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スライムの中を泳ぎたい

 ふう、なんとかなったか。

 俺は目の前に大きく開いた落とし穴をのぞき込む。


「おい、てめえ!! どうなってんだ!」


 直径4メートルほどの穴の底では勇者が喚き散らしていた。

 他の勇者メンバー達も慌てる者や冷静に周囲を見回す者など反応は様々である。


 まさかこんなにうまくはまるとは。

 いや、まだ油断は禁物だ。

 ここまでも大変だったが、ここからが肝心。


「待っててください! 今何か使えるものを探してきます!」


 そう言って一度穴の淵から姿を消す。


「気を付けてください!」


 穴の中からおそらく聖女であろう女性の声が聞こえるがひとまず無視。

 勇者は相変わらず口汚く喚いている。こちらも無視。


 さてと。

 先ほど、首をねじられ同時に死んでいるはずのリッチーに声をかける。

 するとリッチーは何事もなかったかのように起き上がり、その場に直立不動の体勢を取る。

 うまくいった。

 思わず口元に笑みが浮かぶ。

 

 あの時、首を捻って殺したように見せかけたがそれは違う。

 この部屋の鎖を手足につけた俺はイリアにリッチーに対し指示を出させた。

 その内容は簡単である。


 ・敵を殺せ

 ・俺がいる部屋へ向かえ

 ・俺に向けて手を突き出せ

 ・倒れこめ

 ・動くな


 知性がないモンスターは簡単な命令しか聞くことができない。

 なら簡単な命令を小出しにすればある程度演技をすることはできるだろう。

 そう考えたのだが読み通りだったようだ。

 ちなみに、通常は声が届くくらいの範囲でしか命令を出すことはできないが、ダンジョンコアを利用すれば遠隔で直接命令を出すことができるようだ。

 それを応用し、イリアに指示を出させたのである。


 俺は部屋の死角になる部分に隠し置いてあったロープを手に持つと穴の淵へと戻る。

 

「ロープを見つけました! 今お助けします!」

「てめえ早くしろよ! こんな待たせやがって、ただじゃおかねえからな!!」


 相変わらず勇者はうるさい。

 それに対し焦ったような表情を浮かべながらロープを垂らしていく。

 そして、同時にリッチーに対し指示を出す。


「ユウヤさん! 後ろを!」


 叫ぶ聖女。

 そう、後ろからはリッチーが近づいてきているはずだ。

 そして、俺の口元を押えさせて穴の淵から姿を消す。

 穴の底からはリッチーに俺が襲われ、穴から遠ざけられたように見えたはずだ。

 リッチーに口を押えられた状態で喚くのも忘れない。


「ユウヤさん!」

「おい! 何してんだよ使えねえくそ野郎だな!」

「せめて、せめてロープを落としてくれ!」


 後は食糧庫から持ち出してきた何かの肉を切り裂かせながら悲鳴をあげればひと段落。

 これで勇者パーティーは俺を死んだと思ったはずだ。

 ちなみに初めて知ったけどリッチーの肉体は臭い。

 鼻を抑えられてリアルに死ぬかと思った。臭すぎて。

 腐ってるんだもん、当然だよね。

 まあそんなことはいい。

 仕上げに入ろう。


 部屋の扉を開ける。

 するとそこには廊下を埋め尽くしてもまだ足りないほどの量のスライムがいた。

 半透明の体に核を浮かべる小さい体。

 ふよふよと蠢くそれは、あまりに膨大な量に扉を開けた瞬間部屋に流れ込んできた。


 これもイリアに指示を出させ集めたものだ。

 城中のスライムをこの部屋に集めた。

 あとはこれを穴の中に流し込めば解決の予定である。


 全てのスライムに指示を出し、ゆっくりと穴の淵へと向かわせる。

 そして、穴を囲むように配置すると可能な限り素早く穴の中へと侵入させる。


「おい! スライムだ!」

「早く焼け!」


 そんな声と共に落とし穴から火柱が上がる。

 が、そんなことをしようものならどうなるか。


「ぐああああああああああああああぁぁ」

「ば、ばやぐがいふぐを…!」


 焼けたのは誰だろうか。

 全員だろうか。

 ひとまず第二の火柱が上がらないところを見るに、少なくとも術者は焼けたか2発目を撃つのをためらっているようだ。

 だが、そんな事は関係ないとばかりに次々スライムを侵入させる。


 まだ喚く声は聞こえる。

 ケガを負ったメンバーもいたようだが誰かはわからない。

 勇者は無事だったのか、それとも回復されたのか。

 まあいい。

 正直ここまでくれば回復してようがしてなかろうがあまり違いはない。


 その後も無心でスライムを流し込み続ける。

 すると、徐々に勇者の声に焦りが混じり、次第に溺れているようなガボガボという声に変化した。

 そこで一度スライムの流入を止め、残ったDPを使い落とし穴を塞ぐように蓋をする。

 そして、人の頭が一つ通るかどうか、というサイズの穴を開ける。

 そうしたらスライムの流入を再開する。


 スライムは液状といっても非常に粘土が高いため、中を泳ぐということは容易ではない。

 が、念のため脱出できないようにしておく。

 そのまま流入を続けることしばし。


 ついに、穴から聞こえていた藻掻く音が聞こえなくなった。

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