぱり、最低の変態だわ」
私は完全に呆れ果て、彼らを起こさないようにそっと小屋を抜け出すと、朝の尿意を催したため、そのまま薄暗いジャングルの奥へと進んで用を足した。
2.ご来光と、天然の水源地
用を足してスッキリした頃、鬱蒼としたジャングルの樹冠の隙間から、少しずつオレンジ色の朝日が差し込んできた。
「……ご来光、かな?」
私は冷たい夜気が消えていく温もりを感じて、自然と優しく微笑んだ。
その時、ジャングルのさらに奥の、生い茂るシダの葉の向こうから「チョロチョロ……」と、小さな心地よい物音が聞こえた。
私は少しだけ警戒しつつも、大好きな読書で得たサバイバルの知識を頼りに、音のする方へと一歩ずつ近づいていく。
草むらを分けた先には、岩肌の隙間から、信じられないほど透き通った水が滾々と湧き出る、小さな『天然の水源地』が広がっていた。
「わあ……! お水だ……!」
私は駆け寄り、まずは泥だらけの手を綺麗に洗い、その綺麗な手のひらで水を掬って、恐る恐る口に含んで飲んでみた。
冷たくて、びっくりするくらいすっきりしていて、美味しい。
私はその天然の真水でパシャパシャと顔を洗い、立ち上がって、木々の向こうから昇ってくる真っ赤な美しい朝日をじっと見つめた。
学校に行けなくて、他人の目が怖くて、四畳半の部屋で毎日泣いていた私。
だけど、この島には、不器用だけど命がけで拠点を守ってくれる佐藤上等兵も、ツンデレだけど美味しいお魚を運んでくれるロロちゃんも、いつでも味方でいてくれるクマちゃんもいる。
「……うん。やっぱり、もう少しだけ……ここでみんなと一緒に暮らそう」
ジャングルの奥から、目覚めた鳥たちが、新しい朝の訪れを告げるように一斉に賑やかに歌い始め、無人島の美しい1日がまた新しく始まっていくのだった。
(第1部・完 / 次号、第2部へ続く!)




