19-21. 蒐集Ⅰ
「ククさん、ナナン、クナン、こっちだ」
「「「わん!」」」
幼犬をその身に満載しながら西門広場を真っ直ぐ通り抜け、辿り着いた西門坂で最初の十字路。
ソコを左に入ってしまえば、もう人影は見当たらない。
空き家通りは今日も静かだ。
「……よし、ココまで来れば大丈夫だな。喋っていいぞ」
「「「「「ハッ」」」」」
そう言うと早速、幼犬隊からは開口一番で普段通りの返事が。
「フゥ……子供の真似事をするのも中々疲れる」
「お疲れ様。無理させちゃって済まんな」
ククさんの気疲れ具合が溜め息からもひしひしと伝わる。
「……けど、協力してくれてありがとう。皆の演技のお陰で難なく街に入れたよ」
「無論。貴殿が我々を信ずる限り、我々も全力で応えるが故に」
「そう言ってくれると頼もしいよ」
そうそう。心配していた西門は、結局何の問題もなく余裕で通り抜けられたんだよな。
見せ掛け作戦が功を奏したみたいだ。
幼犬隊を見た門番さん達は『なんか増えてる!?』と驚いてたけど……準備していた通りの言い訳を述べれば、彼らもソレで納得してくれたようで。
それ以上追求されることもなくアッサリと通してくれた。
「訝しがられるどころか、むしろ門番さん達に可愛がられたくらいだし」
「そうね。ククさんなんて門番さんにクシュクシュって撫でられちゃってたもんね」
「そっ……其れは…………ッ」
頭上でククさんがモジモジと揺れる。
またまた照れちゃってー。
「でもでも、やっぱ一番かわいいのはチェバだよー!」
「わんっ!」
ソコに負けじと割り込むコースとチェバ。
……分かってるよ。そりゃ本物の幼犬なんだから。
「ま、まあとにかくだ先生。この姿ならウルフ達も問題なく出歩けそうじゃねえか?」
「はい。街の皆さんも正体には気付いてないようですし」
「そうだな」
彼らにとっても幼犬の演技は精神的に負担みたいだけど、なんとか彼らには慣れてもらうとしよう。
我が家の中なら演技しなくていいし、本来の姿で一暴れしたくなった時には街の外に行けばいい。
街の人々にも可愛がってもらえるといいな。
とまぁ、そんな感じで話をしているうちにも。
空き家の中に紛れ建つ、我が家が見えてきた。
「着きましたね」
「やっと帰ってきたよー!」
「ククさん、皆。ココだ」
頭のククさんと両肩のナナン、クナンに見えるように身体を右に向ける。
「ほう、此処が……」
「貴殿らの住処であるか?」
「あぁ。僕達5人とチェバの家にして、対魔王軍の秘密基地・CalcuLegaだ」
「「「「「かるきゅりーが……」」」」」
「そう。そして――――今日からはお前達もこの家の住人だからな」
「「「「「此の家に……ッ!」」」」」
幼犬隊の目が輝く。
「こんな我々を……良いのであるか?」
「あぁ勿論。皆も良いよな?」
「はい。なんたって仲間ですからね」
「当たり前だぞ!」
「一緒に暮らそーよ!」
「わん!」
「たくさんモフモフさせてね?」
シン、ダン、コース、アークも頷く。
チェバも尻尾がブンブンだ。
「って感じだ。だからよろしくな」
「「「「「忝いッ!」」」」」
という訳で、我が家に15頭のウルフ隊を迎え入れた僕達。
家に入って自室に荷物を置いたら、まずはリビングで遅めの昼食だ。
「「「「「いただきまーす!」」」」」
昼過ぎの午後2時、ククさん達と一緒に食べる昼食は勿論あのメニューしかない。
アークお手製の鉄火丼だ。
「……んーっ! 美味ッ!」
「こっ……此れはッ!?」
「フフッ、みんなありがと」
何回食べても飽きない味、本日も最高でした。
そしてどうやら、ククさん達もイチコロで鉄火丼の虜となってしまったようです。
その後、風呂が沸くと僕達は順番に入浴。
3日間の旅の汚れも落とし、久し振りのホカホカの浴槽にも浸かってサッパリした。
っと。ついでに幼犬隊も呼び寄せて全員にシャワーを浴びせてあげたんだよな。
すると、毛皮に砂が絡まってジャリジャリだった幼犬隊がフカフカのモフモフに。
「うー…………。極上」
「ありがとうございます」
幼犬の毛皮に顔を埋めるアークからもお墨付きを頂戴しました。
ただ……そんな昼食と入浴を済ませた僕達の身体には、どこからともなく魔の手が襲い掛かってくる。
見えざる悪魔――――そう、『睡魔』だ。
窓から入る午後の陽射しが、風呂上がりな身体を更にポカポカと温める。
そこにお昼ご飯と旅の疲れが更なる追い討ちを掛ければ……どうなるかは言うまでもないだろう。
「「「「「……zzz」」」」」
「(……みんな寝ちゃったか)」
全員が集まったリビングは、まるで保育園のお昼寝時間。
僕以外の人も狼も皆、揃ってお昼寝の夢の世界へと旅立っていました。
「(この状況じゃ情報収集なんて出来ないよな……)」
実はこの後、ウルフ隊からの魔王軍情報収集をしようと思ってたんだけど……この状況じゃダメか。
睡魔に勝てる【演算魔法】なんてモンは無いし、流石の僕でもお手上げだ。
この睡魔こそ、ある意味最強の敵だった。
「(……しょうがない。情報収集は明日からだな)」
まぁ、そもそもウルフ隊が復路で騎乗させてくれたお陰で僕達の予定は巻きに巻いているのだ。1日くらい遅らせてもバチは当たらないよね?
「(……うん。そうしよう)」
そう心に言い聞かせると、僕も静かにダイニングテーブルに突っ伏し。
「…………zzz」
心置きなく夢の世界へと引き摺り込まれていきました。
という事で、翌日。
一晩グッスリと眠って迎えた午前9時、僕達は作戦会議室CalcuLegaに集合した。
「皆、おはよう」
「おはようございます」
「おっはよー!」
「わんッ!」
「おう先生!」
「おはよ、ケースケ」
椅子に腰掛けて会議机を囲むのは、シン、コースとチェバ、ダン、そしてアーク。
そんな机の端には本日の主役、幼犬モードのウルフ隊も15頭しっかり揃っている。
「幼犬隊もおはよう。昨日はちゃんと寝れたか?」
「「「「「ハッ!」」」」」
「此れ程に心地よい目覚め、初めてである!」
「そっかそっか」
それは良かった。
予備の布団が無かったから昨夜はリビングの絨毯で寝てもらってたんだけど、それでも岩盤ゴツゴツよりは相当マシだったみたいだ。
……さて。
前置きはこのくらいにして、早速本題に入ろうか。
「皆ももう分かっているだろうけど……今日皆に集まってもらったのは他でもない。味方に加わったウルフ隊から、魔王軍の情報を引き出すためだ」
回を増すごとに段々と激しさを増してきた、魔王軍の襲撃。
そんな中、このウルフ隊との出会いはまさに渡りに船だった。
単純に僕達の戦力アップになるは魅力的だし、『脚』の確保もありがたい。
けどなにより……魔王軍の情報を引き出せるってのは、そう簡単に代えの見つからないアドバンテージだ。
間違いない。
この先もまだまだ続くであろう魔王軍の襲撃に備えて、コッチも対策を進めるために。
「先に言っとくけど、僕に嘘は通用しないからな。『数学者の勘』舐めんなよ」
「無論。我の話す全てに嘘偽りの無きこと、神に誓って――――否、我らが軍団長に誓おう」
……軍団長に誓う、か。
彼らからすれば、あの赤鬼こそが死後の今もなお絶大な信頼を寄せる存在だもんな。
神よりも上位に赤鬼を据えたその意思、十分に理解したよ。
「……あぁ、分かった」
となれば――――僕もあの赤鬼の軍団長に敬意を込めて。
情報蒐集を、始めさせてもらおうか。
「よし……それじゃあククさん、皆。色々と教えてくれ」
「「「「「ハッ!」」」」」




