20-5. ◯◯◯◯ I
明けましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
早速ですが、本年最初の投稿は伏せ字タイトルからです。
どうぞ!
加冶くんに会ってきた、その日の夜。
午後9:30。
アーク特製の鉄火丼を美味しく頂いた僕達は、食後のくつろぎタイムをソファやダイニングテーブルで思い思いのままに過ごし。
コースが舟をこぎ始めたのを機に、僕達5人とチェバはそれぞれの個室へと退散。
リビングを幼犬隊に明け渡し、『おやすみ』とお互いに挨拶を交わして部屋に入っていったのでした。
……のだが。
そんな寝静まったハズの家の中を、ひっそりと動く影が有った。
――――作戦会議室・CalcuLega。
空席の椅子が6脚と机、3冊ほどのファイルが入った本棚、そして観葉植物が並ぶだけの殺風景な部屋。
照明は消され、カーテンは閉じられて月明りも射し込まず、誰も居ない真っ暗な夜の部屋。
そんなCalcuLegaの扉が、静かにゆっくりと開かれる。
「(……良し)」
小さく開いた扉の隙間から覗いた眼が、部屋の様子を見回す。
「(……誰も居ない)」
無人である事を確認すると、おもむろに扉を開いて部屋に忍び込む。
その左腕には、箱型の直方体。
と共に、鋭い先端を持った円柱体が左手の中で怪しく輝く。
一方で、空いた右手を……壁にそっと伸ばすと。
「(何処だ……?)」
視界の利かぬ暗闇の中、壁伝いに何かを手探る。
「(有った……!)」
そして、目当ての物を見つけると。
おもむろにソレを――――照明のスイッチを入れた。
「(さて。今晩も勉強やろっかなー)」
……はい。
作戦会議室・CalcuLegaに忍び込んだのは、他でもない僕。
数学の参考書と紙、それに愛用のペンを持った僕でした。
今晩の勉強はちょっと気分を変えて、CalcuLegaで勉強することにしてみたのだ。
特に深い意味は無いけど、こういうのも却って集中を促したりとかいう話は聞いた事があるしね。
そんな事を考えつつ、明るくなった部屋の中央の椅子に堂々と腰掛けると。
作戦会議用の大きな机に広々と勉強セットを並べていけば、勉強の準備はあっという間に完了だ。
「(……よし。やるか)」
気持ちを切り替え、参考書の目次を開く。
えーと、前回勉強したのはつい昨日。『図形の性質』の単元だったな。ちゃんと憶えてるぞ。
内分や外分、あと三角形の四心やらを勉強したんだったな。
となると……今日はその次の単元。
目次の『数学I』の中、図形の性質に次いで並ぶ単元はと言えば――――
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20. 波
20-5. 三角関数I
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「(『三角関数』か……)」
出ました。
ザ・数学のご登場です。
高校数学の一角を占めると言っても過言ではない存在。
その知名度は、どんな数学嫌いをしても知らないとは言わせぬ程。
ついつい唱えたくなっちゃうあの3テンポで、誰しも一度は聞いた事があるだろう。
そして、それは同時に僕にとっては屈指の苦手ポイントでもあったのだ。
「(序盤はともかく……マジでコレ分からなかったんだよな…………)」
高校1年だった当時の、思い出したくもない嫌な記憶が蘇る。
赤点に赤点が嵩んだ、あの時……。
――――けど、やらなきゃ先には進めない。
成長できない。
となりゃ、やるしかないのだ。
「(……よし。やろう)」
普段よりも一倍強く覚悟を決めた僕は、頭をブンブンと振って嫌な記憶を吹き飛ばすと。
勢いよく『三角関数』のページへと参考書を捲った。
●三角関数(その1)
三角関数とは、平面図形における角度……すなわち角の大きさを、直角三角形の2辺の比に変換する関数である。
……と言ってもよく分からないよね。
こんな説明じゃ知らない人は全く分からないだろうし、名前しか聞いたコトのない人も分からないだろう。
ということで、今日は三角関数についてポイント毎に学んでいくぞ。
数学Iの『図形と計量』、数学IIの『三角関数』をまとめて2単元・全12ポイント構成でお届けだ。
それでは行ってみよう!
Point①
『定規が無い。分度器ならあるのに』
僕には、定規が無い。
一昨日の大掃除で間違って捨ててしまったのだ。
そして、運の悪いことに今日の宿題は『プリントに印刷された直角三角形の辺の長さを測って来い』とのこと。
ただし、斜辺だけは5cmと分かっているから残りの底辺と高さを測ってくるだけで良い。
分度器なら有る。スマホだって有る。なのに定規は無い。三角定規も巻尺も何も、長さを測れるモノは一切無いのだ。
中々困ってしまった。たった2辺の長さを測るだけという、1分で終わる造作も無い宿題にこれだけ悩まされるとは……。
――――さて。こんな時、あなたならばどうするだろうか?
想像してみて欲しい。
ちなみに『宿題をサボる』とか質問サイトに載せるとかの逃げはナシだぞ。
……どうだろうか。何かいい方法が思いついたかな?
では、解答例として1つの方法をご紹介しよう。
実は、定規みたく長さを測るモノが無くとも求めることができるのだ。
分度器と、既に斜辺が『5cm』と分かってさえいればね。
まず、高さの辺長から求めてみよう。
最初に、分度器を使って斜辺と底辺の間の角度を測る。
――――約37°だった。
次に、スマホの電卓を立ち上げ……横持ちにする。
――――左側に色々なボタンが増えた。
さっき測った角度『37』を入力して『エス・アイ・エヌ』と書かれたボタンを押す。
――――『0.6018』となった。
最後に、現れた数字に斜辺の長さ『5』を掛けるだけ。
――――『3.009』となった。ほとんど3だな。
そして、この数字こそが高さの辺の長さ。約3cmってワケだ。
では同様に、底辺の辺長を求めてみよう。
斜辺と底辺の間の角度は既に 37° と分かっているので、横持ちの電卓で『37』を入力。
そのまま今度は『シー・オ・エス』のボタンを押す。
――――『0.7986』となった。
となれば、後は同様に斜辺の長さ『5』を掛けるだけ。
――――『3.993』となった。大体4だ。
こちらも同じく、この数こそが底辺の長さ。4cmだ。
……実はコレら、両方とも正解。
新しく定規を買ってきて測ってみれば、高さは3cm・底辺は4cmと一致しているのだ。
それにしても不思議だよな。どうして正しい長さが分かったんだろうか? 長さを測るためのアイテム、定規は使っていないというのに。
角度しか測れない分度器と……計算しか出来ない電卓しか、使っていないのに。
――――勿論、そのカギとなるのは今回学ぶ三角関数。
さっき使ったボタンに書いてあった英語……『sin』、『cos』、そしてその隣にある『tan』。
数学の世界じゃなくてもそこそこ有名な3拍子、俗にいう『サイン・コサイン・タンジェント』。
ソレらこそが……『三角関数』なのだ。




