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21-4. 殺人

その後。




陽が暮れる頃に、シンは無事帰宅。どうやら今日も灯台に行ってたみたいだ。

帰ってきた時のシンの表情、いつもよりスッキリしてたな。心の疲れも癒せたんだろう。


そして全員が揃えば、お待ちかねアークお手製の夕食だ。

メニューは勿論鯨丼。今日は焼肉風のガッツリ系丼ぶりだったな。


味はどうだったかって?

……そんなの言うまでもないじゃんか。



そうそう、夕食を食べつつ僕が受勲式にお呼ばれした事についても話しておいた。

アークは同席してたから知ってたけど、シンとコースとダンの3人は結構驚いてたな。

聞いてみれば、王国での受勲ってのはそう簡単には受けられない名誉な事だそうだ。……ううっ、そう言われるとやっぱり緊張するな。


そうして夕食も終わり、ゆっくりと食後のお茶を頂いたり幼犬をモフモフしたりしながら寛いでいれば、時刻はあっという間に夜の9時。

コースがウトウトし始めたのを見て、僕達は自室へと入っていった。






ガチャッ

「…………」


自室に入って扉を閉めるや否や、真っ先にベッドで横になる。



「………………はぁ」


突っ伏した枕に、思わず出た溜息が吸い込まれていく。




……実はここ最近、僕はずっと悩んでいる。

こうやって1人になる度に脳内で再生される、()()()()に。


ホエールの舌の上をシンが必死に駆けるも、パクリと口を閉ざされる――――あの瞬間に。



「……くぅっ」


その度に胸が締め付けられる。

こうやって今も。


勿論、この映像の続きは結果オーライとなる。現に今もシンが生きている通りに。

だが――――僕の脳内で蘇る映像は、あの瞬間ばかり。

もう本当にシンは死んだと思った、あの瞬間が繰り返し繰り返し延々と流れるのだ。



僕がシンを死なせてしまったと……僕がシンを()()したと、そう感じたあの瞬間が()()()()になって。






「……クソッ」


悔しさと恐怖で眠れない。

かといって別の何かで気を紛らわそうとも、すぐに引き戻されてしまう。

何かに手をつけようとも、集中が続かない。


そうして、結局僅かな浅い眠りで朝を迎えるのだ。



受勲式の方も色々と不安や心配は有るけど、そんな物は比べ物にならない。

あの瞬間に比べれば。






「くぅっ……」


再び映像が再生され、胸が締め付けられる。


……クソッ、今日は特に苦しい。

心臓が潰されそうだ。



「ハァ、ハァ、ハァ……」


枕から顔を上げて深呼吸。

冷や汗が目の横を伝う。



「はぁ……はぁ……はぁ……」


落ち着け、落ち着け僕。

息を整えろ……。




「………………ふぅ」


深呼吸を繰り返すこと十数回、一先ず気持ちは落ち着いた。

棟の痛みも治まった。


……だが、こんなのが毎晩続くと体力的にも精神的にも厳しい。

僕の方が死んでしまいそうだ。


早くなんとかしなければ。



「このトラウマに――――決着を付けよう」











……とは言っても、だ。

そんな事、どれだけ言ってもそう簡単には乗り越えられない。

忘れるのも無理、思考を逸らすのも無理。それがトラウマなんだから。


じゃあ、どうすれば良いか?




――――方法は、1つだけある。

たった今、ふと思いついたんだ。





「……トラウマになる位にバカ勝ちして、トラウマを上書きする」




そう。

いずれ来る、魔王軍との次なる戦い。

奴らは僕を恨んでいるし、一点集中してくるだろうから必然的に訪れる。


ソコで恐ろしいほどのバカ勝ちを挙げてやれば良いんだ。



圧勝なんて言葉じゃ全然足りない。

この前みたく仲間を危険に曝すような事も無い、一方的な勝利を。

強烈なトラウマとして脳にビッシリ焼きつく位の……バカ勝ちを。



理に適ってない? あぁ、そんなのは僕も分かってる。

けど、そうでもしないと僕の気が収まらないんだ。


もう二度と、『()()』をしないために――――。











「……さて」


で、だ。

バカ勝ちするためにはもっともっともっと強くならなきゃいけない。

襲ってくる敵も第三軍団から第二軍団、第一軍団と強くなってくるのだ。


『バカ勝ち』するには、それを余裕で上回る強さを点けなきゃいけない。



となれば……やることは1つ。




「勉強するしかない」


言うまでもない。分かりきった事だ。

さて、今晩もやろうか。











ただ、勉強するといってもこの部屋だと。

どうしてもあの瞬間の事ばかり考えちゃうからな。



「今日もCalcuLegaだな」


……よし。部屋を変えて気持ちを切り替えよう。

塾の自習室みたく、気分がスッキリするかもしれないしね。




という事で、机の上に置かれていた参考書・紙・ペンの勉強三点セットを掻き集め。

自室の電気を消して部屋を飛び出し、階段を下りて1階へ。

誰も居ない作戦会議室・CalcuLegaの照明を点け、会議机の席に着く。



「……よし」


あとは勉強三点セットを机上にセットすれば準備完了。




「今日の単元は……――――あぁ、あの続きか」


今回は目次を開かなくても単元が分かる。『三角関数』の続き、後半部分だ。

内容が多いがゆえに2単元に分かれてるんだったもんな。




という事で、目次を開いて『三角関数(その2)』のページへと飛ぶ。



「……うん。気分も悪くない」


やっぱりCalcuLegaに来て環境を変えたからか、さっきの苦しさがだいぶ和らいだ気がする。

これなら一気に集中して勉強を進められそうだ。






それじゃあ……今夜も数学の勉強、やりますか!

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本作は、以下リンク(後編)に続きます。
以下リンクからどうぞ。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
誤りや気になる点等が有りましたらご指摘頂けると幸いです。
感想欄、誤字報告よりお気軽にご連絡下さい。
 
皆様のご感想もお待ちしております!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
どうか、この物語が
 
小説を愛する皆様の心に、
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現実とかけ離れた世界を楽しみたい皆様の心に、
そして————数学嫌いの克服を目指す皆様の心に
 
届きますように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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