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22-19. 圧倒Ⅳ

「分かった分かった。そこまで言うんなら……お前の望み通り、早速見せてやるぜ。俺の本気を」


そう言った副長アニキは、黒の靭翅を羽ばたかせると。

次の瞬間――――消えた。




「消えた!?」

「何しやがったアイツ!」


眼の前から姿を消したアニキ。

ヤツが何をしたかまでは見えなかったが……別に動じることはない。



「……高速飛行か」


さっきのド派手登場シーンのように文字通り眼にも留まらぬ速さで飛び回っているんだろう。

そのうえ闇夜に上手く紛れた黒の靭翅は眼で追うのも至難の業だ。


徹底的に僕達の視界を撒きにきている。

さながら寝床の蚊のように。




「どこに居ますか……?」

「ぜんぜん見えなーい!」


完全に見失った。

……が、ヤツの狙いは僕達だ。遅刻してギガモスに叱られた手前、他の手は考えられない。


となると、僕達5人の誰かを狙って――――




「居たわっ! ダン後ろ!」

「「「「「ッ!?」」」」


咄嗟にアークが叫ぶ。

振り向けばダンの背後にはアニキ。首筋に針状の口をブッ刺していた。



「ぷはーっ。血頂きー」

「何ッ!?」


針を抜いて余裕の一言。

すかさずダンが大盾を背後に回す。



「このッ! 【硬叩Ⅷ】(ハード・バッシュ)!!」

「遅いぜ」


アニキを叩き落とそうとするも……間に合わない。



「くぅっ、逃げやがったか!」

「ダンだいじょーぶ!?」

「ああ、俺は特に痛みも何も。……ってか刺されたのに痛みすら無かったぞアイツ」


悔しげな表情で首筋を摩るダン。

特に身体に異常がないのは救いだけど……刺されていたのに気付かないとか、厄介さは蚊そのものだ。




「ちくしょう! アイツどこ行きやがった――――

「……ふー。ご馳走さん」

「「「「「っ!?」」」」」


そんな中、悠然と姿を現すアニキ。

吸い取ったダンの血を貯めてあるのか、腹部が赤黒く膨らんでいる。




「お前、俺の血をそんなにも……絶対許さねえぞ!」

「好きにしな。まあ、()()で居られるのも今のうちだぜ」


無事で居られる……って!?



「どういう事だ!?」

「血をたっぷり頂いたお返しに、俺の毒をしっかり流し込んでおいといたからよ。もうすぐ全身を巡り巡って麻痺や痙攣が始まるぜ」

「何ッ!?」

「早く解毒しないとヤバいんじゃね? ……ま、解毒したって貧血でブッ倒れるのは確定してるが」

「クソッ……」


なんという陰湿な。

蚊の痒みという置き土産でも相当厄介だってのに……。



「んじゃ、お前の症状が出始めるのを待ってる間に……お連れの方々からも血、頂いちゃうぜ」

「あっ、おい待て!」


待ってくれるハズもなく、再び姿をくらますアニキ。

僕達でも追いつけない飛行スピードと痛みさえ気付かせない吸血で、南門に猛威を振るった。











そして僅か十数秒。



「全然見えないです……っ」

「なんて速さなの……」

「クソ……ッ!」

「ん-ッ! くやしいー!」


4人揃って血をゴッソリ抜き取られました。


アークは右肘を。

僕は足首を。

シンは二の腕を。

【合成Ⅰ】(コンポジション)強化状態のチェバ◦コースさえ、スピード負けして少し吸われた。




「さて。そろそろ最初のヤツに症状が出始める頃だが――――

「……ぐっ?!」


アニキの言葉にまるで呼応するかのように、ダンの身体に異変が。

異常なまでに眼を見開くと。



「ぐうおおおお!! いっ痛え! 全身が痛えぞ!!」

「ヘヘッ、来た来た」


見悶えするダン。

……全身鎧をガチャガチャとガタつかせて暴れ回る。




「ぐうおおおあああああァァァァァァ!!!」

「効いてるぜ。こりゃ」


声にもならないダンの絶叫が南門に響き渡る。

……そしてその姿は、僕達が辿る姿でもあった。




「くっ、くるしい…………っ!!」

「かはっ……。ゲホゲホッ、うぅっ」

「ちっ……力が入らない……! 全身に力が入りません……!」

「きゃぁぁぁぁっ!」


アーク、僕、シン、そしてチェバ◦コース。

刺された順にバタバタと草原に倒れた。




「イチコロだぜ。俺の本気のスピードを甘く見た罰だ」


ほんの30秒ほどで一挙5人を伏させたアニキ、ご満悦な表情でゆっくりと空中から降り立つと。

一番近くに居た、ゼーハーと胸を押さえるアークの下へ。



「ハァ、ハァ、ハァ…………やっ、やめて……」

「嫌だね」


僅かに開いた右目で懇願するも当然聞き入れられる訳が無い。

右手は辛うじて槍を手放さないものの、握る力すらなく纏う炎も消え失せる。




「……おーい。姐さん見てるー? ちゃんと遅刻免罪してくれよ」

「いいから早くコロしなさぁーい!!」

「分かった分かった」


遠くのギガモスに確認するアニキ。

自分の免罪のためには抜かりない。



「……ったく、なんでこんなチョロい奴らに姐さんは手こずってたんだか。……まぁ、楽に免罪できるに越した事はねえか」


ギガモスに聞こえないように小さく呟くと。

その視線を再びアークへ向け。




「んじゃ、血という血を搾り取らせてもらうぜ。」

「……っ!?」


トドメを刺すべく、無抵抗なアークの首筋に針状の口を差し込んだ。
















「お待ちなさい!」

「ん?」


爺やの声が響く。




「今直ぐ離れるのですぞ!」

「なんで」


爺やの切迫した声。

しかしアニキには届かない。




「……さては爺や、俺の遅刻免罪を邪魔する気だな?」

「違いまする!」

「じゃあなんで邪魔すんだよ」











「私め共は――――騙されておりますぞ!」

「は?」

「其奴らには毒が効いておりませぬ!」

「何ッ!?」











「そのとおり」




その瞬間、アークは両眼を開き。

ニヤリと笑みを浮かべながら、ガッチリ握った槍に炎を纏わせ。




「やば――――

【強刺Ⅷ】(ストロング・スタブ)!!!」



仰向けの状態から、眼前のアニキを思いっきり袈裟斬りにした。

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本作は、以下リンク(後編)に続きます。
以下リンクからどうぞ。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
誤りや気になる点等が有りましたらご指摘頂けると幸いです。
感想欄、誤字報告よりお気軽にご連絡下さい。
 
皆様のご感想もお待ちしております!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
どうか、この物語が
 
小説を愛する皆様の心に、
心の安らぎを求める皆様の心に、
現実とかけ離れた世界を楽しみたい皆様の心に、
そして————数学嫌いの克服を目指す皆様の心に
 
届きますように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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