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22-21. 降参

――――【恒等Ⅰ】(アイデンティティ)の効果終了まで、あと5分。






「さて。スッキリしたな」

「ケースケの超超音波、すごい威力ね……」


【正弦波形Ⅲ】サインウェーブ・ファンクションを放った後の南門は、すっかり片付いていた。



モスキート軍はお返し超超音波をモロに受けて尽く撃沈。ヨロヨロと地に墜ち、仰向けで意識を失っている。

ついでに残り僅かだったドクモスやらポイズンビーやら黒カマキリも全員巻き添えになった様子。上を向いた脚を時々ピクつかせながら気絶していた。




「アニキの姿が見えませんが……」

「あっ、あそこあそこー! 一緒にブッ倒れてるよ!」


アニキもお連れの皆様とご一緒。遅刻挽回のチャンスも残念でした。

副長とはいえど、先にアークの与えた胸の傷もあって耐え切れなかったようだ。











「……という事で」


何はともあれ、これで本当に第二軍団の兵は全滅した。

最初には何万と居た無数の蟲も残すはたったの2。


指揮官・爺や、そして軍団長・ギガモスのみ。




「やっと回ってきたよ。――――お前達の番だ」



ついに本丸だ。






「あぁーあ。皆やられちゃったわねぇー」

「……ですな」


足下に横たわる(おびただ)しい量の亡骸を見つめる爺やとギガモス。

手下を失って悲しんでいるようだが……どこか妙にスッキリとしている。



「悔しくないのかよ?」

「悔しい? まあ、それもそうだけどぉー……失望ねぇー。主に」


やれやれと両掌を上げるギガモス。



「せっかく王都に入り込んだシニガマンティスちゃん達も次々と魔力反応が途絶えるしぃー。遅刻してきた副長は恥を晒すだけ晒して力尽きるしぃー。……あーダメダメ、全然美しくないわぁー」


額に手を当てブンブンと首を振る。



「それに私の可愛いサモンド・スパイダーちゃんもイイトコなしで帰喚されられちゃって……その辺からどうでも良くなっちゃったのよねぇー。ハァー、もう何なのって感じ」


遠い目で夜空に浮かぶ満月を眺めつつ、深い溜め息。

……そして、ギガモスは真っ直ぐに僕を見て言った。




「あー負けた負けた。白衣との戦い、私の負けだわぁー」

「ほぅ……降参か?」

「そうよぉー。だから優しく扱ってちょーだい? 痛いのは嫌なの」


意外にもアッサリと負けを認めるギガモス。

まるで潔さこそ美しさとでも言うような……さっきまで『白衣コロスコロス!』とか言っていた奴とはまるで別人だ。


……いや。もしかして何か裏がある?



「とか言っときながら実は?」

「いーや本当よ本当。毒はおろか熱も麻痺も眠りも混乱も効かないんじゃ、もう私には貴方達に手出しできないのよぉー」


ほぅ、言ったな。

――――【真偽判定Ⅲ】(ジャッジメント)




――――真。




「……成程。本気かよ」

「だからそう言ってるじゃなぁーい」


どうやら不意打ちとか罠とかもなく、本当に僕達には手出しできないようだ。



……いや、でも怪しいぞ。

大事なコトなのでもう一度言うけど、ついさっきまで『白衣コロスコロス!』とか言ってたヒステリック軍団長だ。大人しく降参するとは思えないし、大人しく降参するハズもない。


何だ……交換条件でも仕掛けてくるのか?




「……言えよ。何か隠してんだろ?」

「だから言っているじゃないのぉー。貴方との戦い、降参ってねぇー?」

「その先は」

「その先も何も。降参、それまでよぉー」

「……っ」


何度聞いても肝心な答えは返ってこない。



「あららぁー、そこは『数学者の勘』ってやつの出番じゃないのかしらぁー?」

「……今はちょっと勘が冴えなくて」

「それは残念ねぇー」


しかも煽ってきやがる。

……数学者の勘こと【真偽判定Ⅲ】(ジャッジメント)は真偽とその反例しか分からない。イェスノーで答えられない問題には歯が立たないのだ。




「……くぅッ」


参りましたと言われてるってのに、不気味すぎて逆に不用意に近付けない。

むやみに手が出せない。

ギガモスが何を考えているか分からない。


クソッ、こんなにも降参宣言が厄介だとは。

軍団長・ギガモス、一体何を企んで……。











――――ん? 待てよ?




『あー負けた負けた。白衣との戦い、私の負けだわぁー』

『だから言っているじゃないのぉー。貴方との戦い、降参ってねぇー?』


ついさっきの台詞が頭に蘇る。

負けを認め、降参を宣言するギガモスの台詞。



……でもコレ、なんだか心に引っ掛かるんだよな。

なんか回りくどいというか、何というか……。


『白衣との戦い』だの『貴方との戦い』だの、無駄に強調しているような気が――――






「あっ」




そっ、そうだ。

思い出した。



今起きているコレは――――王都夜襲作戦。

()()、夜襲作戦。






「まっ、まさか……!」



だからギガモスは、わざわざあんな言い回しを……ッ!

つまりギガモスが企んでいるのは――――
















「ギガモスはまだ降参してない!」

「「「「ッ!?」」」」


疑念が確信に変わった。




()()との戦いには降参すると言ったが――――()()との戦いは終わってない!!」

「「「「なにッ!?」」」」

「……あらぁー? 気付かれちゃったかしらぁ?」


ニヤけるギガモス。




「アーク! チェバ◦コース!」

【火弾Ⅲ】(ファイア・バレット)!!」

【氷放射Ⅵ】(アイス・マシンガン)!!」


すぐさま反応する2人。

火球と氷礫が飛ぶ。




「おっと……危ないわねぇー」


すんでの所で躱される。

……と同時に、バッサバッサと翅を羽ばたかせるギガモス。




「貴方の事はコロせなくても、『王都夜襲作戦』さえ成功させれば私達の勝ちなのよぉー!」


夜空に浮かぶ満月に向かって一直線に急上昇を始めた。




「逃がさない! 【火弾Ⅲ】(ファイア・バレット)!!!」

「いけーッ!! 【氷放射Ⅵ】(アイス・マシンガン)!!!」


再び飛ぶ氷礫と火球。

高度を上げるギガモスの翅を追いかけるが――――




「届かないーっ!」

「逃げられたわ……っ」


氷礫は上昇から下降に転じ、火球はボフッと燃え尽きる。

……射程外まで逃げられた。




それでもなお高度を上げ続けるギガモス。

その様子はまるで……王都夜襲作戦の序盤、ドクモス達が王都中にたんまり【眠鱗粉】(スリープ・スケール)を撒いた時のごとく。



「あんな高高度まで空高く飛ばれてしまっては……」

「俺達じゃもう届かないぞ……ッ!」

「クソッ、何するつもりだよ!」


まさか、あんな一瞬で空高くまで飛ぶ力があったなんて……。


マズい……。

マズいぞコレはッ!

ギガモス、一体何を――――











……そんな夜空を見上げるしかない僕達に、語り掛けたのは。




「始まりますな……」


独り南門に取り残された、指揮官・爺や。

僕達と同じく空高くのギガモスを見つめながら、爺やは淡々と語っていた。




「「「「「始まる……?」」」」」

「左様ですぞ。ギガモス様の最終兵器――――死の魔鱗粉こと、【虫の息】が」

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本作は、以下リンク(後編)に続きます。
以下リンクからどうぞ。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
誤りや気になる点等が有りましたらご指摘頂けると幸いです。
感想欄、誤字報告よりお気軽にご連絡下さい。
 
皆様のご感想もお待ちしております!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
どうか、この物語が
 
小説を愛する皆様の心に、
心の安らぎを求める皆様の心に、
現実とかけ離れた世界を楽しみたい皆様の心に、
そして————数学嫌いの克服を目指す皆様の心に
 
届きますように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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