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21-11. 重大

翌朝。


王都で開かれる受勲式まで、あと16日。

我が家の1階、作戦会議室・CalcuLegaにて。




「突然呼び出して済まんな。皆」

「んーん。大丈夫よ」


朝食を食べ終わって早々、僕は全員を呼び出して緊急会議を開いていた。

シン・コースとチェバ・ダン・アークの5人と1頭がCalcuLegaの会議机を囲み、床にはずらりと並ぶ幼犬隊。

全員集合だ。



「……にしても先生。今日は随分と厳重じゃねえか」

「本当です。窓と扉の鍵、それにカーテンまでキッチリ閉じるなんて」

「なんか物騒(ブッソー)じゃん!」

「あぁ。物騒も物騒、ちょっと重大案件だからな」

「「「「重大案件……!?」」」」


そう。王国の命運にかかわる重大案件だ。だからこそ情報が洩れないように対策はしっかり打っておいた。

その上定期的に【判別Ⅴ】(ディスクリミナント)Ðで周囲に存在する人間の数・魔物の数も数えれば、万が一盗み聞きしている奴が居ても分かる完璧っぷりだ。


……まぁ、前振りはこの位にして。

さっさと本題に入ろう。



「という訳で、早速その重大案件に入るけど……1つだけ注意点。今から離す内容は、他言無用だ。ギルドやトラスホームさん、他の勇者を含め絶対に喋るなよ。良いな?」

「「「「「……」」」」」


久し振りに真剣に語る僕の雰囲気が、部屋中に伝播する。

皆の背筋がピンと伸び、緊張で表情が固くなる。


そんな彼らに、重大案件を告げた。






「……実は、魔王軍の通信が傍受できたんだ」

「「「「「傍受!?」」」」」


皆が思わず目を丸くして叫ぶ。



「シーッ! 叫んじゃダメだ」

「(……そ、そうでした)」

「(済まねえ……つい)」

「(驚いちゃったわ)」


別にヒソヒソ声で喋る必要もないんだけどね。



「いやはや、傍受ですか。……それも先生の【演算魔法】の能力でしょうか?」

「違うから」


シンお前、何でもかんでも【演算魔法】のせいにすんなよ。



「灯台だよ灯台。フーリエ灯台に置いてあった通信機を使ったら、なんか傍受出来ちゃって」

「へえ、凄えじゃねえか先生! どうやったんだ?」

「いやいや。僕は方法知らないんだけど、クーゴがやってくれてな」

「スッゴーい! やるじゃん、チェバのお友だち!」

「ほう。御手柄だ、クーゴ」

「ハッ!」


……まぁ、傍受というのはウソで本当はガッツリ魔王軍から情報を引き出してるんだけどね。

ゴーゴ・ナーゴ・クーゴが二重スパイをやっている事は彼ら自身と僕だけの秘密なので、辻褄合わせとしてクーゴが傍受したって事にしたのだ。


という事だから、さっきゴーゴ・ナーゴ・クーゴが「「「傍受!?」」」と驚いていたのは演技です。




「さすがクーゴ、やっぱり私が信じた通りです」

「わん!」


シンに撫でられて喜ぶクーゴ。

勿論、スパイになりかけていたなんて言えない。



「……しかし先生。魔王軍側の通信もセキュリティ甘々なんですね」

「そ、そうだな」


セキュリティも何も、そもそもココが通信の接続地点だからな。

魔王軍も恨むんなら、二重スパイを防げなかった自身を恨んでもらおう。




……ってダメだダメだ。これ以上シンに話しかけられたらボロが出そうだ。

先に進もう。



「でだ。その傍受で、色々と情報を盗めた」

「おっ! やるじゃねえか先生!」

「どうだった、ケースケ? 良い情報は盗めたのかしら?」

「あぁ。それはそれはもう」






という事で、そこからは僕が手に入れた情報を皆に共有した。


魔王軍の第二軍団が動き始めているということ。

16日後に開かれる受勲式前のタイミングを狙っていること。

そのターゲットに狙われているのは、王都に数多く集まる王国の要人であること。

何十という街を落としてきた十八番の『夜襲作戦』で、王都を一気に襲うつもりだということ。



「なるほど……。要人、なのね」

「おぅ」

「ってコトはつまり、王様がアブないってことー?」

「国王様だけじゃないぜ、コース。色んなお偉いさんや貴族だって要人だぞ」

「ダンの言う通りです。……それに、もしもトリグ村の村長様も受勲式に赴くことになっていたら……」

「えっ!? ジイさまも!?」

「十分あり得るわね。それに、わたしのお父様だって……」


そうだ。

貴族や村長町長はもとより、アークの実家は風の街・テイラーの領主家。要人の中でもランク高い方だろう。家出状態とはいえど、やっぱり家族は家族。不安に違いない。


あと、皆忘れてるけどトラスホームさんも一応要人だと思う。




「……守らなきゃ」

「ああ! 魔王軍の好きになんてさせねえぞ!」

「うんうん! まとめてヤっちゃうよー!」

「先生、皆で王都に乗り込んで返り討ちにしてやりましょう!」

「あぁ!」




――――とは、言いたい所なんだが。



「もしかしたら、そう一筋縄にはいかないかもしれないんだ」

「えっ?」

「その夜襲作戦を成功させるために、どうも彼らは邪魔者の僕達を『退場』させるつもりらしい」

「「「「「退場……?」」」」」


そう。

今回僕達は魔王軍のターゲットからは外されている。けどその代わり、夜襲作戦の邪魔をしないようにと『退場』を突き付けられているのだ。



退場(たいじょー)って?」

「何が起こんだよ先生?」

「いや、それが通信でも『退場』としか言ってなかったから詳しくは僕も分からなくて。……ただ、夜襲作戦に先駆けて僕達に何かしら妨害を仕掛けてくるのは確実だろうな」


退場というんだから……王都に滞在する僕達を、何かをエサにして外まで誘き出そうとしているんだろうか。

それとも僕達を魔法か何かで拘束するつもりか?

はたまた、王都へと向かう僕達を結界なり罠なりで足止めするのかもしれない。


とにかく手口は分からないが、一先ず今は妨害を受けるだろうと気構えておくだけでも十分だ。

第二軍団の魔物の動きには注意しておこう。






という事で、重大案件の報告は以上。



「まぁ、今のところの情報はこれだけだけど、今後も通信傍受を続けていくから。何か分かったらまた皆に報告するからな。情報が集まってきたら作戦も立て始めよう」

「おう! 分かったぞ!」

「ええ。よろしくね、ケースケ」

「クーゴも傍受、頑張ってくださいね。頼みましたよ」

「わん!」


こうして緊急会議はお開きとなったのでした。







……にしても、なんだか色々な方向に秘密を作りまくってるな。僕。


全滅したハズのウルフ隊が幼犬達として匿われているのは、僕達とトラスホームさんだけの秘密。

その中でもゴーゴ・ナーゴ・クーゴの3頭が僕達を裏切ろうとしていたのは、僕と3頭だけの秘密。

しかし、実は僕が泳がせていただけで結局二重スパイになったのも僕と3頭だけの秘密。

辻褄合わせに通信傍受とウソついてるのも秘密。大臣のバリーさんがスパイだったのも秘密だ。

その他にも僕だけの秘密が幾つかあったり、僕とコースだけの秘密もあったりと……まだ色々あるな。



いつかボロが出そうで怖いけど、スパイ行為中はバレたらお終いだからな。

気を付けよう。

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『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
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感想欄、誤字報告よりお気軽にご連絡下さい。
 
皆様のご感想もお待ちしております!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
どうか、この物語が
 
小説を愛する皆様の心に、
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現実とかけ離れた世界を楽しみたい皆様の心に、
そして————数学嫌いの克服を目指す皆様の心に
 
届きますように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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