21-3. 報告
――――なんて話をしていると。
コンコンコン
「……ん?」
CalcuLegaと玄関を繋ぐ扉からノック音。来客みたいだ。
今日は特に約束は無いハズだけど……誰だろう?
「トラスホーム・フーリエで御座います」
「はーい。どうぞー」
「失礼致します」
なんだ。トラスホームさんだったか。
「お早う御座います、ケースケ様、アーク様、そしてクク様。お話し中のところ失礼致しました」
「いえいえ。丁度切れ目の良いところだったので」
「左様でしたか」
扉を開けて入ってきたトラスホームさんは、今日もいつも通りの紺スーツ。
髪もビシッと整え、バッグも携えてしっかりビジネスマンだ。
「で、トラスホームさん。今日は何のご用で?」
「はい。本日は、ケースケ様方に急ぎ御報告する事が有って参りました」
「急ぎご報告……?」
なんだろう。
嫌な予感しかしない。
「また魔物出現ですか? それとも魔王軍が――――
「ああ、いえいえ。そういった御報告では御座いませんよ」
えっ、そうなの?
「となると……?」
「少々お待ち下さい。悪い話では御座いませんから、どうぞ御気を楽にされて下さい」
どんな内容かドキドキする僕達を焦らしながら、おもむろにバッグを開いて三つ折りの紙を取り出すトラスホームさん。
三つ折りを開けば、中からはトラスホームさんの綺麗な手書きの文字が現れる。
「こちらの内容は、今朝一番で魔力通信機にて王都から届いたメッセージになります。……では、お読みします」
「よろしくお願いします」
そう答えれば、トラスホームさんは一呼吸置いて……ゆっくりと、その内容を読み上げた。
「呼出状・カズハラケースケ殿。――――貴殿の諸活躍は、王国の平和維持に対し多大に貢献したと王国議会にて認められた。よって、以下日程にて受勲式を執り行う事とする。定めて参加すべし」
じっ……受勲式!?
「記。――――日時・本案内送付日より20日後の正午。場所・王城、謁見の間。なお、他詳細は後日送付する正式な呼出状を参照のこと。……以上。国王マーガン・ティマクス、代読トラスホーム・フーリエ」
おぉ……。
まさかの国王様直々のお呼び出しかよ。
「やったじゃない、ケースケ! 活躍が認められたのよ!」
「おめでとうございます。私も、フーリエを治める領主として大変嬉しいです」
「あ、ああ。……本当ビックリだ」
いや、マジか。
話のスケールが大きすぎて実感が湧かないよ。
国王様からの受勲式って……つまりアレだろ? 日本に居た時にニュースで時々見る、総理大臣賞とか天皇陛下からの褒賞みたいな物だよな。それと同レベルの式典って事だよな?
そんな式典に、僕が呼ばれてしまったと。
「うわー……今からでも緊張で縮こまりそうだ」
「御心配は無用です、ケースケ様。第一、ケースケ様は『この世界』へとやって来られた時に一度謁見された筈。初対面ではないのですから」
……とは言っても、かれこれもう3ヶ月くらい経つしさー。
ほとんど憶えてないよ。
「友達のご兄姉さんに会いに行く程の心構えで十分ですよ」
……それはそれで気を遣うじゃんか。
「極論を申せば、タメ口でも国王陛下は御見過ごし下さるかと」
「……ハハッ」
流石にそこまではしないから大丈夫かな。
……とはいえ、今のでちょっと自信が湧いた気がする。
「えっと、とりあえず今の話を纏めると……要は20日後に王城に行けば良いって事ですよね? トラスホームさん」
「左様です」
よし、分かった。
20日後に王城ね。
「先程も申し上げました通り、後日ケースケ様の下へと御手紙が届けられる筈です。詳細や持参品等につきましてはそちらに載っております。それでもご不明な点が御座いましたら、何時でも私まで御尋ね下さい」
「分かりました」
とりあえず、今は手紙を待てって事だな。
当日までは3週間弱も有るんだし、旅程を組むにせよ何にせよノンビリやっていこう。
話は以上のようで、用事を終えたトラスホームさんは手紙を再びバッグに仕舞うと。
『それでは、山のように溜まった先日の件の書類を処理して参りますので』と言い残して、そそくさと玄関へと向かった。
……領主さんってのも大変だな。
フーリエのためにいつもありがとうございます。
「それでは、私はこれにて失礼致します。御邪魔しました」
「いえいえ。お疲れ様です」
見送りに来た僕達に一礼し、玄関の扉のドアノブに手を掛ける――――
「……あっ、そうでした。最後にもう一つ」
「何でしょうか?」
「今、シン様はお家にいらっしゃいますでしょうか?」
ああ、シンか。
「いや。今日は朝から出掛けちゃってます」
「左様でしたか、ならば結構です。有難う御座います」
「もし何か有れば、帰って来た時に伝えておきますけど。それか急ぎなら【共有Ⅵ】で今すぐ呼び戻しますし」
「あ、いえ。急ぎでは御座いませんし、今度直接御会いした際に改めてお話しますので」
そっか。
まぁ、トラスホームさんがそう言うのならそれで。
「では、改めて。御邪魔しました」
「「お気を付けて」」
そうして、今度こそトラスホームさんは領主屋敷へと戻っていった。
「……シン、今日もあそこに行ってるのかしら」
「多分な。あそこならシンも気を落ち着けられるだろうし」
「確かに。あの件から毎日、ある意味気苦労が溜まってそうだもんね」
シンはここ最近、毎日お気に入りの場所に通ってるみたいだからな。
多分、今日もそこに居るんだろう。
……まぁ、僕達も変に干渉せず放っておけばいいか。




