22-13. 合成
「そん……なっ……!!?」
「魔物と、人間が……ですとッ!?」
狼魔獣人チェバ◦コースの登場に、恐らく今日一番の目の丸さを見せるギガモスと爺や。開いた口もまるで塞がらない。
……だが、驚いているのは敵方だけではない。
「ほっ、本当にチェバとコース……なんですか!?」
「うおお! カッコいいじゃねえかコース!!」
「えっ、かっ……かわいい!!」
蜘蛛糸に引き摺られる3人も、初披露のチェバ◦コースの姿にそれぞれ興奮しているようだ。
……だがソレもそのハズ。実はこの【合成Ⅰ】、仲間内にも初披露だからな。使うのも今回で2回目、フーリエ出発前に僕とチェバとコースの2人1頭でコッソリ試しに使った以来だ。
身内ですら知らなかった上にこれ程驚くんだから、第二軍団ともなれば言うまでもないだろう。
とか考えていると、早速ギガモスが案の定な慌て具合を見せてくれた。
「ちょっとサモンド・スパイダーちゃん、急ぎなさぁーい! 早くしないとご飯タイムが終わっちゃうわよォ!」
折角のチャンスを逃さまいとスパイダーを急かす。
糸を手繰り寄せるスパイダーの前脚にも力が入り、前衛組のズリズリと引き摺られるスピードも速まる。
……だが、勿論そんな事はさせない。
僕達の力で守り抜くんだ!
「チェバ◦コース!」
「まっかせてー!」
黒カマキリの壁の前に歩み出る、チェバ◦コース。
「お前ら……私の邪魔するヤツは皆まとめてヤッちゃうよー!」
狼耳をピンと立て。
モフモフな尻尾の毛を逆立たせ。
指先から鉤爪の生えた両手をグッと握り。
「……覚悟しろ! うおおぉぉぉぉんッ!」
短く鋭い雄叫びと共に、『合成』を遂げたチェバ◦コースの本領発揮が始まった。
「まずはお前からだァ!」
まずは壁の先頭に立つ1匹の黒カマキリに眼をつけるチェバ◦コース。右手の拳を開いて鉤爪を曝け出し、切り裂きの構え。
黒カマキリは刃腕をクロスさせて守りの姿勢に――――
「遅いよッ!!」
ザクッ!
黒カマキリの守勢を待たずしてチェバ◦コースの右手が炸裂。
まるでモナカにフォークを刺すように鉤爪が黒殻を突き破った。
奥深くまで深々と刺さった爪がドクドクと血を噴き出し、痛みに耐えかねた黒カマキリは動けない。
「……いっしょっと!」
そんな黒カマキリを両腕で持ち上げると。
「喰らえェ!!!」
頭上から思いっきりスローイン。
後ろに控えていた黒カマキリをボウリングのようにバタバタとなぎ倒す。
そして気付けば……【合成Ⅰ】前じゃ僕達には手も足も出なかった黒カマキリの壁に道が拓けていた。
「凄い……僕達があんなに手こずってたのに」
「ハッハッハー! ざまぁみろー!」
だが、黒カマキリも勿論チェバ◦コースを簡単に通す気はないようで。
開いた空間を埋め戻すようにモゾモゾと動く。
「……ソッチがその気なら、私も強行突破してやるもんね!」
金色の瞳で様子をジッと窺うチェバ◦コース。
その眼がキッと一点に定まると……フォレストウルフの強靭な脚力で地を蹴り。
「どりゃああァァ!」
僅かに守備の薄くなった部分めがけて強烈なショルダータックルをお見舞いした。
健気な魔法使いの女の子とは程遠い威力に、後続を巻き込んで続々と黒カマキリが倒れ込む。
「邪魔だ邪魔だあァ!」
そうして出来た空間を、両手の鉤爪を振りかざしながらズンズンと突き進むチェバ◦コース。
「ヤバいっす!」
「シニガマンティスが体勢を立て直せていないっす!」
「ぼくたちが時間を稼ぐっす!」
そんな黒カマキリの危機を見てかドクモスも集結。
「くらえ! ぼくたちの煙幕鱗粉っす!」
「真っ白な世界で迷子になりやがれっす!」
「「「【霞鱗粉】!!」」」
チェバ◦コースの届かない頭上から白い魔鱗粉を振り撒く――――
「この羽虫がァ! 【氷放射Ⅵ】!!」
シュババババババッ!!!
が、そこはコース本来の魔法で難なく応戦。
あっさりとドクモス達を蜂の巣に仕上げる。
「「「「「ギャアアァァァ!」」」」」
「あとは……あとは頼んだ、っす……!」
無念に散りゆくドクモス……の声に呼応するかのように、スッと1匹の黒カマキリが起き上がり。
刃腕をコースの後ろ首にかける――――
ガジッ!!
「ふっふーんだ!」
が、咄嗟に振り返り……鋭い犬歯で刃腕を受け止めると。
そのままバギバギと噛み砕いた。
「……意外とおいしい!」
魔物の素材本来の味を知ってしまったチェバ◦コース。
刃腕を失った黒カマキリを手早く仕留め、バッサバッサと黒カマキリの壁を突き進む。
「……なんて強さだよ」
正直、パワーアップするだろうという漠然とした想像はしていたけれど……まさかこれ程までとは。
鉤爪があるとはいえど素手でもこの威力、正直ビビったよ。
コース本来の遠距離魔法攻撃にフォレストウルフの近接物理攻撃が相まり、遠近両用の前衛タイプへと成り上がったチェバ◦コース。
性格面においてもどうやら変化があったようで……元から中々な戦闘狂を見せていたコースにチェバの野生本能が加わり、今や誰にも負けない超攻撃型アグレッシブ狼魔獣人と化してしまった。
今までの【冪乗術Ⅵ】といったの単純なステータス強化とはまた違う、戦闘スタイルすら変えてしまう魔法……【合成Ⅰ】。
新たなパワーアップの方向性を魅せつけられたようだ。
……そんな事を考えているうちにも、あっという間に黒カマキリの壁は最後の1層。
「邪魔だあああぁぁぁぁぁぁッ!!!」
右手の鉤爪を振り下ろし、最後の1匹を袈裟に切り伏せ……ついに黒カマキリの壁を突き破った。
ノリに乗って壁を超えたチェバ◦コース、その先には背中をズリズリと引き摺られるシン・ダン・アーク。
彼らの間に遮る物はもう無い。
「今いくよー!!!」
「「「コース!!!」」」
待ってましたと声を揃える前衛3人組。
……だが、ギガモスも本気でサモンド・スパイダーを急がせる。
「スパイダーちゃん早くしなさぁい! 早くしないと……貴方をコロスわよぉ?」
キシシィッと悲鳴のような鳴き声を上げるサモンド・スパイダー。
今までのは一体何だったのかと思わせる程に糸の引きが速くなり……3人が手元に着くまで残り僅かに迫る。
――――しかし、もう心配は無かった。
「ぐるるるっ……」
低く唸りながら、上体を前傾させるチェバ◦コース。
金色の瞳が、サモンド・スパイダーへと曳いていかれる前衛3人を中心に捉えると――――
「がああぁァッ!!!」
溜めた力を解放するように、一気にロケットスタートを決めた。
チェバの四足走行とは異なる、コース本来の二足走行……ではありつつも、その速度はフォレストウルフに引けを取らない快足。
大きく離されていた前衛3人との距離が、一気に詰まる。
「速いッ……」
ギガモスも予想外のスピードに、顔を青ざめる。
そうして、勢いよく曳かれるシン・ダン・アークを追いかけていたチェバ◦コースは。
いつしか3人を追い越し。
そして――――
「みんなを放せェ!!!」
両手に生えた鋭い鉤爪で、3本の太い蜘蛛糸を駆け抜けざまに断ち切った。




