19-16. 音Ⅱ
「勇者殿、我々に出撃許可を!」
「好きなだけ暴れてこい! ウルフ隊の実力、見せてもらおうじゃんか!」
「「「「「ハッ!」」」」」
先駆けるのはウルフ隊。
彼らにとっちゃ借りをタップリ作った相手だからか、よく張り切っている。
「「「「「ウオオオォォォォン!!!」」」」」
僕の指令が飛ぶや否や、出撃の遠吠えを上げるウルフ隊。
ククさんを先頭に意気揚々とバリアを飛び出し、コウモリの壁へと吸い込まれていく。
「俺らも行くぞシン!」
「勿論です!」
「わたしも! 彼らには負けられないからね!」
それを見たウチの3人も、それぞれ武器を持って駆け出すと。
ウルフ隊の最後尾に続いてコウモリの壁へと飲み込まれていった。
バリアの中に取り残されたのは、僕とコースと彼女の胸に抱かれたチェバだけだ。
「なんか私たちだけ置いてかれちゃったねー……」
「あぁ。となれば、僕達もやるか」
「うん! 魔法で後方支援だよねー?」
「その通り」
ちゃんと分かってるじゃんか。
「準備は良いかコース?」
「いつでもバッチリだよ――――おわわわっ」
「わん! わんわんっ!」
コースが魔法の杖を取り出すと……コースの腕に抱かれたチェバがジタバタ暴れ始めた。
もがくチェバに抱くコースも数歩よろめいている。
「ちょちょっとどーしたのチェバ!?」
「……もしかして、チェバもククさん達と一緒に戦いたかったとか?」
「わん!」
……成程。そのようだ。
「でもダメダメ、チェバはまだお留守番だよ」
「くぅん……」
「チェバのお友だちの戦い方をいっぱい見て、もーっと強くなってからね」
「……わん」
そんな不貞腐れたチェバを横目に、コウモリの壁を眺めると……いつの間にか状況は変わっていた。
「おっ」
今までバリアに体当たりを繰り返していたコウモリ達が、今や隊列を崩してバラバラに乱れ飛んでいる。
その様子、錯乱状態。
理由はもう……言うまでもないよな。
「見てみろチェバ。お前の『お友だちさん』達、結構頑張ってるみたいだぞ!」
「……くぅん?」
コースの腕の中で項垂れていたチェバが前を向き、耳がピンと立つ。
「ホントだー!」
「わんわん!」
青透明のバリアの奥、縦横無尽に飛び交うコウモリ達の奥に見え隠れしていたのは……彼らの勇姿だった。
――――地対空の相性がゆえに、今まで一方的にやられてばかりだったウルフ達。
だがしかし……ステータス加算を手に入れた今、その優劣は大きく逆転していた。
軽く跳ぶだけで天井に達するその脚力は、空中というコウモリの絶対不可侵領域をも手中に収める。
空中で前脚を振り抜けば、コウモリが血を噴き出して墜落する。
金色に輝く眼はコウモリを的確に捉え、ガブリと犬歯を深く突き込む。
地に墜ちてもなお息のあるコウモリには、ブチュリと容赦なく踏み潰してトドメを刺す。
次から次へ流れるように繰り出される攻撃に、コウモリも牙を突き立てて抵抗するが……何千何万というDEFは吸血の牙を微塵も通さない。
野生を思わせるその立ち回りに、文字通りの桁外れステータス。
その二つを兼ね備えた15頭のウルフ隊は、僅か数分でコウモリを着実に墜とし。
無数の亡骸を地面に散らばせていた。
深緑色だった体毛に、真っ赤なコウモリの血を吸わせた————漆黒の毛皮を纏いながら。
「やるじゃんか。ウルフ隊」
「うおおおーッ! みんな強ーい!」
「……わん!」
こう言っちゃククさん達には失礼だけど……彼らは僕の予想以上に強かった。
そしてカッコよかった。
僕達5人には無い、彼らの強さ……『野生』。
その姿にちょっと感動して魅入っちゃったよ。
そんな僕達だけど、いつまでも彼らの姿に見惚れている訳じゃない。
僕達は飛び乱れるコウモリを倒してウルフ隊のサポートだ。
「【水線Ⅶ】!」
「【一次直線Ⅴ】・水鉄砲!」
僕とコースの後方支援組は、2本の高圧水を撃ち出して応戦。
鬱陶しいコウモリをスパスパと両断して数を減らしている。
「うぉらァァァァッ! 【硬叩Ⅹ】!」
ダンは大盾をブルドーザーのように構えて突進。
盾に張り付いたコウモリにズシンと衝撃を加えれば一網打尽、気絶してホロホロと墜ちていく。
「こういう小さくて数の多い相手、私は苦手なんですけどね……【強斬Ⅸ】ッ!」
シンはひたすらに長剣を振り回して乱れ斬り。
だけど……労力の割りに足元に転がっているコウモリが少ないような。
「なんだシン。効率悪いじゃねえか」
「仕方ありません! 幾らATKが6万超えでも剣士は相性最悪なんですから――――
「ハァッ!」
ボゥッ!
そんな文句ブツブツのシンの後ろでは、炎の槍がコウモリを薙ぎ払って一掃。
槍の走った跡にはプスプスと黒煙を上げるコウモリがこんもりと積もっていた。
「なんつー殲滅能力……」
「アークの範囲攻撃が羨ましいです」
「フフッ、ありがと」
さすがは稀有な存在・魔法戦士。
彼女も僕達には無い強さを持っているのかもしれませんでした。
とまぁ……こうして着々とコウモリの数も減っていき、気付けばウルフ隊は特大コウモリまでかなり迫っていた。
天井にぶら下がる特大コウモリとの距離は、あと数歩で跳べば届くほどの近さ。
坑道内を飛ぶコウモリもだいぶ数を減らし、残るは特大コウモリを囲んで守るヤツらだけになった。
「敵の親玉は近い! 同胞よ、今此処で雪辱を果たすのだ!」
「「「「「ハッ!!」」」」」
先頭のククさんの号令に後続のウルフ隊もますます勢いづく。
そんな迫るウルフ隊に対し、特大コウモリは……全く動かない。
周囲に侍る近衛コウモリが出てくるのかと思いきや、彼らも攻める気配すら無い。
「奴等、未だ動かぬか……ッ!」
「我々を甘く見ているのか!」
「今のうちに頸を討ち取ってやる!」
その様子にウルフ隊も怒りを露にし。
全身に更に力が入る。
そして。
「今だァッ!!」
間合いに入ったウルフ隊が、一斉に後ろ脚に踏ん張りを利かせ。
特大コウモリ目掛け、跳ぼうとした――――
その瞬間。
キイイイイイィィィィィィンッ!!
頭がブッ壊れるような超音波が、僕達を襲った。




