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22-14. 毛糸

駆け抜けざまにチェバ◦コースが蜘蛛糸を切断。

引き摺り回されていたシン・ダン・アークの動きがピタリと止まった。


腕ごと胴体をガッチリ縛っていた蜘蛛糸も、まるで力を失ったように緩みきる。



「みんな! 助けにきたよー!」

「ナイスタイミングです!」

「ああ、本当助かったぞ!」

「ありがとね。チェバ◦コース」

「どーいたしまして!」


蜘蛛糸を解いて立ち上がる3人の言葉に、チェバ◦コースのフサフサな尻尾がブンブンと振れる。



「それにしても……何ですかその姿は!」

「ああ、俺ら見た事もねえぞそんな恰好!」

「じゃーん。凄いでしょー! チェバと『合成』したんだよ!」

「「「合成……ッ!?」」」


ビシッとチェバ◦コースが決めポーズ。

尻尾がふわりと風に揺れる。



「くぅッ、カッコいいじゃねえか! 俺憧れちまったぞ!」

「強くて、可愛くて、かっこよくて……最っ高じゃない」

「えへへー……」


照れ笑いと共に狼耳がへなりと倒れる。

……元々感情を隠さないコースだが、チェバの狼耳と尻尾も加わって感情が加速しているようだ。



「あとで、その……モフモフ、させてくれない?」

「うん。いーよ!」

「やった――――

「でも……まずはアイツをブッ倒してからねー!」

「もちろん。分かってるわ」


その通りだ。今の僕達、実は思ったよりも余裕が無い。

【恒等Ⅰ】(アイデンティティ)の効果時間は残り19分と迫っているし……何よりチェバ◦コースの【合成Ⅰ】(コンポジション)した姿は体力消耗が激しく、19分すら持たない。


あと19分未満でサモンド・スパイダーを倒し、蟲共を一掃する。

かなりの短期決戦が求められている。






――――けどまぁ、今の僕達ならそう困難じゃないハズだ。



魔王軍(まおーぐん)をブッ倒したら、いっぱいモフモフしてね!」

「分かった。後でいーっぱいモフモフしてあげるわ!」

「おいシン、俺らもやってやろうぜ!」

「勿論です。私達がやられた分、しっかりお返ししてやりましょう!」


なぜならば……今の前衛組には、普段の3人に加えて『プラス1』が居る。しかもよりによって狼魔獣人の力を手にした超ブースト状態。

この第二軍団戦、最初にして最後ともいえようこのチャンスを……逃す手などあるだろうか?




「ったく、このノロマがぁ!」

キシシシッ……

「何やっているのよぉ! 言わんこっちゃないじゃなぁい!!」

キシッ……


しかもスパイダーは絶賛ギガモスのお説教中。申し訳なさげに縮こまった姿には哀愁すら漂っている。

中ボスよろしく魔法陣から颯爽と登場した威勢の良さはどこへやら。


まるで違う、この士気の高低差。

……この波を逃す手などあるだろうか?




「みんな、準備おっけー?」

「勿論です!」

「俺も大丈夫だぜコース!」

「ええ。いつでも!」


構えるはそれぞれの得物。

長剣、大盾、炎槍、そして5対の鉤爪。



「それじゃあ……短期決戦、行っくよー!」

「「「おう!!」」」


4人となった前衛組が、中ボスめがけて速攻の反撃に転じた。











「「「「うおぉぉ!!!」」」」


得物を構えた4人が間合いを詰める。




「ヤッちゃうよー!」


先駆けるのはチェバ◦コース。

ウルフの快足を飛ばして一気に詰め寄る。




……だが、ギガモスとスパイダーもタダで負けるわけにはいかない。



「もういいわぁ! この際、1人でもいいからコロして来なさぁい! もしも1人すらコロせずに力尽きて帰喚しようものなら……貴方、もう二度と召喚しないわよぉ?」

キシッ!? ……キシシッ!!


事実上のクビ予告にスパイダーが震え上がるも、我が身のためにと顔を上げる。


幾対もの赤く輝く眼が捉えるのは、先頭を駆けるチェバ◦コース。

捕らえた獲物を逃がした、憎き狼魔獣人。



キシシシィッ!!!

「やっとやる気になったねー!」


大顎を全開にし、眉間に幾重もの皺を寄せる。

さっきの哀愁漂う姿から一転、スパイダーにも火がついた。




「そんじゃー……エンリョなく!」


そんな皺の寄る眉間めがけ、チェバ◦コースが跳躍。

狼の咆哮と共に右手の鉤爪を振り下ろす。




「ブッタ切ってやる! ぐらああぁぁぁ!!!」

ピキピキッ!


スパイダーもすかさず前脚でガード。

黄褐色の産毛を纏った外骨格にヒビが入る……も、なんとか攻撃を受け切る。




「んー! やっぱ堅いね!」

キシッ……!!!


そんな空中のチェバ◦コースをタダでは帰すまいとスパイダーも反撃。

腹の先を向け、ビシュウと蜘蛛糸を発射する。




「甘いよー!」


それを見たチェバ◦コース、両手でスパイダーの脚を握ると。

魔法使いらしからぬ体捌きで豪快に逆上がり。


迫る蜘蛛糸をグルリと躱した。




「へへーん。残念でっしたー!」


からの脚にぶら下がって舌をペロリ。

【合成Ⅰ】(コンポジション)して気も強くなったのか、挑発もしっかり忘れない。



煽りを受けたスパイダーも案の定お怒りの様子。

再び腹先の照準をチェバ◦コースに差し向ける――――




「でもさー。ずっと私だけ相手にしてていーの?」

キキッ……!?


が、スパイダーが気付いたのはコースにそう言われた時だった。

幾つもの眼でカバーする広い視野、その隅から……大盾が迫ってくるのを。




「8つも眼ぇあんのに俺のコトが見えてねえのか!」

キシシッ!?


タダでさえ射程の短いダンを、その範囲内まで入れさせてしまっていた。




【硬叩Ⅷ】(ハード・バッシュ)! おらァ!」

バリィィンッ!!!



ダンの突き出した大盾が直撃。

球形のガラスのような眼が、一際明るい赤の閃光とともに粉砕した。






キシシシシシィィッ!!

「たかが眼の1つくらいで痛がるんじゃないわよぉー?」


残る7つの眼を白黒させて悶えるスパイダー。

……しかし、背後からはギガモスのパワハラもいいところな鞭が飛ぶ。



「思い出しなさぁーい。……1人もコロせなかったら、どうなるんだったかしらぁー?」


そして再び恐怖に駆られるスパイダー。

残った7つの眼が赤い輝きを取り戻すと……次の標的に狙いを定めた。




「私ですか。……いいでしょう。何でも掛かってきて下さい」



長剣をチャキッと構えるシンへと、腹の先を向けると。

再び胴体をグルグル巻きにせんと太い蜘蛛糸を飛ばした。



「その手は二度と受けませんッ!!」


叫ぶシン、長剣で蜘蛛糸を弾き返す。

……が、蜘蛛糸は弾かれるどころか刃にグルグルと巻きつく。



「くぅッ……!!」

「ハァーッハハハハ!!! 口ほどにもないわねぇー! ……さぁ、スパイダーちゃん!」

キシシシッ!!!


してやったりと笑うスパイダー、グワッと大顎を開くと。

しっかり絡みついた蜘蛛糸をグンと引っ張り。


長剣ごと、シンを引き寄せた。






――――が。




「……なんちゃって、ですよ」


その瞬間、シンは――――長剣からパッと手を放した。




「わざと得物を……!?」


ギガモスとスパイダーが驚きで目を丸くする中、持ち主の手を離れた長剣。

糸に引かれて勢いよく空を飛ぶ長剣は……そのまま運悪くスパイダーの眼に突き立った。



「なっ、なんて事をぉ……ッ!!!」


赤色の閃光を放ち、バリィンと割れる眼。

残り6個に減る……が、それでもスパイダーは眼の痛みを押して反撃。




キシシッ……!!!

「よっしゃー! また私だねー!!」



再びチェバ◦コースに狙いを定め、腹先を向けると――――()()()()を乱射した。



シュタタタタタタタタタッ!!!

「きたあぁぁぁ!!!」


細い蜘蛛糸を毛糸のように丸めた、バレーボール大の蜘蛛糸玉。

触れれば一瞬で身体に絡みつく糸玉がチェバ◦コースを襲う。



……だが、彼女は絶叫こそすれど避ける素振りを見せない。




【氷放射Ⅵ】(アイス・マシンガン)!!」


氷のつぶてで対抗。

鋭いエッジを持つ氷礫が、向かい来る蜘蛛糸玉をバサバサと裂き落とす。




キシシシッ!!!

「球数を増やしたってムダだよー!」


飛び交う糸玉と氷礫。

互いに拮抗して譲らない。






――――だが。


しばし拮抗していた両者、攻勢は一気に傾いた。




スパイダーの腹先から撃ち出される糸玉が、急に衰えを見せたのだ。



キシッ!? キシシッ!!?

「どうしたのよぉスパイダーちゃん!?」


様子の急変にギガモスも思わず心配するが……次第に糸玉は途絶え。




【氷放射Ⅵ】(アイス・マシンガン)・フルバースト!!!」

バリィン!

バリィィン!!


激しい弾幕戦を制したチェバ◦コースの氷礫が、スパイダーの眼を2つ撃ち抜いた。






キシシシシシィィィィィッ!!

「しっ……しっかりしなさいよぉ!」


痛みに(うずくま)ざるを得ないスパイダー。

ギガモスの声に反応すら返せない。



「貴方、人間の1人もコロせないのなら……帰喚させるどころか今コロすわよぉ?」

キシッ…………

「もうっ……ッッ!!! 何か言いなさいよぉ!!」


ギガモスお得意のパワハラ療法でさえも微動だにしないスパイダー。






……奴の体に何が起きたのか?

その解は、1つ。




――――糸切れ。




そして、スパイダーは悟ってしまったのだ。

糸が尽きてしまっては、うちの前衛組には勝てないと。


糸のないクモは、ただのクモだと。



わずか2分と経たずに4つもの眼を潰された痛みに、その絶望が重なり……スパイダーはもう動けなかった。




「まさか貴方……そう、諦めたのねぇー」

キシッ……


ギガモスの言葉に、小さく頷くのが奴の限界だった。











だが、そんな内部事情なんて僕達には全く関係ないのだ。

蹲って動けない? ……ならトドメを刺すまで。


王国を襲おうとしていた相手に、容赦など微塵もないのだ。




「一気にトドメいくよー!!!」

「「「おう!!!」」」



ダンが大盾を構え、アークが槍に炎を纏わせ、チェバ◦コースが両手の鉤爪を光らせ。

長剣を手放したシンも、サブ武器の短剣を抜くと。


4人一列に並び、蹲るスパイダーに迫る。






「ハァーア。結局、時間稼ぎにしかならなかったわねぇー。……期待した私がバカだったわぁ」



捨て台詞のように呟くギガモス。

……それでも、スパイダーは動かず。






【強突Ⅸ】(ストロング・スラスト)!!!」

「ぐらあああぁぁぁぁ!!!」

【硬叩Ⅷ】(ハード・バッシュ)!!!」

【強刺Ⅷ】(ストロング・スタブ)!!!」



シンの持つサブ武器の短剣が。

チェバ◦コースの鋭い鉤爪が。

ダンの大盾が。

アークの炎槍が。






ピクリとも動かないスパイダーの、残る4つの眼をブチ抜き――――











サモンド・スパイダーを、再び魔法陣送りにしてやった。

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本作は、以下リンク(後編)に続きます。
以下リンクからどうぞ。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
誤りや気になる点等が有りましたらご指摘頂けると幸いです。
感想欄、誤字報告よりお気軽にご連絡下さい。
 
皆様のご感想もお待ちしております!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
どうか、この物語が
 
小説を愛する皆様の心に、
心の安らぎを求める皆様の心に、
現実とかけ離れた世界を楽しみたい皆様の心に、
そして————数学嫌いの克服を目指す皆様の心に
 
届きますように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
― 新着の感想 ―
[良い点] ようやく追いついたので初感想書かせていただきます。とても面白いです。 [気になる点] 【合成】ってやっぱり順番で結果変わります? 【合成】が来たってことはやっぱり逆関数きますか? 【相似】…
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