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22-7. 逆鱗

――――停戦? 奴らを見逃す?

そんな事、する訳ないじゃんか。



スパイに次ぐスパイ、情報戦に次ぐ情報戦。お互いにお互いの目を欺き、罠を敷きを繰り返した前哨戦……僕達がそれを制したのだ。


圧倒的情報量差。

対策万全。

どちらが優勢かは、第二軍団の逃げ出す様子を見れば言うまでもない。



喧嘩を吹っ掛けておきながら分が悪くなったからと逃げ出す第二軍団のワガママを……誰が受け入れるだろうか?

この状況は絶対に譲らない。

コイツらは、今夜ココで処分する。



そんな虫の良い話、絶対認めないから。






「誰が停戦を受け入れた? ――――逃さねえよ」

「「「「「……ッ!?」」」」」


前方に現れた水色のバリアに、後方から響く声。

前後から挟まれて焦りを覚えたのか、翅の羽ばたきが速まる。




「ギガモス様っ……、とにかく森まで逃げ(おお)せるのですぞ…‥っ!」

「分かってるわよぉー! しっ、シニガマンティスの貴方たち! このバリアを破り捨ててちょーだい!」


抱きかかえる爺やに急かされるギガモス、地上の黒カマキリに命令を飛ばす。

すぐさまバリアの前に駆け出し、一斉に並ぶ黒カマキリ。


両腕を大きく広げ、刃物のように尖った先端をバリアに向け――――一斉に突き出した。





ガッシャアアアァァァァァァァン!



一瞬にして脆く砕けるバリア。


突き貫かれた穴から広がった大量の(ヒビ)は、あまりにも一瞬にして広がる様子を視認できず。

一面が(ヒビ)に覆われて真っ白になったかと思いきや、次の瞬間には無数の破片となって霧散した。




「なっ……なぁーんだ、一瞬じゃなぁーい」

「バリアのクセに防御力が紙だぜぃ!」

「退路を断たれたとビビり損だったっす!」


胸をなでおろすギガモス。

余裕を取り戻したか、軍団全体にも笑顔が戻る。



「白衣の勇者くぅーん、折角のバリアも一発で砕けちゃったわよぉー?」

「あぁ」


当然だ。そのバリアはお前達を足止めさせるため物じゃない。

()()()()()()()()()に立てたんだから。




「その壁を破ったって事は……逃げるんだな?」

「なっ」


安堵も一瞬、ギガモスの表情が曇る。



「奴の言葉に耳を貸してはなりませぬっ! 森まで逃げ込めば、土地の利は私どもにあるのですぞ!」

「……そっ、そうねぇ」


爺やの言葉に我に返るギガモス。



「逃げるんだな?」

「そうよぉ、逃げさせてもらうわぁー! 貴方とは戦えなくて残念だけどねぇー!」

「ほぅ」


僕の再びの質問に開き直るギガモス。




「……そうかそうか。逃げるんだな」


その言葉、待ってたよ。






√√√√√√√√√√






勿論、こうなる事は予想していた。

僕達を隔離する作戦が失敗したと知れば、本隊は王都夜襲作戦も未遂で逃げるかもしれないと。

だから、それに対する対策も既に打ってある。


例の蛾ちゃんをダルマにする拷問の過程で、僕達は手に入れたのだ。



『それじゃあ、次の質問だ』

『ちゃんと答えれば……命だけは、助けてくれるんすよね?』

『あぁ』


魔鱗粉のせいで粉っぽい、我が家のリビング。

足下にはぐっすりと眠らされた、クーゴはじめ幼犬隊。

そして……ダイニングテーブルの上には、【外接円Ⅱ】(サーカムスクライブ)の輪に縛られ身動きを封じられたドクモス。


そんな彼から、聞き出したのだ。



『ギガモスの"逆鱗"は何だ?』

『げっ、逆鱗……触れちゃいけない事っすか?』

『あぁ』

『それなら、2つ……でも姐さんの前では絶対禁句っすからね。ぼく達でも殺されるレベルっすから』

『分かった分かった。で、何と何だ?』

『それは――――



そうして手に入れたのだ。


逃げる気満々のギガモスでさえ、一瞬で頭に血が昇る……パワーワードを。

逃げる事をも忘れ去らせる、最強のパワーワードを。





∋∋∋∋∋∋∋∋∋∋






「……そうかそうか。逃げるんだな」

「だから何だっていうのかしらぁー?」


あの蛾ちゃんとのやり取りを思い出しつつ、ギガモスの逆鱗をしっかり撫でてやった。






()()()()()()()()勇敢だったけどな」



僕の言葉が届いた途端、ギガモスの動きが止まる。

顔から一切の感情が抜け落ちる。




「それに比べて第二は、僕達と戦うどころか見ただけで逃げ腰だよ」

「――――」


まるで時間が止まったかのような無表情。

周囲の蟲共もギガモスの様子にこれはマズイと固まる。




ギガモスの嫌いな物・その1、『第三軍団と比べられ、なおかつ見下されること』。

コレはかなり効いているじゃんか!

よし、ここは一気に畳み掛けよう。敵愾心(てきがいしん)をもっともっと燃やしてもらおうか!




「よーく見りゃ、その翅も汚ったない茶色に目ン玉みたいな気持ち悪い模様だし」


ギガモスの嫌いな物・その2、それは『何よりも美しいと誇っている彼女の翅を貶すこと』だ。




「――――――――っ」


グワッと目を見開くギガモス。瞳孔が怖いほどに散大する。

これも効いているぞ!





「………………殺す」

「ッ!? なりませぬ! ギガモス様!」


無表情でギガモスが何か呟いた。

と思えば……次の瞬間、彼女は急に豹変した。




「殺す。……殺す。殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロスコロス!」

「気を確かに、お持ちくだされ! 此処は退くのですぞ――――

「この私の美しい翅を貶す奴はコロス! 誰であってもコロス! 魔王様でもコロス!」



魔王様はダメだろと思ったのは僕だけじゃないと思うが、まぁそんな事は今どうでもいい。




「そんな()()()共には負けねえよ。()()()共には。……数学者舐めんなァ!」

「殺す!!! 白衣の勇者コロォォォス!!!」


そして最後のダメ押しで、ギガモスの頭には完全に血が昇り切った。思惑通りだ。

あとはCalcuLegaで重ねに重ねた対策をフルに使えばいい。

第二軍団を蹴散らし、南門を防衛するだけだ。




「……皆、準備は良いか?」

「勿論です先生!」

「いつでもオッケー!」

「問題ねえぞ!」

「任せてよね!」


此方も準備は万端。


長剣、杖、大盾、槍、そしてナイフ。

じわりじわりと迫る蟲の軍勢を前に、各々の武器を構えて南門に一列に並んだ。






「全隊回れ右! ドクモスとポイズン・ビーの貴方たち、白衣を殺しなさい! シニガマンティスの貴方たち、要人の首を刈ってきなさい!」

「えっ、魔王城に戻るのは――――

「停戦じゃなかったんすか――――

「私の言葉が聞こえないのかしらぁー!」

「「「「「いっ……イェス! ギガモス姐さん!」」」」」


完全に火の着いてしまったギガモスには、もうどの蟲も逆らえない。



「今ならまだ被害は抑えられますぞ――――

「うるさぁい!」


爺やでさえも言葉に耳も貸してくれない。



「貴方たち、聞きなさぁーい! ……私は今、第二軍団から近衛隊への昇格推薦枠を2つ持っているわぁー! 白衣の勇者の殺害に最も貢献した子、2人を今度推薦してあげちゃう!」

「「「「「オオオォォォ!!!」」」」」


その上、部下を褒美で強引に釣り上げる。

ギガモスの勢いが第二軍団全体に伝播する。




「第二軍団の恐ろしさ、思い知らせてやりなさぁーい!」

「「「「「イェス! 姐さん!」」」」」


そして彼女の号令が、殺人的な羽音を南門へと送り出した。











蚊、蛾、蜂、そして黒カマキリ。

人によっては不快ともいえる無数のシルエットが、満月に照らされて100m先の南門を目指す。


じわりじわりと迫る蟲の軍勢に身構える僕達。





その様子を見て、ギガモスは高笑いを上げる。




「ハーッハッハっハッハ! 死んで後悔しなさぁーい! 白衣の勇者くぅーん!!!」

「まだ間に合いますぞ! 引き下げるのです!」


……しかし、そんな中でもただ一人爺やだけは説得をやめない。



「白衣とまともに戦っては、それこそ第三と――――

「第三が何! 何か言ったかしらぁ!?」


墓穴を掘る爺や。




「駄目ですぞ!」

「黙りなさい爺や! 決定権は私にあるの!」

「むむっ……しかし!!」

「何よ!!!」


権力に握り潰されそうになる……が、それでも爺やは諦めなかった。






「ならばギガモス様、お気付きくだされ!! 白衣の勇者共は、なぜ――――【眠鱗粉】(スリープ・スケール)の環境下でも無事なのですか?!」

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本作は、以下リンク(後編)に続きます。
以下リンクからどうぞ。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
誤りや気になる点等が有りましたらご指摘頂けると幸いです。
感想欄、誤字報告よりお気軽にご連絡下さい。
 
皆様のご感想もお待ちしております!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
どうか、この物語が
 
小説を愛する皆様の心に、
心の安らぎを求める皆様の心に、
現実とかけ離れた世界を楽しみたい皆様の心に、
そして————数学嫌いの克服を目指す皆様の心に
 
届きますように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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