20-8. 灯台Ⅱ
林に入ってから20分。
「皆様、もう直ぐです」
森林浴を楽しみながらも小道を進んでいくと……道の先に開けた空間が見えてきた。
林の出口だ。
「あの先に灯台が有んだよな?」
「ついにお出ましですね……!」
探検のゴールが近付き、ワクワクが抑えきれない様子のシン・コース・ダン。
今にも駆け出しそうだ。
「見えて参りましたよ」
そうして、僕達は無事に林を抜け。
青空の下へと戻ってくると――――
ソレは、突然目の前に現れた。
「「「「「おおおぉぉ…………!」」」」」
海岸から一段高くなった丘の先端。
少し平たくなった草地の広場の、そのド真ん中に――――それはズッシリと聳え立っていた。
まるで、地面に突き立てられた巨人のロウソク。
その根元は大木よりも太く……倒れる想像すらさせない。
見上げてみれば、その高さは十何階とあるビルにも劣らない。
先端に向かって細くなるその塔体は、太陽の光を反射して白く輝き。
最上階には、灯台の光源がある全方位ガラス囲いの部屋。
と、その周囲にはグルリと囲む鉄柵付きの展望回廊。
「こっ……コレだ…………!!」
真下からだと物凄い威厳を感じるが……このシルエット、間違いない。
フーリエ鍛冶工房から見えた、あの形と一緒。
「これが灯台、なのね……!」
「私の想像、軽く超えられました!」
「うおおおー! 高っかーい!」
「こりゃあ凄え……フーリエにこんなモンが有ったのか!」
コレこそが、丘の上からフーリエの夜の海を見守る――――フーリエ灯台だ!
さて。
人間とは、高い所を見つけるとついつい上ってみたくなるものだ。
それは、僕がもと居た世界でも、こっちの世界でも変わりやしない。
ましてや、こんな高い灯台を見せつけられようものなら……もう上らない手は無いのだ。
「この扉から入って、中の螺旋階段を上がれば展望回廊です。常時開放しておりますので、何時でもどなたでも入れますよ」
そう言って、トラスホームさんが灯台の扉を開くと――――
「イヤッホー! いっちばーん!」「わんわん!」
「あっ、コースずるいですよ!」
「俺も行くぞ!」
吸い込まれるように駆け込むコースとチェバ。
シンとダンもそれにつられて灯台の中へと入っていく。
「それじゃあ、僕達も……」
「お邪魔します」
そんな3人に遅れて僕とアークも中に入ってみると……灯台の中は大きな空洞になっていた。
上に行くほどすぼんだ形の、円柱型の空間。いや、円錐型って言った方が正しいかな。
外と同じで中も白一色の壁にはポツポツと窓があり、照明が無くとも陽光で十分明るい。
そして……何と言っても一番目に入るのは、壁を伝ってグルグルと上がる螺旋階段だろう。
「うわぁ……高いわね」
「あぁ。最上階が見えないな」
灯台の中心に立って見上げれば、何周も何十周もかけて上を目指す螺旋階段。天井が見えるのはその奥だ。
……外から見ただけでも十分に高いと思ったけど、こうやって中から見ると一層高く感じられるな。
そしてコース達はもう既に4周分くらいの地点まで上っている。……速い。
「先生ー! 早く来ないと置いてっちゃうよー!」
「もう置いて行ってるじゃんか」
……ってか、そもそも展望回廊に上がるにはコレを全部踏破しなきゃいけないのだ。
コース達に追いつく以前に、体力の無い数学者が上りきれるのかどうかも怪しい。
――――ですが、そんな体力に自信の無い方にオススメなのがコレ!
「【冪乗術Ⅲ】・ATK4!」
じゃーん、僕自慢の【演算魔法】!
こうすれば、筋力は普段の『4乗』。倍の概念を軽く超えたステータス強化魔法が、階段を上る僕の足腰を強力アシストしてくれるのだ!
「【冪乗術Ⅲ】・ATK4! 【冪乗術Ⅲ】・ATK4!」
ついでにアークとトラスホームさんにも魔法をおすそ分けだ。
これで全員ラクに上れるぞ!
「それじゃあ行こうか、アーク。トラスホームさん」
「ええ」
「勿論です」
そして。
「ふぅ……着いたー」
コース達の3人に遅れながらも、なんとか上り切った僕達。
最後の一段を上がった先にある、外への扉を開けば……――――
「「「おおおぉぉぉぉッ!!」」」
そこは、地上30メートルの展望回廊。
さっきまで居た林が、草原が、海が、全部下に見える……灯台の展望回廊だ。
「凄い景色だな!」
「良い眺めね……!」
そして、その眺望の良さといったら……もう感動だった。
左から右まで、ずっと広大な海。オーシャンビュー。
所々に白い漁船がポツポツと浮かんでいるのまでしっかり見える。
今日も雲一つない青空は、見上げる程に青の濃さを増していく。
逆に見下ろして行けば……海と交わるのは、クッキリと弧を描いた水平線だ。
海が見える方角から、展望回廊を半周回ってみれば景色は一転。緑の生い茂る木々が丘を覆っている。
この高さからじゃ、ドコがさっき通ってきた獣道かもわからない程に自然が広がっていた。
そしてそんな林の上からは、ちょこっと領主屋敷の屋根が覗いている。
ただ……景色が良いなんて、そんな言葉だけじゃ済ませられない。
ビュォォと僕達の身体を通り過ぎていく、強い海風。靡かれた白衣が暴れているようだ。
広大な海からやってきたそれは、港で感じるそれとは違った新鮮な匂いを残して過ぎ去る。
普段よりもチリチリと感じる、肌に照りつける太陽光。まるで太陽に近付いた気持ちになる。
360°のパノラマだけじゃない。
五感をフルに使えば、360°なんて軽く振り切れる。
眺望に、海風に、陽光に……全てがまさに感動だった。
「この景色といい、この風といい……まるで鳥になった気分です!」
「飛んでないけどねー」
「んな事は良いんだよコース!」
先に展望回廊に着いていたシン達も、この気分を味わっている。
「あっ、ケースケ。フーリエの街が見えるわ」
「本当だな。……かなり見切れてるけど」
「あの煙がモクモク立ってるのって、あの鍛冶工房じゃないかしら?」
「本当だ。今日も加冶くんは仕事頑張ってるな」
そういや、この灯台の存在は彼に教えてもらったんだもんな。
今度会った時には是非、彼にもこの感動を教えてあげよっと。




