20-2. 図形の性質Ⅱ
ココからは『図形の性質』の後半戦。
内容は本単元メインの『円と三角形』だ。
シンプルな図形・三角形と円が織りなす関係を、ちょっとしたショートストーリーと共に見ていこう。
Point③
『マドカとミスミ・第一話』
~ 円には1つだけど、三角には4つ有る物とは? ~
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「ふぅー……寒い寒い」
冬の夕暮れ、イルミネーションで輝く大通りを駅へと歩く彼女……円。
とある都会の高校に通う、高校1年の女子高生だ。
「手が凍っちゃいそう……」
陽が暮れ、吐く息の白さも一層増す。
冬本番の北風を前にしては、マフラーやコートを以ってしても震えるほどの寒さ。
……だが、彼女は全然大丈夫。
なぜなら――――そんな円の隣には、彼が居るから。
「手ぇ、繋ぐか?」
そう言って左手を差し出すのは、小中学校からずっと同じクラスの男子高校生・三角。
家は少し遠いけど、帰りの電車はいつも一緒。降りる駅も一緒。高校ではクラスも同じになり、ずっと一緒に過ごしている存在だ。
「……うん」
周囲を少しだけチラッと確かめ、ギュッと握った。
「幾らでも温めてやるよ」
「……ありがと。ミスミくんの手、あったかいね」
「ああ。なんたって俺の手、マドカの4倍は温かいから」
「4倍……?」
「そう。マドカには1つしか無い物を、俺は4つ持ってるからな」
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さて。
突然始まった物語はさておき、ココで数学の問題だ。
円には1つしか無いけど、三角形には4つ有るモノ。コレって一体なーんだ?
……では、正解。
答えは『心』だ。
円にある心と言えば『中心』。だけど、三角にもそういった『心』が色々と有るのだ。それぞれ『重心』『垂心』『外心』『内心』と呼ぶ。
コレこそがミスミの言っていた『4つのモノ』だ。
重心とは、文字通り重さの中心。立てた人差し指の上に三角形の重心を乗せれば、三角形が傾くことなくピタっと指の上に乗る。そんな点だ。
垂心は……ぶっちゃけあまり使う機会が無いけど、そういうモンがあるってのは憶えておけば安心かな。
他にも重心・垂心についての特徴は色々と有るけど……ココでの説明はこのくらいにしておこう。
ちなみに、重心と垂心の見つけ方は簡単。重心は、三角形の各辺の中点から反対側の頂点へと3本線を引くだけ。垂心は、それぞれの辺から垂直に反対側の頂点へと3本線を引くだけ。
こうすると、不思議なことに3本とも1点で交わるんだよな。ソレこそが重心・垂心となるぞ。
外心、内心については――――また後程。
Point④
『マドカとミスミ・第二話』
~ マドカ&ミスミ、出来ちゃってる説 ~
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そんな円だが……実は、不思議と三角に惹かれる何かを感じており。
小学校時代では何とも思わない只の同級生の男の子だった三角が、中学校からは少しずつ気になる対象となり……そして同じ高校に進学すると分かった時から、円の心は大きく彼へと近寄っていた。
そんな中の、翌日。
「……おはよー」
「あっ、マドカちゃん! おはよう!」
「来た来た、待ってたよ!」
円がガラガラと教室の扉を開ければ、早速出迎えるのは同級生の女子。
何やらニヤニヤと不気味な笑みを浮かべつつ円へと近付く。
「……どっ、どうしたの?」
「いやいや。実は昨日、見ちゃいまして」
「見ちゃった、って……?」
「マドカちゃん、昨日三角くんと一緒に帰ってたよね!」
「あー、うん。昨日も一緒に帰ったけど……それはみんなも知ってるでしょ?」
「そうだけど……じゃあ、一緒に手を繋いでたのは?」
「うっ……」
それだけは知り合いに見られないように秘密にしていたのに。
「バレてたの……」
「ヒューヒュー!」
「良いじゃん、お似合いのカップルだよ!」
「そっ……」
そして、そうだと思えば思うほど気持ちに反して言動は真逆になってしまうモノだ。
「そんなことないって! あんなヤツなんか――――
ガラガラッ
「うっす……おっ、よおマドカ――――痛ッ!」
「なんで今なのッ!」
最悪のタイミングで扉を開いて入ってきた三角を、反射的に突き飛ばすのだった。
「……これはマドカちゃん、三角くんと出来てるね」
「うんうん。確定確定」
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はい、お話の最中ですが再び数学に戻ろう。
マドカとミスミの仲が中々デキちゃっているように、実は数学においても円と三角形の組み合わせは結構マッチしているんだよね。
例えば、どんな三角形にも『3つの頂点を通って三角形の外側をグルリと囲む円』が必ず1つ存在する。
この円を『外接円』と呼び、この円の中心イコール三角形の『外心』。三角形の持つ『第3の"心"』ってワケだ。
その他にも、外接円と三角形において頂点の1つを円上で左右にスライドさせても角度は変わらない。
しかも頂点を外接円の中心、つまり外心にワープさせれば角度は丁度倍になる。
コレは『円周角の定理』としても知られている特徴だ。
こんな風に、円と三角形は色々な関係で結ばれている。
デキちゃってる、と言っても過言ではないかもね。
Point⑤
『マドカとミスミ・第三話』
~ マドカの心を揺るがす影 ~
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そんな円と三角の関係も徐々に深まりつつ、冬が明けて春になった。
2人は学年が上がって高2になったのだが……学期の始め、クラス替えの発表にて。
「俺は……有った、3組か」
「わたしは……7組。一緒に居られないの、残念だね」
「ああ。けど、クラスは違っても一緒には帰れるだろ?」
「うん、そうだね」
そして、2人は廊下で別れて別々の教室へ。
「ここが7組かぁ……」
自分の教室の扉を開き、足を踏み入れる円。
すると――――そんな彼女に声を掛ける男が居た。
「やあ、こんにちは。マドカさん」
「あなたは……」
教室の中央の席に座る彼は、高校の中でも随一のイケメンかつ有名な一家の出と言われる……男子学生。
話をするのも顔を合わせるのも初めてだが……名前は噂で聞いていた。
「四々辺院くん……だっけ?」
「おお、私の名前を知ってくれているとは。嬉しいよ、ありがとう!」
初対面にもかかわらず、喰い付きが強い四々辺院。
だが、活発ながらも上品なその雰囲気に悪い印象は感じない。寧ろ、円からすれば彼は好印象だった。
「実は私も、マドカさんの事は色々聞かせてもらっているよ。これから是非仲良くしよう。よろしく!」
「う、うん……よろしく」
こんな彼が、次第に円の心を揺るがしていくのだった……。
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はい。それではココでまたもや数学だ。
三角形は必ず外接円を持つというように、両者の相性の良さのはPoint④で勉強した。
……んだけど、実は三角形の他にも円を狙うライバルが存在するのだ。
ソレこそが、四々辺院こと『四角形』。
大部分の四角形は4つの頂点が1つの円上に乗る事はなく、外接円も持たない。けど、厳しい条件を勝ち抜いたヤツのみ三角形と同様に外接円を持つことができるのだ。
その条件というのが、『向かい合う頂点の角度を足すと180°になる』というモノ。
例えば正方形や長方形。コレらは各頂点の角度が90°だから、足せば180°。外接円を持てる。
逆に普通の平行四辺形では180°のペアにはならず、外接円を持てない。
もし正方形でも長方形でもなく、菱形でも台形でも平行四辺形ですらない只の四角形ABCDだったとしても、∠A=70°、∠C=110°であれば外接円を持てるのだ。
外接円は、決して三角形だけのモノじゃない。
四角形も四角形で、特別な特徴を以って三角形に対抗しているのだ。
四々辺院が、三角から円を奪おうとするように。
Point⑥
『マドカとミスミ・最終話』
~ マドカの心を抱擁するモノは ~
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円達が高2になって、数ヶ月が経った。
クラスが別れたのも有り、一緒に過ごす時間が減って少しずつ疎遠になる円と三角。
そんな円に良く話しかけていたのが、同級生の四々辺院。
彼は少しずつ円との距離を縮め、三角が用事で一緒に帰れない時には四々辺院が送ってくれることもあり。
彼女自身も四々辺院を受け入れつつあった。
「んんー……」
しかし、彼女の中には不満が有った。
四々辺院は真面目だし、優しいし、頭も良い。ルックスは言うまでもない。
だが……彼女からすれば、何かが足りない。
言葉には言い表せない、『何か』が足りなかった。
――――だが。
その『何か』は、ある日ふと分かったのだ。
高校2年の冬。陽が沈むのも早く、辺りはもう真っ暗。
そんな中、マフラーを首に巻いてコートを羽織った円が独り校門で佇んでいた。
「……済まねぇ、遅くなっちまった」
「んーん、大丈夫。委員会お疲れさま」
「ありがとな」
そんな円に駆け寄るのは、三角。
季節的な仕事もあり、この頃忙しい彼だが……それでも円は三角のために待っていたのだ。
「……それじゃあ一緒に帰るか」
「うん」
久し振りに2人で校門を抜ける。
ほとんどの学生も既に下校し、この時間に校門を出るのは彼女達だけだ。
「……最近、マドカとずっと一緒に帰れなくてごめん。今日も待ってもらっちまって」
「委員会で忙しいんでしょ? わたしも分かってるよ。……でも、やっぱりミスミくんと一緒に帰れると嬉しいな」
「ああ」
そう言うと、三角は突然――――
「……俺もだ、マドカ」
「ふぁっ」
円をギュッと、それでいて触れるように優しく抱きしめたのだ。
……思わず、声が出てしまった。
大通りの、歩道のど真ん中。
学生はもう居ないとはいえ、人通りが無くもない所で。
だが――――円は、嫌な気はしなかった。恥ずかしくもなかった。
久し振りに感じた三角のぬくもりが……嬉しかった。
「言ったろ、マドカ? 俺には4つの心がある。四々辺院には無い『心』も、俺にはある」
「……うん」
三角にあって、四々辺院に無いもの。
足りなかった『何か』が、円には分かった気がした。
○△○△○△○△○△○△○△○△○△○△○
はい、ソレでは最後の数学の解説といきましょう。
三角こと三角形にあって、四々辺院こと四角形に無かったモノ……それはズバリ『内心』だったのだ。
内心とは、文字通り外心の逆。
三角形が囲む内側に入り、抱かれるように3本の辺に触れる円……内接円。
そんな内接円の中心こそが『内心』、三角形の『第4の"心"』だったのだ。
内心の特徴は幾つか有るけど、ココでは代表として1つだけ挙げておこう。
内心点と各辺との距離は、全て一緒になるのだ。なんたって内接円の半径だからな。
……ちなみにだけど、四角形の中には外接円を持てるヤツが存在するように、内接円を持つ四角形も存在する。
とはいえ、ソレも同様に狭き条件の門を潜り抜けたヤツ限定。大多数の四角形は内接円を持たず、そのために内心も無いのだ。
円が感じた、四々辺院に無くて三角に有ったモノ。
それは、この『内心』だったのかもしれませんね。
「……成程」
自室で独り物語を読み終え、参考書から目を離す。
数学の参考書のクセに何だかよく分からないストーリーが展開されてたけど……どうやら物語はメデタシメデタシのようだし、三角形の『4つの心』についてもまぁまぁ分かったし。
結果オーライだったのだろう。きっと。
「さて。残すはコラムだけだな」
参考書の解説ページも、残すは最後のコラムのみ。
数学の内容の難易度もだいぶ上がってきたし、理解するのも結構大変だけど……コレを読み終えれば後はお待ちかねのメイン・練習問題が僕を待っているのだ!
「よし……読むぞーッ!」
独り気合を入れつつ、最後のコラムに視線を落とした。
Column
『三角形の重心と内分』
以上のPointではショートストーリーを挟みつつ、三角形の持つ『4つの心』について解説した。
重心、垂心、外心、そして内心だ。
その中でも、三角形の重心については先のPointで学んだ『内分』とも深いつながりがあるのだ。
まず、重心とは『各頂点と、向かい合う辺の中点を結んだ3線の交点』だったな。中点とは『辺を1:1に内分する点』だ。
そして、大事な重心の特徴がコレ。
『それぞれの線について必ず、線分[頂点-中点]を2:1に内分する』
例えば△ABCにおいて重心を点G、辺BCの中点をMとしよう。
すると、点Gは線分AMを2:1に内分する。必ずこうなるのだ。
この法則、覚えて損は無い。
内分と重心をマスターした今こそ、是非覚えておこう。
「くぅぅぅッ……終わったー」
解説ページを無事読み終え、ぐっと腕を伸ばして伸びる。
内容も結構あったし、割と時間もいい具合に掛かったな。
……けど、ココで勉強を中断する訳にはいかないのだ。
折角、今必死に知識を読み込んだのだ。だとしたら忘れる前にしっかりと脳に定着させなきゃ勿体無い。
それとついでに……新しい【演算魔法】だってゲットしなきゃ更に勿体無いよな!
「練習問題だ!」
という事で、紙とペンを手に持った僕は参考書のページを捲り練習問題へと飛んだ。
……さぁ。
今回はどんな【演算魔法】が待ってるのかな。
※三角形の『心』について
本小説では、三角形の心について重心・垂心・外心・内心の『三角形の四心』として紹介しました。
が、参考書によっては『傍心』を含めた『五心』として紹介する事もございます。
ご興味のある方は、『傍心』『傍接円』で調べてみてください。




