兄の苦悩とは 1
風を切る音が鳴る。
頬を伝う汗は何度も地面に落ち、拭っても拭っても滲んでくる為、何回か拭った後諦めて無視を決めることにした。
「…はっ…50!!!」
やっとノルマの半分まで来た事で、達成感と安堵感か一気に来たのか心做しか息を吐くのが重く感じた。
汗を拭い、また再開しようと集中し始めると、
「おーミカエル様、その調子ですよ〜。あと50回です〜。」
気の抜けた声が横から入り、今でも結構疲れているはずなのに、何故だろう。
怒りが込み上げてくる。
「…ルディ、なんだ。」
今自分でできる精一杯の悪態をつきながら、そちらに振り返ると明るい橙色の髪が暑いのか、肩にかかっていた髪を簡単に後ろで纏めている。
「おーこわっ、」
何が面白かったのか笑いながら、顔の横で降参と言わんばかりに両手を振っていた。
嘘つけ。
さっきまで素振りを片手でやりこなし、今も汗ひとつ滲んでないお前がそれを言うか。
「…そういえば、お嬢様今頃何してるんでしょうね〜。」
わざとらしく話を反らせるな。
「…殿下の弟君達に会っているんだろう。」
「まぁ、そうなんですけどね。王太子殿下、お嬢様をいたく気に入ってるじゃないですか。帰ってきたら婚約者になってました〜。ってなりそうだなぁと。」
空を見上げながら、はぁと息を吐いたルディはどこか疲労の表情を滲ませていた。
とはいえ、その言葉には僕もうっ、となってしまった。
妹は公爵家の娘であり、王太子であるユリウス殿下との婚姻をすれば、殿下は地位の向上と安泰化を図ることができる。そして、公爵家はその後の繁栄に。
何よりも、この前の彼女の誕生日で見たユリウス殿下のあの表情。
一目惚れをしたのだろう。
無理もない、贔屓目なしに考えてもファナは可愛い。
遠巻きに見ていた令嬢の殆どが、ファナの可憐さに視線を奪われていた。
ファナの仕草に心奪われた令嬢もいたのか、あの後何十通もお茶会の手紙が来たのはちょっと胃が痛くなったが、
さすがにファナにはまだ早いので、それまでは丁重にお断りだ。
とは言っても、お断りしているのは父か母である。
正直、あの時見られていた本人は居心地が悪そうだったけれど。
殿下の瞳は妹の姿を捉えたあと、何度か揺らぎその後、妹との会話では少しずつ熱っぽい視線になっていた。
結局、ファナは微塵も気づいていないのか、百面相をして部屋に帰りたいと言っていた。
ユリウス殿下は笑っていたけど、多分あれは気に入ったというのも有り得るなぁ。
でも、後日妹の国語の勉強の為に、家に貴重な参考書を持ってきたのは驚きしかなかった。
それもあってユリウス殿下が妹を婚約者にしようとするのは、無理もない可能性というわけで。
僕は今更になって、手紙で妹の紹介をした事を後悔したのである。
お久しぶりです。
あらすじを少しだけ変えました。




