1-7
6日目になった。
昨日の雨が嘘みたいに晴れていい天気だ、
ついつい背伸びをする。
「うーん、気持ちいいな」
不安な気持ちは心に残るが、この世界に来てから習慣となっている、
世界樹の葉を集めていく。
元々世界樹の葉と言うだけで、価値があると思っていたが、
ハイポーションの原料になると分かった今は、
更に収穫に力が入る。
木の実を食べつつ、収穫をしていると、
動物(?)のけたたましい叫び声が聞こえ、体に緊張が走る。
「なんだ?」
この世界に来て、今まで一度もなかった事だ、
非常事態に間違いないだろう。
世界樹には結界がある、
悪意のある者は入ってこれないはずだし、
万が一モンスターだとしても、これらも入ってこれないはず。
パネルで見た情報があるとは言え、
実際はどうか知っている訳ではない、
一応世界樹の木の枝で、木刀を作っておいたが、
正直戦闘になった時、役に立つとは思っていない、
ほとんど気休め程度のものだ。
心臓がばくばく言うのを感じながら、音がする方をじっと眺める。
世界樹の結界まではほぼ平原で、視界は開けているが、
その奥は森がうっそうと茂り、まったく先が見渡せない状態だ、
心を落ち着かせる為、木刀を握りしめ、
剣道の構えをする。
すると心がすっと落ち着き、自分の感覚が研ぎ澄まされるのを感じる。
しばらくそうしていると、森から一人結界に飛び込んで来た、
その後に、全身グリーンの生き物(恐らくモンスター)が現れるが、
結界に阻まれ、グガアアア!とけたたまし声を上げている。
少しだけ様子をみていたが、すぐ反射的に体が動いた。
結界に飛び込んで来た一人が、全身血だらけだったからだ、
状況からするに、グリーンの生き物に追われ、
この結界に飛び込んで来たのだろう。
悪意や戦意があるとは思えないし、
その前にほおっておくと死んでしまう。
「大丈夫か!?」
ハイポーションを飲ませようとするが、
その人物は、飲ませようとした途端、口を閉じ横を向いてしまった。
恐らく、何を飲まされるか分からなくて、警戒したのだろう。
「ハイポーションだ!これで助かる!」
叫ぶように言うも、こちらをちらりと見ただけで、飲む気配はない、
体の力は抜け、息をするのも苦しそうなので、
かなり限界がきているのだろう。
本当は飲ませたかったが、ほとんど外傷なので、
これでも効果はあるはず!
ばしゃ!
ハイポーションを豪快にその人物に振りかけていく、
すると、深い傷だった所もあっと言う間にふさがりがった。
そして目を閉じ、失いかけていた意識もはっきりしたようだ。
再度、ハイポーションを手に取り、
その人物の口元に近づける。
振りかけた事で、外傷はほとんど完治したが、
まだ足りてないと感じたからだ。
「怪我が治った事で、ハイポーションである事は分かった
と思います。これを飲んで下さい」
その人物は、少し迷う素振りを見せたが、
その後、残りを全て飲み干した。
血の気がなく、青白くなっていた肌は、どんどん色を取り戻し、
息も正常に戻りほっとする。
「良かった、助かったようですね」
警戒されないように、優しく笑顔で話しかけるが、
相手からは何の反応もない。
社会人になって、営業に配属されて、
最初からさんざん練習させられた営業スマイル、
かなり好印象を与える自信はあったが・・・
まあ、今まで怖いモンスターに追われ、
生きるか死ぬかだったのだ、この反応でも仕方ないだろう。
「食べ物はどうですか?、何か欲しい物があったら言って下さい」
そう言って手に甘い果実を握らせ、その人物の元を離れた。
そして、その人物を見ていたが、
何か焦っているように、周りを見渡して、そわそわしている。
しかし、頼られてもいない、不審者である俺が、
何かしようとするのも違うかなと思って静観する。
もちろん、頼られたら、できるだけの事はするつもりだが。
その目の先では、グリーンのモンスターが5体程、
かなり上等そうな剣を持ち、今だ威嚇している。
指にも宝石らしき物を付けたりしているので、
かなりのお金持ちか、奪ったのか・・・
恐らく後者だろうと検討をつける。
体格はお相撲さんぐらいだろうか、
力もありそうで、普通に戦ったらまず勝ち目はないだろう。
心から結界に感謝だ。
取りあえず、世界樹の結界はパネルの情報通りだった。
パネルの情報を過信してしまうのはいけないかもしれないが、
ある程度信憑性のある情報が提供されているのは間違いない。
あのモンスターの情報は載っていないかな・・・
パネルで情報を呼び出すも、”ジェネラルゴブリン”
という種類だと分かっただけで、強さや弱点は分からない。
鑑定の能力がさほど高くないので、仕方がない。
結界の外で騒ぎ続けている時点で、あまり知能は高くなさそうだ。
とりあえず、結界の外に出ない限り問題はなさそうなので、
放置する事にした。