19-21-1. 『CalcuLega 蒐集記録』
「――――と云う事である」
「そうか……成程」
記憶を蘇らせながら語っていたククさんが、話を結ぶ。
「我の知り得る情報は以上まで」
「分かった、ありがとう」
それを聞いた僕は、話の内容を録り終えてペンを置いた。
ククさん達からの情報蒐集は思った以上に長く続いている。
朝から初めてお昼休憩を挟み、今やもう陽が傾き始めようとしている頃だ。
僕達が用意していた質問は大体聞き終わり、ククさん達も真摯に回答してくれたお陰で結構多くの魔王軍に関する情報を聞き出せたな。
納得のいく回答が得られたし、【真偽判定Ⅰ】で全回答の真偽を確認済みだ。
……まぁ、あのククさんがここに来て嘘を言うとは元から思ってなかったけどね。
そんな感じなので、今の僕達の頭の中ではまるで魔王軍を丸裸にしてやった気分だ。
勿論ククさんの知ってる情報が全てじゃないとは分かっているけど、それでもかなり優位に立ったんじゃないかと思えるほどだ。
そして、聞き出した全ての情報はこのノートに書き落としてある。
トップシークレット級のかなり貴重な情報だ。
「して、勇者殿。次は何に於いてで有るか?」
「んんー。そうだな……」
っと、ククさんに次の質問を急かされた。
……けど、コッチも割と質問切れ気味なんだよね。
聞きたい事が有れば後で何時でも聞けるんだけど、折角全員揃ったこの場を用意しているのだ。聞けることは聞いておきたい。
「……ちょっと待ってな。今までの情報を一旦整理するから」
とっとりあえず、今までのノートを読んで何か気になる点があるか見てみよう。
無ければそれまでだな。
「承知。何時まででも待とう」
「ごめんな、待たせちゃって。……休憩がてら水やらお菓子やらでも要るか?」
「ハッ、ならば御言葉に甘えて」
「分かった。コースよろしく」
「はーい! チェバ、キッチン行くよ!」
「わん!」
そう言い、コースとチェバが作戦会議室CalcuLegaを出て行ったのを見送ると。
書き落とした自筆のファイルに。視線を落とした。
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CalcuLega 蒐集記録
Vol. 1
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今日ククさんから聞いた魔王軍についての内容を纏めたこのノート。
ククさんへの更なる質問が有るかどうかも確かめつつ、今までにあった話を振り返ろう。
最初に僕達は、王国と魔王軍に関する現状について確認した。
ここティマクス王国と、その南にある帝国との間に広がる、深い森。
その森の中に魔王城を構えるといわれる魔王軍が、王国と帝国に襲撃を仕掛けている。
そんな王国が魔王軍から受けた襲撃は、これまでに3つ。
『王都南門事件』、『テイラー迷宮合宿奇襲事件』、そしてこの前の『フーリエ包囲事件』だ。
3戦とも僕達は勝利を収め、今のところ王国には大きな被害も無く事なきを得ている。
コレが現状だ。
そんな魔王軍について、僕達はククさん達の知る限りの情報を教えて貰った。
魔王軍は、何を目的に人類を滅ぼそうとしているのか。
魔王軍には、どんな魔物が在籍しているのか。
魔王軍の棲む魔王城とは、一体どれくらい広いのか。
その魔王城の食堂の飯は、果たしてどれくらい美味いのか。
魔王城に行けば、もっと沢山のチェバのお友だちに会えるのか。
魔王城に行けば、もっと沢山のモフモフに出会えるのか。
……最後の方は割とグダグダで脱線ばかりだったけど、そんな中でも特に重要だと思った質問はこの3つだ。
質問その1。セットとは何者なのか?
質問その2。第三軍団が有る……って事は、第二や第一も有るのか?
質問その3。第三軍団が壊滅したその次、魔王軍は王国にどんな手を打ってくるのか?
王国の未来の為に戦う勇者として、この3つの質問はだけは外せない。
これからの魔王軍との戦いにも繋がるし、特に詳しく尋ねたんだよな。
……よし、この辺について聞き漏らしが無いかもう一度見返してみよう。
まず、質問その1。
――――セットとは何者なんだ?
3つの襲撃において毎回登場していた、唯一の皆勤賞ヤロウ。
あの髑髏の仮面を被り、黒いマントに包まれた身体。身体に纏う、紫色の禍々しいオーラ。
彼からは『白衣の勇者……お前を殺すッ!!!』との個人的な恨みをも買ってしまった、自らをセットと名乗るあの男。……男かどうかも分からないけど。
そんなアイツは一体何者なんだとククさんに尋ねたんだよな。
その質問の答えが、コレだ。
『彼の者は、我ら第三軍団の指揮官である』
『指揮官?』
『左様』
指揮官……どうやら彼らの属する第三軍団の中で、軍団長・副軍団長に次ぐナンバー3の存在。
今までに立てていた襲撃の作戦を立案し、戦場では司令塔を務める存在のようだ。
そこそこ頭がキレるらしく、手に入れた情報から作戦を練る能力にはククさんも一目置いていた存在らしい。
彼の立てる作戦は綿密で、多少の読み違いが有ったとしても勝てるような作戦なんだそうだ。
……ただ、結局はどの作戦も僕を前にして尽く撃沈。
文字通りの常識外れチートスキルが並ぶ【演算魔法】には、どうも対処できなかったみたいだ。
『それ故、指揮官殿は貴殿に多大な怨恨を抱いていた様である。現にフーリエ包囲作戦も名目上は"魔王軍の王国侵攻の第一歩"であったが、その実は貴殿を殺す事を何より至上としていた』
『……そりゃそうだろうな』
フーリエ包囲事件での彼らの戦い方を見てりゃ一目瞭然だ。
本気で街や市民を潰そうとしていたのであれば、もっと甚大な被害を与えられていたハズだ。
でなけりゃ、あんなに全戦力を僕に回すようなマネはしないよな。
だが、そうやってパワーバランスを僕達に偏らせた結果……魔王軍は僕達やフーリエに大きな痛手も負わすこともなく。
こうして第三軍団は、僕達の手によって軍団長もろとも潰えた。
……となると、魔王軍は復讐とばかりに次の敵を送り込んでくるのだろう。
まさか第三軍団が負けて『はい、お終い』なんて考えられないしな。
『じゃあ、次に送り込まれてくる魔王軍は……?』
『我は"第二軍団"であおうと推測している』
『"第二軍団"か……』
第三から第二、数字が減っていく方向か。
……っていうかそもそも、魔王軍って一体どんな軍団構成をしているんだろう?
ソレこそが質問その2だ。
――――魔王軍は、一体どんな軍団構成をしているのか?
日本から遥々やってきた僕達勇者の目的は、ただ一つ。魔王の討伐だ。
その為には勿論、魔王の前に立ちはだかる敵を倒していかなきゃならない。
そんな敵があとどれだけ居るのかは、おおよそでもいいから知っておきたいよな。
するとククさんは、この質問におおよそどころか結構詳らかに答えてくれた。
『魔王軍には四の軍が属している。帝国の征服を行う第一軍団、第二軍団。王国の征服を行う我が第三軍団。並びに魔王城および魔王様の護衛を行う近衛軍。以上の四軍である』
『全部で4つ……成程な』
という事は、第三軍団を倒した僕達が魔王を討伐するまであと第二軍団、第一軍団、そして近衛軍を倒さなきゃいけないってワケだ。
……まだ先は長いか。
『ちなみに、4つの軍団の強さ順は?』
『近衛は我らの比にならぬ。次いで第一、その後を大きく離されて第二、その後尾を第三が追っていた』
『そっか……』
『じゃーあー、チェバのお友だちさん達は第三だからビリッケツだったんだねー!』
『……恥ずかしくも左様であった』
コースの無邪気な口撃がククさん達にクリティカルヒットしちゃったのは良いとして……僕達でも結構苦戦したあの第三軍団で、魔王軍の一番下なのだ。
となると、以降の魔王軍の襲撃はもっと苦戦を強いられるかもしれない。
よし、もっと沢山勉強して、もっともっと強くならないとな!
という事で。
魔王までの道の長さを実感した所で、僕達はさっきの話題に戻った。
『でだ、ククさん。さっき言ってた"次に王国に攻めてくるのは?"って話だけどさ』
『嗚呼。左様であったな』
『ククさんは確か"次に攻めてくるのは第二軍団"って言ってたよな?』
『左様。飽くまで我が推測に過ぎぬが』
『オッケー。じゃあ……』
そこで、最後の質問その3だ。
――――そんな第二軍団は、一体どんな手を打ってくるだろうか?
ほぼ避けられないであろう、次の戦い……第二軍団戦。
ククさんも同じ予想を踏んでいる。
となれば、ココで僕達がやるのはただ一つ。
『第二軍団』に関する情報を、仕入れられる限り仕入れるまでだ。
近付く定期試験に向けて、先輩や友達から過去問を蒐集するかのように。
『……というワケで、ククさん。幼犬隊の皆。第二軍団について皆の知り得る情報の全てを教えて欲しい』
なんなら噂程度の話でも良い。
裏が取れてない不確定な情報でも良い。
なんなら【真偽判定Ⅰ】が判断してくれるので、どれだけ嘘を言ったって構わない。
とにかく、第二軍団についての知る限りの情報を喋ってもらった。
『……では我から話させて頂こう』
『はい、ククさん。よろしく』
『ハッ。我が知る第二軍団の情報といえば――――




