22-9. 乱戦
南門を護る前衛のシン、ダン、アーク。
その彼らに先陣を切って襲い掛かるは黒カマキリ。
黒い外骨格に身を包んだ兵が南門を突破せんと迫る。
「どこからでも掛かってきて下さい!!」
「絶対通さねえぞ!!」
「わたし達を甘く見ないでよね!!」
そんな彼らを、刃のついた腕を振り上げて黒カマキリが威嚇。
第二の空中機動隊・ポイズンビーも月光に輝く毒針をチラつかせる。
……しかし、うちの前衛はそんなんじゃ怯まない。
「そんなのが威嚇ですか? 甘いです!」
最初に動いたのはシン。
黒カマキリに先を取り、刃腕が振り下ろされる前に懐に入ると。
「【強突Ⅶ】!!」
長剣を真っ直ぐ胴体にブスリ。
神谷直伝、今やシン自身の得意技にもなった諸手突きが炸裂。
「ふゥッ!!」
なおもシンの勢いは止まらず、長剣は黒カマキリの胴体を貫通。
背中から飛び出した長剣の切っ先が後ろのカマキリをブスリ。
あっという間に2匹のカマキリを串刺しに仕上げた。
「……っ!」
そんなシンの横から、得物が不自由になった隙をついた3匹目の黒カマキリ。
左右両方の刃腕を振り上げてシンの首を狙う。
「甘いです!」
が、それもシンは既に察知済み。
長剣を引き抜いたその勢いで、振り下ろされる刃腕に剣を打ち込む。
拮抗する刃腕、長剣。
動きが止まる。
「結構硬いです……けどっ!」
……だがそれも一瞬。
カマキリの刃腕を覆う黒殻に、ピキッとヒビが入ったのを見たシンは。
「この剣には勝てませんッ!」
加冶くん謹製、ユークリド鋼の長剣に力を籠め。
「【強斬Ⅹ】!!!」
両刃腕を一気にぶった斬り。
根元の無くなった刃腕を草原に突き立たせた。
「良いじゃねえかシン!」
そんなシンの様子を見ていたダンにも黒カマキリが迫る。
「【硬壁Ⅹ】! フンッ!!」
カァンッ!
首元を狙って放たれる刃腕を難なく受けるダン。
「【硬壁Ⅹ】! 【硬壁Ⅹ】!」
カァンッ!
カァンッ!
その隙を突かんと数を増すカマキリ。気付けば左右正面の3匹がダンを囲む。
……が、それでもダンは動じない。
「【硬叩Ⅷ】ゥゥッ!!」
黒カマキリの顔面めがけて大盾で殴るように反撃。
黒カマキリも躱しきれず、顎に鈍い衝撃を受けて気絶する。
「フン! ざまぁ見ろ――――っ!?」
しかし、その隙を窺っていたかのようにダンを取り囲む20ほどの影。
第二軍団の空中機動隊・ポイズンビーだ。
「なっ……邪魔だぞ!」
腹部の針を茶色く濁った神経毒で濡らし、ダンの周りを飛び回る。
幾ら防御の固いダンとはいえども、さすがに前後左右360°は防ぎ切れない。
「……痛ッ!! このヤロ……痛てッ!!」
鎧の隙間から毒針を差し込むポイズンビー。
【恒等Ⅰ】で神経毒は効かないとはいえ、振り払っても振り払ってもビーは離れない――――
「【氷放射Ⅵ】ーッ!!」
シュタタタタタタタタタタタタタタタッ!
そんな蜂まみれのダンを更に襲う、無数の鋭い氷弾。
蜂の薄い翅を傷つける氷の礫が、ダンの背中ごとボコスカボコスカと打ち込まれる。
「冷てっ! 痛っ! 冷てッ!! 何だ!?」
「動いちゃダメ!」
「コース!?」
勿論、【水系統魔法】使いのコースの仕業だ。
……というか、こんなガサツな事をするのもコースしかいない。
「そのまま立っててー! ポイズンビー追い払うから」
「いや俺まで撃つなよ! 痛えし冷てえぞ!」
「とか言ってどーせ無傷なんでしょー? ダンなら素のMNDも高いんだしガマンガマン!」
「んん……まあ、頼んだコース!」
「おっけ! 任せてー!」
コースの強引さに少し頭を悩ませるダンだったが……いざ任せてみればポイズンビーはあっという間に一掃。
ボロボロな翅のビーが足下の草原に散らばっていた。
「やるじゃねえか! 助かったぞコース!」
「いえいえー!」
「やっぱり仲良いのね……」
そんなコースとダンの様子を見て苦笑していたのは、両手に炎の槍を握るアーク。
「それじゃあ……わたしも!」
視線をダンから正面に戻せば、左から右まで視界を埋め尽くす黒カマキリ。
彼らをジッと見つめて炎の火力を一気に燃やすと……右から左へ、強烈な横薙ぎをお見舞いした。
「【強払Ⅷ】!」
全身の勢いがのった槍先は、黒カマキリの黒殻をも叩き割る。
槍先から噴き出す赤い炎は蟲の眼を焼き、触角を焼き、そして翅を炙る。
【槍術】と【火系統魔法】、両方を掛け合わせた魔法戦士の一撃が光る。
「もういっちょ! 【強払Ⅷ】!」
立て続けに槍を黒カマキリへ突き込む。
槍の炎が黒殻に包まれた身を蒸し焼きにする。
ズブリと槍を引き抜く時には、既に黒カマキリは内側からの熱で焼死。
焼いた鶏肉のような香ばしい匂いを漂わせながらバタリと横倒しになった。
「さあ、どんどん行くわ!!」
「……皆すごいな」
そんな戦闘職が勇姿を見せる中、僕は何をしているかというと。
「うぉッ! 来んな!!」
前衛の頭上を越えてきたポイズンビーを相手に、右手に握る冒険者のナイフで応戦していた。
……まぁ、応戦とはいってもナイフを滅茶苦茶に振り回していただけどね。「ヴーン」という重低音が耳元を通り抜けたら、とにかくひたすらナイフを振りまくるのだ。
カッコ悪い?
仕方ないじゃんか。僕そもそも非戦闘職なんだから。
ただ、1つ気付いた事がある。
僕が空中を飛び回るビーを狙ったところで、どうせ当たりやしない。のだが……却って何も考えずナイフを振りまくった方がむしろ当たるのだ。
そこで僕なりに思いついた作戦が……コレです。
「【乱数Ⅹ】! うおおおっ!!」
ランダム魔法の【乱数Ⅹ】を使った戦術。
その名も『無造作斬り』だ。
「……よしッ!」
これが意外と有効で、結構な数のポイズンビーが『無造作斬り』の餌食になる。
お陰様で僕の足元には真っ二つになったビーの亡骸がぼちぼち転がっているのだ。
狙わない方が寧ろ倒せるって、ちょっと複雑な気持ちになるけど……まぁ気にしないでいこう。
そんな事より、だ。
やっぱり数学者が本領発揮して活躍するなら、味方の魔法支援だよな。
「……そろそろだな」
さて、良い頃合いだ。
僕も【演算魔法】で見せ場を作らせてもらおうか。




