19-20. 見せ掛けⅡ
「おっととと。……やっぱりバランス取りづらいな」
ヨロヨロと姿勢を崩しつつ、大きく見えてきたフーリエ西門へと歩く僕達5人。
だが、その近くにウルフ隊の影は1頭たりとも無い。
その代わり……――――僕達の頭上に居座るのは、幼犬。
両肩にガッシリとしがみつくのも、幼犬。
僕だけじゃなく、シンの頭上と両肩にもそれぞれ幼犬。
コースとアークに抱きかかえられた腕の中にも、幼犬。
力持ちのダンには、頭上に肩に腕に所狭しと幼犬がうじゃうじゃ。
総勢16頭の幼犬が、僕達の身体に乗っかって顔を並べていた。
……勿論、彼らこそがククさんを始めウルフ隊のメンバーだ。
「おいククさん、頭からズリ落ちるなよ。ナナンとクナンもちゃんと肩にしがみついて」
「承知!」
「「ハッ!」」
「……3人とも返事が違う」
「「「わっ……わん!」」」
「良し」
でもまぁ……コレが一番手間も時間も掛からない、トラブルからも無縁そうな方法なんだもんな。
仕方ない。このまま西門を抜けて家まで、もう少し頑張るか。
∩∩∩∩∩∩∩∩∩∩
『あっ! いーコト思いついちゃったー!』
そんな声と共に閃いたコースの案は、実に彼女らしいものだった。
パッと聞いた時にはフザケてるのかとも思ったけど……考えてみればそこまで悪くもない、むしろ他に案の無い僕達からすれば救いの一手だった。
そんな彼女の案が――――コレだ。
『チェバは可愛いから街に出入りオッケーじゃん? って事は、お友だちも皆チェバみたいに可愛くなれば、きっと門番さんたちも通してくれんじゃなーい?』
『『『『『可愛く……?』』』』』
『そーそー!』
彼女の言いたい事は皆すぐに分かった。
シンプルな考えだ。
チェバも歴とした魔物だけど、彼に関しては『子どもなので危害を加えることはないでしょう』とトラスホームさんからも正式に認めてもらってる。
という事は……ウルフ隊の皆もチェバと同じように『危害を加えなさそう』な見た目になれば同じ理屈を通せるハズ。
『いやしかし……我々に其の術は無理ではあるまいか?』
『同意。最も若手なインチやインサでさえ、チェバとは明らかに歳が離れているのだ』
『我らももう成体。そう見せ掛けるのは流石に強引が過ぎるのでは……』
が、ククさん始めウルフ隊はちょっと否定的だ。
……まぁそれもそうだよな。僕達を乗せるほどデカくて精悍なその姿じゃ、チェバの可愛さとは無縁だ。
けど――――僕達にはソレを可能にする手立てが有る。
『万に一つ、その術を採るとして……貴殿らには何か見込みが有るのか?』
『あぁ。有る』
『……何と!』
予想外の即答にククさんも戸惑う。
『じゃあ、今からちょっとやってみるか。ソレ』
『『『『何ッ!?』』』』
『そうも容易く出来る代物であるのか……?』
『あぁ。簡単だよ簡単。早速やってみるか』
『なっ、ならば……是非』
猛スピードで進む話にウルフ隊の皆さんも追いつけていないけど、とりあえず魔法を掛けてみることにした。
『【相似Ⅲ】・1/4 for ens.WOLVES!』
コースの案を可能にする魔法……それは、拡大縮小魔法・【相似Ⅲ】。
対象のサイズを相似変形……縦横比のバランスを保ったまま、任意の倍率に大きくしたり小さくしたりできる魔法だ。
今回はウルフ隊全員の体格を一辺 1/4 のサイズに相似変形させてみることにした。
『なっ!』
『我々の体が……!?』
『縮んでいくぞ……!』
魔法を唱え終わるや否や、どんどん縮みはじめるウルフ隊の体。
流石のククさんも動揺を隠せない。
僕達の身長を下回ってどんどん低くなる、体高。
華奢さを増しながら段々狭くなる、肩幅。
脚も尻尾も耳も鼻も、みるみるうちに縮小が進んでいき……――――
そして。
彼らの体の変化も、十数秒ほど掛けて止まった。
『体の異常が止まった様だが……』
僕達の目の前に、僕達を背中に乗せて軽快に駆けるような、精悍で勇ましいフォレストウルフは居ない。
けど、その代わり体長は 1/4 、幅も 1/4 、体高も 1/4 。
体の表面積は 1/16 、体積に関して言えば 1/64 倍。
『かっ……』
『『『『『可愛い!』』』』』
チェバと全くお揃いの、豆柴を思わせるようなサイズ感まで縮んだ――――幼犬が15頭、出来上がっていた。
『キャーッ! みんな可愛いー!』
『そんな……かっ、可愛いとは…………』
ククさん達もそう褒められた事が無いようで、ベタ褒めのコースにモジモジと照れている。
その姿がまた可愛いらしい。
『うん。悪くないな』
『まんま子どもウルフだぞ!』
『中々クオリティ高めです!』
『これならきっと、門番も通してくれそうね』
『うんうん! バッチリだよー!』
ってな訳で、ウルフ隊の見た目については問題なしだ。
あとは彼らの仕草を……そうだな。ひとまず鳴き声だけでもそれっぽく仕上げておけば、完璧な幼犬隊の出来上がりだろう。
『という事で、皆で"幼犬隊"に相応しい可愛い鳴き方をお勉強しましょう。それが終わったら帰宅だ』
『『『『『ハッ!』』』』』
本日の講師は、リアル幼犬のチェバさんです。
『それではチェバさん、お手本を』
『わん!』
うんうん、元気な返事だ。
無邪気感がまた良い。
『はい幼犬隊、やってみて』
『『『『『ハッ!』』』』』
『いやいや』
それじゃ軍隊感丸出しの返事だよ。
『返事というより、その……吠える感じだよ。もう一度』
『『『『『ウォン!』』』』』
『ガチで吠えちゃダメ』
そんな威厳のある声で吠えたら一発アウトだぞ!
『……ごめんチェバ、もう一回お手本良いか?』
『わん!』
『よし、ありがとう』
流石はチェバ、何度やっても無邪気で可愛い。
『はい、皆聞いてたな? それじゃあ今の感じでもう一度』
『『『『『ハッ!』』』』』
『だから違う!』
今だけは魔王軍の記憶を忘れろ!
『もう一度!』
『『『『『わっ‥…わん(棒)』』』』』
何だその棒読みは!
『もっと元気よく!』
『『『『『ウォン!』』』』』
……だから吠えるな!
『『『『『ワン!』』』』』
うんうん、ちょっと良くなってきたぞ!
『『『『『ワンッ!』』』』』
良いぞ! もう一度だ!
『『『『『ウォン!』』』』』
……戻っちゃったじゃんかッ!
チェバお手本!
『わんッ!』
それを受けて幼犬隊!
『『『『『ワンッ!』』』』』
良い、良いぞ! 結構近付いてる!
もっと力を抜いて!
『『『『『わんッ!』』』』』
もう少し、あと一声!
『『『『『わん!』』』』』
『ソレだァッ!』
∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇
こうして、ウルフ隊は【相似Ⅲ】と鳴き方の猛練習によって幼犬隊になりました。
見せ掛けはバッチリ。あとは彼らの演技次第だ。
「貴殿らを乗せていた我々が、まさか貴殿らに乗る番になるとは」
「まぁまぁ。……それよりククさん、そろそろフーリエに着くぞ」
西門もかなり近付いてきた。
ククさん達が喋ってるのを通行人や門番さんに聞かれちゃ作戦がパーだし、そろそろ幼犬になりきってもらおう。
「幼犬隊、正体がバレないようにな。良いか?」
「「「「「わん!」」」」」
……うん。最高の返事だ。
コレならきっと、西門の門番さんも『旅先で出会った子ウルフの群れに懐かれちゃいまして……』の言い訳で通してくれるだろう。




