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伯爵令嬢に転生したら幸せになりました

それから季節は移り変わり、私たちが婚約した季節、花が咲き乱れる春になった。


窓から差し込んでくる日差しに眉をひそめながら私はベッドの中でもぞもぞと身じろぎをした。

ま、眩しい・・・・。何なの?人が気持ちよく寝てるのに。

片目だけそっと開けるといつの間に部屋に入って来たのか、マリーが窓のカーテンを開けていた。眩しさはこの所為かとジト目で見ていると私に気づいたマリーがつかつかと歩いてきた。


「お嬢様、いつまで寝ているのです!今日が何の日かお忘れですか?」


今日・・・?今日って・・・・・あっっっ

今日が何の日か思い出しサァーっと顔が青くなるのを感じた。私が急いで飛び起きるとやれやれと肩をすくめながら自分の仕事に戻っている。


「いっ今何時?もう遅れちゃった?」

「まだ朝食前の時間ですから大丈夫ですよ。ゆっくりしている余裕はありませんが。侍女たちみんなお嬢様の支度の為にずっと待機していますよ」

「えっ!それを早く言ってよ!」


まだ大丈夫という言葉に安心してもそもそとベッドから降りようとしていた私は続く言葉にぎょっとした。何しろ昨日の夜から準備に時間がかかるからくれぐれも遅れないようにと念に念を押されていたのだ。それがもうスタンバイして待っているとなると・・・・・黒い微笑みを浮かべる侍女たちの姿が目に浮かびゾッとしてしまった。


急いで侍女たちの待つ部屋へと向かった私は案の定黒い笑顔で出迎えてくれた侍女たちによってピカピカに磨かれ大急ぎでドレスを着てメイクを施してもらった。


ようやく一息ついたのは今日の大切な用事へと向かう馬車の中だった。


「つ、疲れた・・・・」


始まる前からすでに疲れた。そんな不満をこぼしていると向かいに座っているマリーがしれっと口を開いた。


「お嬢様が早く起きないからです」

「もうっ起こしてくれればいいじゃない」

「何度も起こしましたよ。ドアも何回ノックして声をかけたと思っているんですか?私もまさか部屋中のカーテンを全開にしないと起きないとは思いませんでした」


ウソ、全然気づかなかった。それだけ疲れてたのね、私。うん、そう思うことにしよう。マリーの冷たい視線に耐えられなくなり、私はつつつ・・・と視線を逸らした。


「着きましたね。お嬢様降りる準備を」


マリーの声と同時に馬車が止まり、ガチャっと扉が開いた。着いたのは王都で一番大きな教会。国の大切な行事も行われるほど神聖で特別な場所だ


そう、今日の大切な用事とは私とアル様の結婚式。国一番の貴族であるウェールズ公爵家の結婚式も代々ここで行われている。いわゆる伝統というやつだ。


式が始まるまでまだ少しある。控室用にとあてがわれた部屋で椅子に腰かけフゥっと息を吐く。

やばい、バタバタと準備してここまで来たけど、いざとなると緊張が半端ない。ドレスのすそ踏んで転ばないように気をつけないと。

そんなことを考えていた時、コンコンと部屋をノックする音が響いた。


カチャっとドアを開けて入ってきたのはグレースとトム。二人も今日の結婚式の参列者だ。


「来てくれてありがとう。それにしても早いわね」

「一足早くベルの花嫁姿を見たくってね。とっても綺麗よ」

「ああ、よく似合ってる。もしかしてこのドレスもアレックス殿が?」

「こんな大事な場面で着るドレスにアル様が口を挟まないと思う?」


私の言葉に苦笑いを浮かべるトム。アル様の私を見る目が怖いというトムの言葉もあながち間違いではなかったのだから無理もない反応だけど。


「そんなことより、こんなところで式を挙げられて羨ましいわ!」


夢見心地でそんなことを口にしながらもチラチラとトムを見るグレース。そんな彼女の言葉に眉間にしわを寄せるトム。


「あのなあ、こんなところ使えるの王族か公爵家だけだぞ。しがない子爵家の俺なんか無理に決まってるだろ」

「何よ、言ってみただけじゃない」


ぷぅっとふくれっ面をするグレースを見ながらとても微笑ましい気持ちになった。

実はグレースとトムは先月婚約したばかり。アル様とのことで悩んでいた時お父様が半ば無理やりトムとのお見合いを組んだことがあった。グレースもそのことを聞いてかなりショックを受け、トムへの気持ちを自覚したそうだ。


その後グレースのアタックで無事に婚約、となったらしい。トムとしては押し切られた形だがまんざらでもなさそうに見える。

何にしても大切な友人たちが幸せそうなのは素直に嬉しい。


「それじゃあ、ベル後でね」

「式場で待ってるぞ」


そう言い残し二人は部屋を出て行った。そして再び訪れる静寂。

ついさっきまでは口から心臓が出るのでは思うほど緊張していたけど、二人のお陰で随分と緊張が和らいだ。うん、きっと大丈夫。


不意にコンコンとノックの音が響いてお母様が入ってきた。


「ベル、時間よ。お父様ももう待っているわ」


お母様の声に私は立ち上がるとお父様の待つ扉の前へと向かった。その扉を開けると参列者で埋め尽くされた式場がある。再び緊張に襲われていると、お父様が目に涙をにじませているのが見えた。いや、泣くの早すぎ。私は苦笑を浮かべながらお父様が差し出した腕に手を置いた。


前世の結婚式と同じく今世の結婚式も神父様の前で待つ新郎のもとへ父親と一緒に歩いていく。前世での意味は忘れてしまったが、今世では今の家門から夫の家門へと移り変わる儀式だとかなんとか。

つまりこの結婚式をもって私は正式にウェールズ公爵家の一員となるというわけだ。


会場の扉を開きお父様と一緒に入場すると参列者の視線が一斉に集まった。今日の式には私の友人たちだけでなく、国内の伯爵家以上の主要貴族も集まっている。その視線が自分に集まっていることに僅かな息苦しさを覚えながらもお父様と一緒に一歩一歩前へと進んでいく。


途中神殿の神官たちの姿も見えた。アル様との婚約を継続することになり、神殿の監視役は正式に私に決定した。尤も最初は公爵様がその役を担い私は補佐という立場だけど、アル様が爵位を継いだら名実ともに私の役割となる。


神官たちに酷い目に遭わされたのに大丈夫かと心配する声も多数あったが、私に危害を加えた神官たちは既に処罰され神殿を追い出されている。何より残った神官たちは私に好意的だ。人数自体は少なくなり一人当たりの負担は増えることになったが、自分のことしか考えない上司がいなくなり外部の手が入るようになって逆に仕事に集中できるようになったとか。


それに治癒の魔鉱石によって多くの人が恩恵を受けられることも素直に喜んでくれた。腐っていたのは上層部だけと知って心から安心したのを覚えている。私は彼らににっこりとほほ笑んだ後ゆっくりと通り過ぎた。


その先には先ほど来てくれたグレースとトム、イライザ様にメリンダ様たちの姿も見えた。マリンガム子爵家が社交会で冷たい視線を浴びせられても彼女たちの親交は続いている。それどころかイライザ様たちがメリンダ様を支えているといった感じ。アル様から冷遇されている私に同情して始まった友情だけど、根はとても優しい人たちなのだ。良い友人と持てたことに喜びを覚えながらアル様のもとへと向かっていく。


列の前から二番目、親族の後ろの席にレイラ様の姿が見えた。その隣には優しそうな男性の姿も。彼は隣国から来たレイラ様の恋人で確かマキアス様・・・・だったかな?


最初は難色を示していたノルマンディ公爵もたとえ市井に下ってでも彼と結婚するというレイラ様の熱意に負けたそうだ。愛する娘に質素な暮らしをさせるわけにはいかないと婿養子としてマキアス様を迎えることにしたと聞いている。


愛する人と一緒に居られることになったレイラ様はとても満ち足りたような顔をしている・・・・・というかお茶会が開かれるたびに惚気話を聞かされるので正直もうごちそうさまという感じだ。


レイラ様は私と目が合うとカップを手に持つ動作をしながら、またお茶会しましょうという合図を送ってきた。ハハ・・・最早苦笑いしか出てこない。これ以上何を聞かせようというのだろうか、いや逆か。アルと結婚してどう?とか聞いてきそうだな。


そんなことを思いながらふと前に目をやるとニコニコと嬉しそうな笑顔を向けるアル様。その顔に私の顔も自然と綻んだ。


お父様の手からアル様へと引き継がれると私はその手を取って神父様に向き合った。


コホンと咳払いした後、神父様の低く通る声が式場に響き渡った。


「アレックス・ド・ウェールズはべルティーナ・モリスヴェインを生涯の伴侶としてどんな時も愛し慈しむことを誓いますか?」

「誓います」

「べルティーナ・モリスヴェインはアレックス・ド・ウェールズを生涯の伴侶としてどんな時も愛し慈しむことを誓いますか?」

「はい、誓います」

「よろしい、それでは誓いのキスを」


神父様の言葉に私たちはそっと触れるようなキスをした。恥ずかしさに頬を染めていると茹でだこのようなアル様の顔があって、恥ずかしさなど吹っ飛んでしまった。ふと参列者に目を向けるとみんな一様に生温かい視線を向けているので恥ずかしいやらいたたまれないやら不思議な気持ちになってしまった。


「この儀式をもってアレックス・ド・ウェールズとべルティーナ・モリスヴェインの婚姻を認める」


神父様が高らかに宣言すると式場中から割れんばかりの拍手が鳴り響いた。改めてアル様の顔を見ると先ほどの茹でだこのような顔はどこへやら、蕩けるような目で私を見つめている。私もその目を見つめ返してにっこりとほほ笑んだ。


「愛しているよ、ベル」

「私もですわ、アル様」


伯爵令嬢に転生して今度こそ幸せになってやると足掻いてきたけど、幸せは意外に自分の足元に転がっているものだと知った。自分の気持ち一つで物事はいい方向にも悪い方向にも変化していく。変わってほしいと望んでばかりいるのではなく、自分が変わろうと努力することで周りの環境も少しずつ良い方向に行ったように思う。


アル様との出会いも私にとって最悪のものだと思っていたけど、自分の心が変わってみるとこんな素敵な人に出会えて心から幸せだと思える。


私、伯爵令嬢に転生して幸せです!

これにて本編完結になります。

長い間お付き合いくださりありがとうございました。

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