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20-6. ◯◯◯◯ II

Point②

『スゴ技芸人、爆誕』



どうして定規も使ってないのに、三角形の辺の長さが求められたのか。

そのカギは三角関数にある。


三角関数がどんなモノかと言うと……そうだな。ちょっと説明が難しいけど、例えるならある種の『スゴ技芸人』みたいなモノだろうか。



===========

名前は『サイン正西』。男3人のトリオ芸人・サンカクファンクションズのツッコミ担当だ。

そんな彼にはちょっとした特技がある。テレビのネタ番組とかでもよく披露する、こんなスゴ技だ。



「皆さんの好きな角度を、僕の名前と一緒に『サイン何度!』と仰ってください。そしたら即座にその時の『斜辺と高さの比』を言い当てますので」


すると、番組ではMCやレギュラーが次々と適当な角度を振っていくのだが……それに対しサイン正西は考える隙もなく答えていくのだ。



「サイン45°!」

「0.7071です!」

「凄いな。じゃあサイン、53°!」

「0.7986!」

「えーと……サイン7°は?」

「0.1219!」

「ほんならコレはどうや! サイン1°!」

「0.0175!」

「おぉー、やるやんか!」


こうして1問も外さずに掛け合いを終えれば……ココからが定番の掴み所。



「じゃあじゃあ、サイン35度8分は?」

「いやそれ体温の言い方やないかーい!」

「うーん……俺ちょっと熱っぽいかも。サイン36度2分」

「いやバチバチの平熱やないかーい!」

==========



……とまぁ、勿論こんなダサい芸人は実在しない。架空の人物だ。


けど、数学の三角関数ってのは案外コレから然程離れていない。割とこういう風に『角度』を『2辺の比』へと変換してくれるモノなのだ。



サイン正西が披露していた内容を、実際に数式に書き起こすとこうなるぞ。


sin45° = 0.7071

sin53° = 0.7986

sin7° = 0.1219

sin1°= 0.0175



『sin』と書き足した角度を、辺の比とイコールで結んだだけ。

たったコレだけで『45°の角では、斜辺と高さの比が0.7071』っていう意味になるのだ。

2行目以降の数式も同様、53°の角度だと高さは斜辺の0.7986倍って意味になる。



言うならば、『 ° をcm』に変える者。

それこそが三角関数なのだ。











Point③

『₃C₂ = 3通りの選び方 = 3つの関数』



そんな三角関数だけど……Point①でも前述した通り、3種類居たよな。

サイン、コサイン、タンジェント。記号でそれぞれsin、cos、tanだ。


……となると、この3種類の違いは何だ?

そう思った人も居るんじゃないかな。



勿論、コイツらは同じ三角関数の括りでも似て非なる存在。

何が違うのかといえば……『ドコ分のドコ』で辺の比を取っているかだ。


前のポイントでも紹介したsinは、『高さ / 斜辺』。

それに対し、コサインのcosは『底辺 / 斜辺』。

タンジェントのtanは『高さ / 底辺』の比だ。


3本の辺から2本選んで比をとっているから、その辺の選び方は全部で ₃C₂ = 3[通り]。

だから三角関数も3つ有るってワケなのだ。



ちなみにこの2者も、数式においての使い方はsinと同じ。

Point①で使った底辺4・高さ3・斜辺5の直角三角形なら、36.9°の角に対して三角関数はそれぞれ次のように表せるぞ。


sin36.9° = 3/5 = 0.6

cos36.9° = 4/5 = 0.8

tan36.9° = 3/4 = 0.75









Point④

『"三角定規"だけは絶対に覚えとけ!』



ところで、皆は三角定規って覚えているだろうか?


小学校の算数とかでよく使ったアレ。横長のヤツと左右対称なヤツの2枚1ペアで、重ねると端が微妙にはみ出てるアイツらだ。



そんな三角定規、実は三角関数を学ぶ上では絶対に欠かせない()()()()()()()()()をしているのだ。


30°、60°、90° の角を持つ横長な方だと、3辺の比が『1:2:√3(___)』になっている。短辺、斜辺、長辺の順だ。

対して45°、45°、90°の角を持つ相方は『1:1:√2(___)』。



なので、この三角形を使えば30°、45°、60°の三角関数は暗記できちゃうほどカンタンに作れる。


sin45°は、対称の方で『斜辺(√2)ぶんの底辺(1)』。

1/√2(___)になる。

cos60°は、横長の方で『斜辺(2)ぶんの短辺(1)』。

1/2 だな。

tan60°は、横長の方で『短辺(1)ぶんの長辺(√3)』。

3(___)/1 = √3(___) だ。

tan45°の場合は、横長の方で『底辺(1)ぶんの高さ(1)』。どちらも同じ長さだからジャスト1だ。


こんな感じで、sin、cos、tanの30°、45°、60°はどの組み合わせもカンタンに作れちゃうぞ。今試しに計算した4つの他にも5通り残っているので、時間があったらぜひ試して、そして覚えてみよう。











Point⑤

『90°よりも大きい時はどうするんだ!?』



ココで1つ疑問。


今までは、三角関数に当てはめる角度は90°までだったよな。直角三角形に鈍角はあり得ないからだ。



ではもし、三角関数で90°より大きな鈍角を入れたら……例えば『cos120°』とかを作っちゃったら、その時の『辺の比』はどうなっちゃうんだろうか?


ちょっと想像してみよう。



===========

とある広い庭付きのお宅で、1頭のワンちゃんが飼われていました。

彼はヤンチャでいつも元気が良く、普段は庭の真ん中に置かれた犬小屋に紐で繋がれていました。

その長さは丁度1m。小屋から半径1mの円上まで行くと紐がピンと張ってしまうにも拘らず、そのワンちゃんは遠くへ行こうと円上をグルグルと駆け回っているのでした。

===========



では、ココで問題。

このワンちゃんは、小屋から最大何mまで北に動けるでしょうか?

または、最大何mまで南に動けるでしょうか?




……コレはきっと簡単だよな。

正解は北にも南にも1mだ。


つまり、このワンちゃんは小屋から北に向かって『-1mから1m』までの間なら自由に動けるって事になるぞ。




では、続きをどうぞ。


===========

ワンちゃんが円上にいて紐がピンと張っている時、真北の方角と紐との角度をθ(シータ)[°]としました。

===========


ココで次の問題。

例えばワンちゃんが θ=60° の所に居る時、ワンちゃんは小屋よりも何mだけ北に居るでしょうか?





……この問題、解くには角度を長さに変換しなきゃいけない。つまり三角関数が必要になるぞ。



結論から言うと、答えは『0.5m』だ。


ワンちゃんが真北にx[m]だけ進んだとすれば、三角関数を使って『cos60° = x(北にx[m]=短辺 )/1( リード長=斜辺)』って式が立てられる。

で、右辺の分母の1を省略すると、この式は……『cos60° = x』。


そう。実はこの問題、求める答えは『cosθ』そのものなのだ!


だから、答えが欲しければ角度のコサインを求めれば良い。

今回はコサインの60°なので、先で紹介した通り cos60°=1/2 。

こうして答えは0.5mとなるのだ!






……というのを踏まえると、だ。


もしこのままワンちゃんが小屋から真西に動いたとすると、その時の『小屋より北に何mか』の答えは丁度0mになるよな。

と同時に、その答えはcos90°と一致する。


つまり、cos90° =0 となる。


その上、もし更にワンちゃんが南へと動いたとすれば……角度θは90°を超える。

と同時に、『小屋より北に何mか』の答えはマイナスに突入するのだ!




という事で、最初の疑問――――『θが90°より大きい時、三角関数はどうなるのか』。

その答えは、cosの場合『90°でゼロになり、そのままマイナスになる』。

コレこそが答えだ。




こういう風に、三角関数が90°以上の時は直角三角形を飛び出して『円と座標』で考えれば良い。


三角関数の定義域θは全ての実数。どんな数を入れても、必ずあのワンちゃんのように値域『-1から1』の間の数で応えてくれるぞ!











Point⑥

『そのグラフの美しさ、ナミ外れ』



2章構成の三角関数の単元、前半最後のポイントはグラフを紹介しよう。

三角関数『y = sinθ』のグラフだ。



実はこのグラフ、結論から言うと『形がナミ外れて美しいグラフ』だと思っている。

直線になる y=ax よりも、放物線になる y=ax² よりもだ。


……ただ勿論、人によって感じ方は変わるので一概にそうとは言えない。けど、初めてコレを見て感動する人は少なくないんじゃないかな。



ではまず、グラフを描く下準備として yとθとの関係を表にして y=sinθ の形を想像してみよう。

ちなみに、sinθが90°以上の場合はPoint⑤で解いた『小屋より()に何mか』の問題を『西()』で問い直せば良い。


すると、θとyの対応表はこうなるぞ。



─┬─┬──┬───┬───┬───

θ│0 90 180 270 360

y│0  1   0  -1  0

─┴─┴──┴───┴───┴───



θが0から増えていくと、θ=90°で y=sinθ は最大の1に。すると今度は減っていき、θ=180°で丁度0を突破、マイナスへ。

するとθ=270°で最小の-1をとると、再び上昇。θ=360°、丁度1周して0°に戻ってくるという流れだな。


つまり、y=sinθ はθが増えるにつれて上がったり下がったりを繰り返しているのだ。


……ココまで来れば、もうお気付きの方も多いだろう。

今の表を基に、y=sinθ の形を θ-y グラフに描いてみれば――――こうだ!



  ↑y

 1┼   ●         

  │ ●   ●           ●

  │●     ●         ●

  │  90     270 360

──●───┼───●───┼───●─→

  │O    180         θ

 ●│        ●     ●   

● │         ●   ●  

-1┼           ●   

  │



この●達を滑らかに繋いでいけば……きっと、心のキレイな方には見えるハズだ。

θ軸に沿って美しく波打つ、y=sinθ のグラフが!



という事で、三角関数『y=sinθ』のグラフはこのように波打つカタチになるのだ。


その名も『正弦波』。θ軸の続く限り、グラフも同じ波を繰り返しながら伸びていくぞ。

ちなみに y=cosθ も形は同じ。違うのは y=sinθ が0スタートだったのに対し、1からの下り坂スタートになるだけだ。


……どうだろうか。

ナミ外れて美しい三角関数グラフ、あなたも感じられたのならば幸いだ。











以上で『三角関数』のお話・前半戦はおしまい。


この章では三角関数の紹介がメインだったな。

次の後半戦では三角関数を使った応用問題について見ていくぞ。



それでは――――次章に続く!
















「(ふぅ……長かった…………)」


三角関数……解説ページを読むだけでも大変だった。理解するのも一苦労だ。


けど、少しは頭に入った気がする。

お笑い芸人だの庭のワンちゃんだの、よく分からない例え話が多かったけど……まぁ、悪くはなかったかな。




「(さて!)」


まぁとにかく、解説ページは読み終わったのだ。

となれば、次に僕を待ち受けているモノと言えば……アレしかない!




「(練習問題だ!)」


解説ページで読んだ知識を確かめる、全20問の練習問題。

と同時に、いつも通り『新しい魔法』が僕を待っているに違いないのだ!



……下心が丸見えだって? 知らないね!

新魔法万歳。チート最高です。




「(さてさて!)」


ルンルン気分でページを捲り、練習問題へと移った――――











ガチャッ

「っ!?」


急に背後の扉が開く。

……こんな時間に誰だッ!?



「なんだ、先生が居たんですね」

「この声……シンか?」


振り返れば、扉の奥からは部屋着のシンが顔を覗かせていた。



「どうしたシン、こんな時間に?」

「いえ、特に何も。……トイレに行こうとしていた時に、CalcuLegaの電気が点いているのに気付きまして。消し忘れなのか誰かいるのかを確認しに来ただけですよ」


……そうだったのか。

無駄な手間を掛けちゃったな。



そう言いながらシンが部屋に入ってくると、勉強道具の並ぶ机の上を眺める。


「……それにしても先生、こんな夜遅くまで勉強をされてたんですね。お疲れ様です」

「おぅ。ありがとな」

「今晩はどんな内容をやったんですか?」

「あぁ。今日は『三角関数』ってヤツだ」

「さんかく、かんすー…………?」


そう呟いて首を傾げるシン。

……それもそうだ。タダでさえ勉強した僕でもギリギリ理解できたくらいなんだからさ。





「……へぇ。三角関数、やってるのね」

「おっ、アーク。いつの間に」


すると、そんなシンの後ろにアークの顔が。

彼女もいつの間にかCalcuLegaに来ていたようだ。……気付かなかった。



「にしても、アークのその言い方。……もしかして三角関数、知ってるのか?」

「名前だけね。昔散々勉強させられてた時に、そんな言葉が教科書の最後の方に書いてあったなって感じただけよ」

「「おぉ…………」」


流石は元・テイラー領主家のご令嬢。

良い教育がなされているようだ。




「……なんだか随分と賑やかじゃねえか」

「おおーっ! みんな揃ってどーしたの?」

「くぅん?」


なんて話をしていると、いつの間にかダンにコース、チェバまでCalcuLegaに入室。

こんな夜遅くにもかかわらず、まさかの全員集合だ。



「……ってかコース、お前はさっさまでリビングで船漕いでたよな。もうてっきり寝たと思ってたのに」

「ちょっと寝たら復活したの!」

「僕達も特に集まって何かやってる訳でもないし、眠かったら無理せず寝に行けよ」

「だいじょーぶ!」


……そっすか。

まぁ寝不足には気を付けろよ。




「おっ、見ろよシン! 先生の本、お前の名前が書いてあんぞ!」

「えっ! 本当ですか!?」


っと、そんなコースの相手をしている間にダンが参考書を覗き込んでいたようだ。

釣られたシンも覗き込みにくる。



……えっ、というか参考書に『シン』なんて書いてあったっけ?

見覚え無いぞ。




「ほら見ろよコレ。sin(シン)だとよ!」

「あっ……本当だ! っというか隣にはコースも有りますよ!」

「うぉっ、cos(コース)だ! 凄えじゃねえかコース!」

「えー!? どこどこー?」


……あっ、なーんだ。サインとコサインの事だったのか。

確かに『シン』『コース』とも読めなくはないけど。



「ほらコース、ココです!」

「どれどれー……えっ、なんか違ーう。コスじゃんこれ」


意外とノリが悪かった。




「まあまあ、細けえ事は良いんだよコース。……それよりもよお、2人の名前が有んならきっと俺の名前だってあるよな?」

「そうですね!」

「ダン探しだー!」


そう言い、机の上から参考書を掻っ攫うシン。

三角関数の解説ページを開き、3人で穴の空くほどジロジロ見つめる。




……が、勿論『ダン』は見つからない。



「これも『タン』、これも『タン』……タンばかりですね」

「惜しいのばっかだよー……」

「くぅッ、俺は居なかったのか。残念だぞ…………」


見つかるのは当然、タンジェントのtanばかり。

こうして、3人のダン捜索は無念の打ち切りとなったのでした。






――――さて。

切りも良いし、ココでそろそろ勉強の続きと行こうか。



「はいはい、それじゃあ皆解散解散。勉強の続きやるので部屋に戻ってください」

「はーい! おやすみー!」

「わん!」

「チェッ、まさか『ダン』だけ無えなんて……」

「ほら行きますよ、ダン。……では先生、おやすみなさい」

「勉強頑張ってね、ケースケ」

「おぅ、ありがとう。おやすみ」


なんとか強制的に彼らをCalcuLegaから追い出し、再び1人になる。



……いやー、まさかのシン乱入から全員集合になるとは。思いもしなかったよ。


けどまぁ、今のドタバタもあってか少し気分転換にもなったかな。心なしか頭もスッキリした気がするし。




「……よし」


それでは勉強の続きだ。

気合入れていこう。


三角関数のA問題、B問題――――そして新魔法が僕を待っているぞ!

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『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
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