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19-15. 音Ⅰ

「うおおおぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」






突然ですが、今僕は絶叫しています。

さて。僕は一体何をしているでしょうか?




答えは……――――



「うおおぉぉぉッ!!! 落ちるぅぅッ!!!」

「振り落とされるでないぞ! 勇者殿!」


そう。

5階層を猛スピードで駆け抜けるククさんの背中で、振り落とされる恐怖に怯えながら必死にしがみついているのでした。



「もう少し(しか)と我に掴まるのだ!」

「そんな事言われてもぉォォォォッ!!」


フォレストウルフの脚の速さと、この激しい揺れ……どちらも僕の想像より遥か上だった。


岩肌に輝くユークリド鉱石が尾を引いて流れる様子は、乗り心地も相まってさながら地下鉄そのもの。

十字路を抜ける度にヒュンヒュンと音を残していくのが、また僕の恐怖を煽っていく。



「くぅッ…………」


そんなスピードでククさんは坑道を走っているので、振り落とされようものなら怪我は確定だ。

その割に命綱や安全装置なんてモノは無いので、頼れるのはしがみつく己の力のみ。


絶叫コースターじゃ絶対あり得ない仕様だ。




「ヒャッホーイ!」

「うぉー! 速えーな!」

「目が開けられないですッ!」

「やるじゃない、あなた達!」


そんな絶叫コースターもビックリの、楽しげな声が後ろから響いてくる。

こんな状況でもまだまだ余裕だなんて……頼もしいというか何というか、やっぱり僕の仲間達は強者揃いです。




「……こんな僕は今にもズリ落ちそうだってのに!」

「此れでも未だ6割程である!」

「ヒィィィッ!!」


6割でコレかよ!

これ以上の速さで走られたら気絶しちゃうよ――――



「曲がるぞ!」

「えっあ、ちょっ――――


その言葉の直後、差し掛かった十字路で進路がキュッと右に。

莫大な遠心力が僕の身体を襲い、ククさんから引き剥がしに掛かる。



「ああ危なかった。なんとか耐えた――――

「今度は左である!」

「何ぃぃぃィィィッ!」


何とか右カーブを通り抜けたと思いきや、一難去ってまた一難。

腕と足に全神経を注ぎ、しがみつくので精一杯。もう目なんて開けていられなかった。



このままフーリエまで弾丸帰還した時には、僕は一体どうなっちゃっているんだろう……。











……とまぁ、そんな心配をしていた僕ですが。


最深部を発ってから30分。坑道の2階層まで上がってくれば、僕の身体もウルフの乗り方が徐々に分かってきたようで。

若干の楽しさが僕の心に芽生え始めていた。



「うおおぉぉぉぉぉぉ!」


今の絶叫は恐怖¾、楽しさ¼ってところだ。



「……フン、勇者殿も騎乗し慣れてきたと見た」

「まぁな!」


スピード感にはだいぶ慣れてきたし、むしろ爽快に思い始めてきている。

激しい上下の揺れも腕や膝を上手く使えば苦にならない。

気分は競馬のジョッキーだ。



「よし、ククさん! この調子でフーリエまでかっ飛ばしちゃえ!」

「承知!」


僕の号令に、ククさんがまた少しスピードを上げた。






――――と思った、矢先。



「何ッ!?」


ククさんが突然脚を止め、急ブレーキ。

坑道のド真ん中で立ち止まる。



「うぉっ!?」


放り出されそうになりつつも、なんとか踏ん張って耐える。



「御無礼、大丈夫であるか?」

「あ、あぁ……けど突然どうしたククさん!? 何か有ったのか?」

「此の先を見られよ」


この先……?

ククさんから降りて、言われた通りに頭を上げてみると。



「……出たな」

「左様。厄介者共である」


ヘッドライトが映し出したのは、天井にビッシリとぶら下がる黒い影。

昨日の往路でも手こずった、ウルフ隊の天敵・ケーブバットだ。



「しかし、奴等だけに非ず。更に奥に何か見えぬか?」

「奥?」


ヘッドライトを直線ストレートの先へと向け、目を凝らすと……その先に見えたのは。




「……でっかいコウモリ?」

「左様。我らを散々に苦しめてくれた、バット共の頭領である」


天井にぶら下がるコウモリ達の中で一匹、抜きんでて大きいコウモリが居た。


3mほどの高さがある通路の半分にも届く身長と、群れの長を感じさせるズングリとした体格。

遠くから見ているハズなのに、まるで近くに居るかのような感覚。

見ていて遠近感が狂ってくる。



「あの体格、魔力溜まりの影響だな。そしてククさん達を苦しめていたコウモリのリーダーだと」

「多分。あの特大個体、我も今初めて相(まみ)えたが……我らの大移動を察知し、無数の僕を率いてきた処と見える」


言われてみれば、天井のバットの密度が違う。

昨日も多かったけど今日は特段だ。



「ねーねーダン、もしかしてコレって私たちのお見送りかなー?」

「かもしれねえな。俺らがココを旅立つ最後の別れに、ってか」

「親分まで登場するとは、私達も丁重なおもてなしを受けたものです――――

「否。逆である」


コース達の話に、ククさんが割って入る。



「「「「「……逆?」」」」」

「左様。坑道内では幾度となく邪魔をされ、時には血も吸われ、その割に我々には反撃の術も無く……そんな鴨とされた我々を、奴等は易々と逃がすであろうか?」


……ほぅ。


つまり、彼らはお見送りなんかに来たじゃない。

正しくククさんの言った通り、逆だ。




「この坑道から僕達を()()()()()つもりか」

「左様」

「となると……わたし達がここを抜ける方法は?」

「無論、唯一つである」

「……成程。つまりそういう事ですか」

「ヤっちゃえばいいんだねー?」

「わん!」

「ああ。それしか無えよな!」



僕達の視線が、特大コウモリただ一点に集まった。

そして……特大コウモリも、僕達の殺気を察したようで。




「キイイイィィィッッ!!」


坑道の奥の方から響く、超音波を思わせる甲高い鳴き声。

と同時に、特大コウモリが翼をバッと開き――――天井のコウモリが一斉に飛び立った。


どうやらアチラもやる気のようだ。

となれば……仕方ない。



「……やってやるか」











特大コウモリの号令で一斉に飛び立ったコウモリが、弾幕のようにどっと押し寄せる。


逃げ場のないトンネル状の坑道を隙間なく埋めるその様は、まさに壁。

僕達を飲み込まんと、真っ黒なコウモリの壁が迫りくる。



「……まずは」


が、そんなのに僕は動じない。

目には目を、壁には壁をだ。




【定義域Ⅶ】(ドメイン)x≧2(僕の前方2mまで)!」

シュンッ!


僕の3歩ほど先に、青透明のバリアが颯爽と登場。

迫るコウモリの壁を抑え、力強く僕達を護る。


雹がガラス窓を打つような音を上げ、無数のコウモリが激突する……が、そんなんじゃ勿論僕のバリアはビクともしない。




「此れは【障壁魔法】……貴殿の発動した物であるか?」

「あぁ」

「我々はてっきり、貴殿は『強化魔術師』であるとばかり……」

「まぁそうだな。そっちの方がメインだ」


ククさんも僕のバリアに感心してくれているようだけど……それじゃあ、今度はそのメイン。

ステータス加算の出番だ。




【冪乗術Ⅱ】(パワー)・all3 for ens.ALL!」


お決まりの魔法を唱えれば、即座にシン達とウルフ隊の全員がパワーアップ。

昨晩更新しておいた【集合】(アンサンブル)のお陰で効果が全員一斉に行き渡る。




「……うむ、この感覚! 此れこそが貴殿の強さの由縁であるな!」

「あぁ。お前達が僕達の仲間になったからには、これから僕もコレで全力サポートするよ」

「「「「「忝い!」」」」」


お前達が僕の仲間である限り、1頭残らず。

そう、約束するよ。



「ただ……1つだけ言っておきたい事が有る」

「「「「「何なりと!」」」」」

「憶えとけ、ウルフ隊。……幾ら僕のメインは強化魔法でも、『強化魔術師』ではない」



勿論、剣でも斧でも、槍でもない。

僕の武器は……――――




「僕は……――――数学者だ」


数学、それこそが僕の武器。

幾ら数学が嫌いであろうと、ソコだけは譲れないんだ。




「「「「「数学者…………」」」」」

「あぁそうだ。分かったか?」

「「「「「ハッ!!!」」」」」

「本当に分かったんだな!」

「「「「「ハッ!!!」」」」」

「よし!」



……となれば、いつまでも僕達がバリアの裏に隠れていたって戦況は変わらない。

先手は取られたものの、今度はコッチの番だ。



「シン、コース、ダン、アーク、準備は大丈夫か?」

「決まってるじゃないですか!」

「ヤる気満々だよー!」

「俺らの事も甘く見んじゃねえよ、先生!」

「いつでも任せてよね!」

「分かった」


よし。

シン達も準備良し。ウルフ隊も良し。


さっさとこの敵を倒して、坑道出口へ……そしてフーリエへの道を切り開くのだ!



「反撃行くぞ皆! 狙うは奥の特大コウモリだ!」

「「「「「おう!!!」」」」」

「「「「「ハッ!!!」」」」」

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本作は、以下リンク(後編)に続きます。
以下リンクからどうぞ。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
誤りや気になる点等が有りましたらご指摘頂けると幸いです。
感想欄、誤字報告よりお気軽にご連絡下さい。
 
皆様のご感想もお待ちしております!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
どうか、この物語が
 
小説を愛する皆様の心に、
心の安らぎを求める皆様の心に、
現実とかけ離れた世界を楽しみたい皆様の心に、
そして————数学嫌いの克服を目指す皆様の心に
 
届きますように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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