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21-6-2. 『機密回線通信Ⅱ』

∫∫∫∫∫∫∫∫∫∫






その通信機が受電したのは、第三軍団が全滅した『フーリエ包囲事件』から1ヶ月が過ぎた頃だった。



ティマクス王城の中の、とある一室。

『産業人部門・大臣室』との肩書きが掛けられた部屋にある、通信機。

明日の職務に備えて今まさに寝ようとしていた部屋の主は、顔を顰めて呼出音を上げる通信機へと向かう。



「ふうむ……こんな真夜中に電話を掛けるとは、一体どこの部署の者かね」


……だが。

鳴っている通信機は、大臣として普段使っている業務用の方ではない。

その後方に目立たないように隠し置いていた、もう1つの通信機だった。



「こっ……これは」


それに気付くや否や、彼の表情はガラリと変わる。



この通信機は、回線が傍受されない特殊加工を施した秘密回線通信機。

王国にはこの通信機の存在を知る物は居らず……存在を知っているのは、魔王軍の者のみ。


つまり、今通信機が早く受話器を取れと急かしているのは――――




「……成程。お呼びなのは()()()()、という事だね?」


産業人部門大臣のバリー・ブッサンではなく、元・魔王軍第三軍団のバリー。

スパイとして王国に潜入している、バリーだった。




「……了解したね」


眼を閉じて深呼吸を1つ済ませ、彼はおもむろに受話器を取った。
















「…………誰だね?」

『此方、第三軍団所属のフォレストウルフである。其方はバリーであるな?』

「おお、生き残りが居たんだね! これは驚いた! ……もう第三軍団は、とうに全滅したと思っていたのだがね」

『左様、我らは幸運にも』

「そうだね。あれからもう1ヶ月、生き残ったとしても野良の魔物に淘汰されているだろう時に……しかしそうか、まだ私にも同胞が居たのか。嬉しぃ……ねぇ…………うん、本当に」

『むっ、バリー殿……バリー殿?』




「……ふぅ、ちょっと失礼したね。君達の声を聞けてちょっと感動してしまってね」

『構わぬ。バリー殿の気持ちが落ち着くまで、我らは何時までも待つ』

「ハッハッハ、ありがとう。……さて、それでは本題に入ろうかね。まず君達、今どこから通信を掛けているのかね?」

『ああ。我らは今、フーリエより掛けている』

「……なんと! 街中から掛けているのかね!?」

『左様』

「しかも、あの高い高い外壁に護られたフーリエの街中に居るとは。……そもそも君達、どうやって街に潜入したのかね? 海を泳いだか、馬車に紛れたか、それとも人間に化けたかね?」

『否、何れにも非ず。……実は今、我らは"白衣の勇者"の下で居候している』

「な、なんと!! あの憎き白衣の下にかね!?」

『仰る通り』

「………………それはそれは驚いた、言葉が出ないね」

『バリー殿が驚くのも無理なかろう。()(よう)な現実になるとは、我らフォレストウルフも想像しなかった』

「そうだね。……ではちょっと、あの戦いから今に至るまでの君達の動き、教えてくれるかね?」

『些か長くなるやもしれぬが』

「構わないね」

『承知。ならば……――――






「……ふむ、成程ね。まさか逃げ延びた洞窟で偶々白衣とバッタリ会うとは、君達も不運だったね」

『全くである』

「しかし、本来ならそこで残党狩りされるのが常。そこで白衣に忠誠を誓い、15頭全員の命を勝ち取れたのは幸運以外の何物でもないね。それに、こうやって秘密裏に扱える通信機を見つけたのもお手柄だったね」

『忝い』

「…………では、今度は此方から軍の動きを教えてあげようね」

『宜しく頼む』

「まず、あの『フーリエ包囲作戦』の顛末についてだね。あの戦いの後、無事魔王城に戻れたのはセット君のみ。軍団長をはじめ出陣した第三軍団員は全員戦死として扱われたね」

『ふむ』

「結局、第三軍団は取り崩し。ただ2人の生き残りとなった私とセット君も、それぞれ第二軍団の諜報員と指揮官補佐に回されたね」

『成程。ならば、我らも今は第二軍団に所属と云う事であるな』

「いや、違うんだね」




「さっきも言った通り――――君達の籍はもう無い」

『なっ……』




『な、ならば我らは……』

「ただし、勘違いしないで欲しいね。君達とは今まで連絡が取れなかったが為に、仮に戦死扱いしていただけ。まだ生きていたと分かれば、魔王様もきっと喜ぶだろうね。…………それに」

『それに?』

「白衣に忠誠を誓って奴に付き従うはずの君達が、今こうやって秘密回線通信を掛けてきている。……つまりそういう事なんだよね?」

『左様。抑も、我ら3頭は初めから忠義を誓ってなどいない』

「随分と肝の据わったウルフも居たものだね。……うん、気持ちは分かった。君達は今、紆余曲折あって魔王軍の中で最も白衣に近い存在となった。白衣やその仲間とも良好な関係を築いており、以降は諜報員として再び魔王様のお役に立つつもりだと。そういう訳だね?」

『左様』

「了解したね。ならば今の件、明日にでも魔王城に報告するね。……私と同じスパイとして、これからもまた宜しく頼むね」

『ハッ!!』






「となれば、諜報員となる君達に一つ伝えておく事がある。君達は近々行われる"受勲式"について知っているかね?」

『是、白衣が国王に呼ばれたと云う物ならば。以上の詳細は聞いていないが』

「そうそう、そこまで知っていれば十分だね。……実はその式典に合わせて、第二軍団も動くみたいなんだね」

『ほう』

「作戦の詳細はまだ明かされていないけれども、その式典が近付けば白衣は必ず動きを見せる。その何処かしらで現れる隙を突くみたいだね。……そこで君達には、白衣の行動予定を聞き出す任務が与えられるだろう。それはまた後日、決まり次第伝えるね」

『ハッ!』



「という事で、次の連絡は……そうだね。また明後日か明々後日あたりにでも秘密回線通信を掛けてきて欲しいね。白衣の隙を見て、無理ならばその後でも構わない。とにかくバレない事を第一にね」

『無論』

「その時に此方での進捗や君達の処遇を教えてあげるね。それでは」

『承知。では』






「『全ては魔王様の理想のために』」











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本作は、以下リンク(後編)に続きます。
以下リンクからどうぞ。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
誤りや気になる点等が有りましたらご指摘頂けると幸いです。
感想欄、誤字報告よりお気軽にご連絡下さい。
 
皆様のご感想もお待ちしております!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
どうか、この物語が
 
小説を愛する皆様の心に、
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現実とかけ離れた世界を楽しみたい皆様の心に、
そして————数学嫌いの克服を目指す皆様の心に
 
届きますように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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