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21-10-1. 『わんわんスパイ諜報中①:裏切り者が居る!?』

それから数日。



アキの訪問があったり、5人でフーリエ砂漠に行って狩りの腕を磨いたり、大鯨肉祭の最終日を楽しんだりして日々を過ごすうちにも『受勲式』の日は近付き……残り17日となった。


まだコレといった準備は何も進んでいないし、何日前に出発するとかの予定さえも決まっていない。

だが、王都までの馬車やあっちでの宿泊先は王国側が用意してくれるそうだ。決まったらトラスホームさん経由で連絡してくれるらしいし、僕はとりあえずただ待っていればいいとの事だ。

厚遇だね。


という事で、僕は平和なフーリエの日々を過ごしつつ王都からの連絡を待っていた。






――――のだが、ただひたすら黙って連絡を待ち続けていた訳じゃない。

コチラからも、じわりじわりと行動を起こしているのだ。




「(……さて)」


受勲式まで、あと17日。

深夜、11時30分。


皆が寝静まった中、僕は独り2階の自室を出ると。

階段を降り、1階の玄関に向かう。



「「「(わん!)」」」

「(……良し。3頭とも居るな)」



真っ暗な廊下には月光を反射して光る、6つの金眼と3つの首輪。

例のスパイ組、ゴーゴ・ナーゴ・クーゴだ。



「(それじゃあ……行くか)」

「「「(わん!)」」」


そう声を掛けて靴を履き、ゆっくりと玄関の扉を開く。

3頭のわんわんスパイと共に、僕達は深夜のフーリエへと繰り出した。






灯台で彼らのスパイ行為を発見し、同時に二重スパイとして取り込んだあの日から3日。

今晩は、クーゴ達が通信機の話し相手と約束していた次の通信日だ。



前回の通信では、クーゴ達と魔王軍との間で特にこれといった情報交換は無かった様子。詳しい話や全容は分からないけど、魔王軍への生存報告と近況報告、それからスパイの任命くらいだったらしい。

けど、今回の通信からは積極的に情報交換を始めるとのこと。クーゴ達が得た情報を定期的に送るため、こうやって数日ごとに通信するようだ。


……となれば、このチャンスを逃す訳にはいかない。

この機会に上手く彼らを使って、通信相手から魔王軍の情報を引き出すのだ。



「という事だから。ゴーゴ・ナーゴ・クーゴ、よろしく頼むよ」

「「「ハッ」」」

「もしも途中で変な事をしたら……コレだから」


右手をやんわりと握る。

彼らの首がやんわりと絞まる。



「……分かってるよな?」

「「「は、ハッ!」」」


よしよし。従順で良い子達だ。


二重スパイ……いや。

スパイ²の活躍、期待してるよ。




――――まぁ、まさか期待の上の上を行き過ぎて逆に困るくらいになるなんて……今の僕には想像もできなかったんだけどね。










「ふぅ……やっと着いた」

「ゴーゴ、ナーゴ、魔導通信機を」

「「ハッ」」


灯台の灯室に着くと早速、通信機を立ち上げ始めるゴーゴとナーゴ。

埃避けの袋を咥えて取り去り、前脚を器用に使ってスイッチやダイヤルを弄る。




「クーゴ。さっき伝えた通りにしっかりやれよ」

「ハッ」


通信機が準備中の間に、さっき灯台までの道中でクーゴと打ち合わせたルールを確かめる。



基本的に、通信の受け答え役は全部クーゴが行う。

通信相手から聞かれた事は、クーゴの知る限りの情報をそのまま伝えれば良い。NGは無し。逆にクーゴから言いたい事が有れば好きに言って構わない。

基本的には出来る限り普段通り自由に喋らせて、二重スパイで操作されているのを悟られないようにするのだ。


ただ、NG無しとはいえど『二重スパイをやらされている』をバラすのだけはご法度。それっぽく仄めかすのもダメ。

もし破ったら、その時は即座に3頭を絞め殺す。次こそ本当に。



で、僕は傍から盗聴。

僕の存在が悟られないよう声や物音に気をつけながら、クーゴの隣で魔王軍のやり取りを一語一句聞き漏らすことなく盗聴するのだ。


……ただ、途中で僕からクーゴにオーダーを通したい時があるだろう。好きに喋らせるとはいえど、『こう答えてくれ』とか『こう尋ねろ』とか口出ししたくなる機会はあるハズだ。

そういった時には【共有Ⅵ】(コモン)の出番。テレパシーでクーゴに命令するのだ。そうすれば通信機に僕の声を拾われる事無くクーゴに伝えられるからな。



二重スパイの体制はこんな感じだ。

魔王軍にバレることなく仕事をこなし、かつ情報もしっかり引き出す。中々難しいミッションだけど……成功すればその後の対魔王軍戦がかなり有利になるハズだ。


よし、集中していこう。




「……クーゴ。魔導通信機、起動完了」

「前回と設定は同様。何時でも発信できる」


通信機のスタンバイも完了。この前の通信の時と同じセッティングだからか、ゴーゴとナーゴも慣れた手つきでチャチャッと済ませたようだ。



「勇者殿。残るはこの発信釦を押し、幾許か待てば通信が始まる」

「オッケー。分かった」


僕の心の準備は出来ている。

【共有Ⅵ】(コモン)も既に3頭と繋いであるし、いつでも問題ない。




「それじゃあ、始めようか」

「ハッ。……機密回線、発信」


クーゴの前脚が大きな赤の発信ボタンをプッシュ。

通信機のスピーカーがプルルルと呼出音を上げ始める。



プルルルルッ

「「「「…………」」」」


1人と3頭で通信機を囲み、通信が繋がるのを待つ。



プルルルルッ

「「「…………」」」


……が、中々相手は出ない。



「……20秒経ったけどまだ出ないな。留守か?」

「否、此れは正常である。機密通信の確立等に時間を要する故、繋がるまで概ね1分以上は」


なんだ。すぐ相手に繋がる訳じゃないのか。

ちょっと肩透かしを食っちゃった気分だ。



となれば……そうだな。まだ30秒くらいは掛かりそうだし、今のうちに気になってた事を1つ尋ねておこう。




「……なぁクーゴ。1つ質問いいか?」

「承知。通信が開始する迄ならば」

「オッケーオッケー」


僕の声が通信に入っちゃ元も子もないからな。

手短に済ませちゃおう。



「今回の通信は前回と一緒って言ってたけど……前回の通信、アレ誰と話してたんだ?」

「……ああ、通信相手であるか」

「そうそう」


あの時は三角関数の勉強をしてたせいで途中から僕は聞いてないんだけど……結局、相手が誰だか分かる前に通信が終わっちゃったんだよな。

どこかで聞いた事のあるような声に喋り方だったんだけど……イマイチ誰だか思い出せない。



「あの声、セットにしては違うし……誰だったんだ? 魔王様本人か? それとも今話題の第二軍団?」

「否、いずれも違う」

「えっ」


となるとあの声の主、一体誰だったん――――






プルルル――――ガチャッ

『……もしもし』


不意に呼出音が止まり、スピーカーからは例の通信相手の声。

通信が繋がった。



「…………っ」

「…………」


口を閉じ、静かにクーゴに目配せ。それを見てクーゴも頷き、通信機と正対する。

……頼んだぞ、クーゴ。


わんわんスパイ達の記念すべき初めてのスパイ活動にして――――初めての二重スパイ活動が始まった。











『……誰だね?』

「此方、元・第三軍団のフォレストウルフである。其方は()()()であるな?」



開口一番にして、クーゴから通信相手の名前が放たれる。


ばっ、バリー? ……聞いた事ある。いや知ってる。知ってるぞ僕。

でも誰だかまでは思い出せない。えっと……誰だ?




『ああ君達か、待っていたね。調子はどうかね?』

「我ら3頭揃って問題ない」

『それは良かったね。……こっちはもう、仕事が多くてテンテコ舞いだね』

「お疲れ様である」

『ありがとうね。全く、()()の仕事も簡単じゃないね』



だっ……大臣!?




――――あ。

そっ、そうだ。思い出したぞ!

バリー……バリー・ブッサン。産業人部門の大臣だ!


王都で一度だけあった事が有る。声質はともかく、喋り方はよく似てる。そして自ら口にした大臣という役職。

間違いない。通信機の先に居る相手はバリーさんだ。




でも……どうしてクーゴ達が、こんな王国のお偉いさんと?

しかも、僕でさえコネを持ってないようなお偉い中のお偉いさんと通信を――――






……いや。

まさか、そういう事か?


ちょっと嫌な想像が頭に浮かんでしまったが……否定はできない。

寧ろ、一度そう考えてしまったらそうとしか思えなくなる。



まさか……まさか、バリーさんって実は――――











「まさかッ!?」






『……ん? 何だね今の声は?』



――――あっ、しまった!!

つい声がッ!!!

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本作は、以下リンク(後編)に続きます。
以下リンクからどうぞ。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
誤りや気になる点等が有りましたらご指摘頂けると幸いです。
感想欄、誤字報告よりお気軽にご連絡下さい。
 
皆様のご感想もお待ちしております!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
どうか、この物語が
 
小説を愛する皆様の心に、
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現実とかけ離れた世界を楽しみたい皆様の心に、
そして————数学嫌いの克服を目指す皆様の心に
 
届きますように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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