兄弟とは 20
母は優しく微笑みながら、そう言った。
アイシャ様のことをアイシャお姉様と。
………どういう事…?
私は首を傾げ、またアイシャ様の方を見ると、その顔色は青ざめることを通り越して真っ白になっていた。
その後ろには父がこちらへと向かってきていた。
「…貴方達には真実を話します。」
母は部屋を見渡しながら、ここの部屋にいる私達3人の子どもにきっぱりとそう話した。
ルディは、アイシャ様を後ろ手に取り押さえていた。
多分アイシャ様をこれ以上追い詰めると、誰かを傷つかねないという判断を下したのだろう。
兄や姉も戸惑いながら真剣な表情で母を見返し、母はゆっくりと首を縦にふった。
「…レミーナは私の子ではなく、私の兄、シーナ・ベルリア・ミーシャの子だ。」
”父の兄の子”
だから姉は私と同じ名字だったのかと安心したが、ここでまた疑問が浮上した。
………じゃあ、その人は今どこにいるんだ?
いるのなら、ここの当主にあたる人だ。
だが、その人はいない。
そこまで考えて、私は一つの結論に至ってしまい、さあっ…と頭の上から血が引いていく感覚に見舞われ、口の震えが止まらなくなった。
急いで姉達の様子を見ると、アイシャ様は弁解する気は無いのか口を閉ざし、姉に至っては青ざめ口を開いたまま固まっていた。
父は重々しく口を開いたかと思えば、母の顔を伺う様にこちらへと視線を寄越したが、またすぐにアイシャ様を見据えた。
アイシャ様はそんな父を見て、びくりと肩を震わせ彼からの視線を逃れるためにそのまま俯いてしまった。
そんな彼女の様子を知ってか知らずか、父は小さくため息を吐いてから口を開いた。
「……兄上は数年前不慮の事故で亡くなった。」
………やっぱりか………
「…だから、まだ幼いレミーナや傷心中のアイシャお義姉様を守るために、旦那様は周りの反対を押しきって愛人にさせたのよ。」
二人が言った真実は何とも呆気なく、悲しいものだった。
「…だが、その条件としてメアリーを含めてミカエルやファナメリアには手を出さない事。実子であるレミーナへの養育は怠らないこと。…など、最低限の制限はさせてもらっていたのだが、アイシャは、いや、アイシャ義姉上はそれを守らず、ミカエルやレミーナへ危害を加えた。」
「…二人への暴行をし、それだけでなく次はファナメリアにもしようとしているのはミカエルとレミーナの二人から聞いています。」
えっ、私ですか。
「…それは本当ですか…?」
やっと口が開けて私が出した声は誰よりも小さく、震えていた。
アイシャ様は自嘲し、小さく鼻で笑っていた。
「…憎いのよ。ミーシャ家の跡継ぎを産んだメアリーも、その跡継ぎであるミカエルも、私の言うことを聞かないレミーナも、何も知らずのほほんと生きてるファナメリアも…!!貴方達皆死んでしまえばいい!!」
「…身勝手な人…。」
ヒステリックに叫ぶアイシャ様に対して我が母は冷たい声でバッサリと切り捨ててしまった。
女の人の戦いってこええ……
でも、あれ?
「…みんな死んだら、アイシャ様ひとりぼっちになるのでは…?」
ポツリとそう呟くと、部屋にいる全員から視線を浴びた。
やだぁ、私ったら罪な女の子っ!…じゃなくて。
「え。」
特にアイシャ様は意外なところをつかれ驚いたのか、目を点にして口をあんぐり開けながら私を見ていた。
……アホ面は親子そっくりだなぁ…
「だってその皆って私達を守ってくれる使用人さん達もいるんですよね?」
私がそこまで言うとアイシャ様はぷっと吹き出し、何故か自嘲気味に微笑んだ。
「…アイシャ様?」
「……貴女みたいな呑気な子を見るとシーナ様を思い出すわ…。」
私に聞こえるか聞こえない位の小さな声で、ポツリと呟いたかと思うと、その綺麗な瞳からは大粒の涙を流し始めた。




