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19-12. 高校確率Ⅰ

第53番坑道・最深部。

夜の10時。


最深部の広場は、もう寝静まっていた。



『元気だよー!』とか言っていたものの、結局プッツリと糸が切れたように眠っているコース。

その彼女の胸に入り込み、人形のように抱かれながら一緒に眠るチェバ。


ピッケルと鉱石が一杯に詰め込まれた袋を横に、達成感に満ちた笑顔で眠るシンとダン。

ウルフ達に埋もれ、モフモフに包まれながら幸せそうに眠るアーク。


そして、焚き火の優しい炎に照らされながら眠りに就いたククさん。



そんな皆の寝顔を見ながら、僕は……――――




「(……皆寝ちゃったな)」


広場でただ独り、焚き火を眺めていました。


薪は足していないので、火が消えるまではあと1時間ちょいってところ。

サッサと火を消して僕も寝ちゃっても良いんだけど……折角だし、薪が燃え尽きるのを見届けてから僕も寝ることにしたのだった。



「(それにしても……やっぱり焚き火は良いな)」


パチパチという音に、揺らめくオレンジ色の炎に、そして燃える薪の匂い。

煙がコッチに来ると目に染みるが、それも案外悪くない。



フーリエからの徒歩で溜まった疲労も吹っ飛ぶかのような、この安心感。

いつまででも見ていられるような気がする。


あー、焚き火最高。野宿の夜はこうじゃないとね。






……とか言っていられたのも、ものの数分。

飽き性の僕には、ただ炎を眺めるだけなんて直ぐに耐えられなくなってしまったのでした。



「(……やっぱダメだ。暇だ)」


自分自身で言うのもなんだけど、本ッ当僕の飽きっぽさは昔から変わらないなー。面白い事が無いとすぐ飽きが来ちゃうんだよ……。

そんな自身の性格に半ば呆れつつも、何か良い暇つぶしがないか考える。



「(暇つぶしといえば…………コレか?)」


リュックを適当に漁りつつ、適当に手に触れた物を掴み取ってみれば……リュックから出てきたのは、数学の参考書。

しかも紙とペンも一緒にポロンと出てくる、ご丁寧なオマケ付き。



「(……コレをやれと)」


どこぞの神様かは知らないけど、どうやらそうお告げなさっているようだ。

神様なんて信じない派の僕も、流石にコレには従うしかなかった。






「(まぁ、数学の勉強もそう悪くないもんな)」


いつも通りの勉強空間を組み立てつつ、独り呟く。

……あんなに酷い飽き性の僕だけど、何故か数学の勉強だけはこうやって長く続けられているんだよな。

何でだろう。謎だ。



「(……よし。準備完了)」


そんな自問自答をしているうちにも、野宿スタイルの勉強机が完成。

机代わりのリュックの上に参考書・紙・ペンのens.STUDY(勉強三点セット)を並べ、その正面に胡座。灯りは焚火で十分だ。


さあ、今宵も勉強タイムの始まりだ。




「(えーっと、確か……前回やったのは……)」


青色の表紙を捲り、目次をズラズラっと眺める。


前回はー……あ、そうそう。『命題』だったな。

真偽やら必要十分条件やら背理法やらを勉強して、ついでに超便利なウソ発見魔法【真偽判定Ⅰ】(ジャッジメント)をゲットした単元だ。


となると、今回の単元はその次。




「(『高校確率』…………)」


うーわ出た出た。確率の進化版だよ。

ただでさえ中学で習った確率も難しかったってのに、高校になるとワケ分からん記号が増えて更に難しくなるんだもんな。


……けどまぁ、そんな事を言ってても何も始まらないし。

結局はやるしかないのだ。




「(さて。それじゃあ)」


サッサと気持ちを切り替えて、今夜も勉強を頑張りますか!
















●確率(高校)



確率――――それは、ある事象の起こる可能性(確からしさ)をはかる値。

サイコロを振る時に、クジを引く時に、誰しも一度は考えた事があるだろう。


中学数学では、樹形図や表を使って組み合わせ数の求め方を学び、確率の算出方法を学んだよな。



じゃあ、高校数学Aの『確率』単元で何を学ぶのかといえば……実はそう変わらない。確率を計算して求めるだけだ。


ただ、中学と異なるのは……そのスケール。

サイコロを2個振って36通りとか、コインを3回投げて8通りとかっていうスケールじゃない。


高校数学では『243通り』が出れば甘い方。『720通り』なんてザラ。下手すりゃ『4096通り』なんてのも有る。

樹形図や表なんかじゃ処理しきれるワケが無い。


じゃあ、どうやって組み合わせ数を数えれば良いか?

それさえ数えられれば確率は求められるのに……。



『事象の数え方』――――それこそが、この単元のメインだ。




では、今回も6つのポイントで確率を勉強していこう。











Point①

『P:順に(なら)べる方法は何通り?』



では、突然ですが問題です。


===========

例1)

『5人組の男性アイドルグループ』を1組、思い浮かべてみてください。


では、この中から『リーダー』『頭脳派枠』『イケメン枠』に各1人ずつ当てはめることになりました。その選び方自体は全部で何通りあるでしょうか?

===========



一見難しそうにも見えるけど、実は中学の樹形図でも解けるレベルの問題だ。

その上、求めるのは『確率』じゃなく飽くまで『全部で何通りか』。数えるのには時間を費やせど、そう詰まりはしないんじゃないかな。




……ということで、分かったかな?

それでは正解と解説だ。



答えは全部で60通り。


上に述べた通り、5人組ならば樹形図でカンタンに分かるぞ。仮にメンバーをABCDEとして[リーダー]─[頭脳派]─[イケメン]という順で描けば次のようになるよな。



(i)リーダーがAの場合

A┬B─CDE  (3通り)

 ├C─BDE  (3通り)

 ├D─BCE  (3通り)

 └E─BCD  (3通り)



ということで、リーダーがAの時は全部で12通りだ。

同様に『(ii)リーダーがBの場合』から『(v)リーダーがEの場合』の樹も描けば、それぞれ各12通り。

12通りの樹が5本で、選び方は全部で12×5=60。

つまり60通りってワケだ。




ただし、この解き方は5人組グループだからこそ為せる業。

樹を5本描くくらいだからチャチャッと出来るけど……例えば48人組の女性アイドルグループで同じく樹形図を使うとなれば、ちょっと無理だよな。描ききる前に気が狂うよ。



そこで実は、樹形図を使わずに何通りかを求められる計算方法が存在するのだ。

ある集団の中から幾つか取り出して順番付けしたモノ……『順列』の数の求め方は、コレだ。



===========

①:メンバーの総数を書く。

②:①から1引いた数を掛ける。

③:更に1引いた数を掛ける。


以降③を繰り返し、①②③の合計が枠の数になるまで行う。

===========



今の例題で言えば、メンバー総数は5人で枠は3つ。

なので計算式は『5×4×3』になり、60通りだ。

コッチの方が簡単に求められるよな。



だから例えば、件の48人組女性アイドルグループから『センター』『左サイド』『右サイド』『エース』を選ぶ組み合わせ数だって簡単に求められる。

総数が48人で枠が4つだから、計算式は『48×47×46×45』。

あとはチャチャっと計算すれば、あっという間に『4669920通り』と答えが得られちゃうのだ!




そして、この計算式だけど……とある記号を使えば一発で呼び出せちゃうのだ。

それが、小文字とPを使ったコレだ。


₅P₃ = 5×4×3


読み方は『ご・ピー・さん』。そのまんまだ。

P前の小文字でメンバー総数を、P後の小文字で枠数を指定しているぞ。

コレを使えば、某48人組グループから4枠を選ぶ方も『₄₈P₄』ってなるな。



これをマスターすれば、順列の組み合わせの数え方もバッチリだ!











Point②

『C:そもそも選び方は何通り?』



では、今度はこんな例題だ。


===========

例2)

『5人組の男性アイドルグループ』を1組、思い浮かべてみてください。


その中から、『リーダー・頭脳派枠・イケメン枠』に当てはめるための3人を選び出すことになりました。

その選び方は全部で何通りあるでしょうか?

===========



問題文自体は例題1とほぼ同じ。変わったのは、どの枠を誰にするかは後回しにして『3人選び出す事』だけに焦点を絞った事だ。

それも踏まえて何通りになるか考えてみよう。



……それでは、答えと解説に行こう。


答えは、10通り。

例題1の60通りよりも少なくなったけど……その理由は、『同じメンバーで3枠を埋めた場合をノーカウントにした』からだ。



例えば、ABCDEのメンバーのうちABCで3枠を埋める方法は以下の通りだ。3人で3枠を(なら)べるから ₃P₃ = 3×2×1 = 6 、つまり6通りあるよな。


A┬B─C  B┬A─C  C┬A─B

 └C─B   └C─A   └B─A


だけど、コレらの場合『5人から3人を選ぶ方法』としては全部同じ。だからダブってる奴らを全部纏めて1通りとするのだ。


そして、コレは他のどの組み合わせでも同じ。

だから答えは、例題1の60通りを ₃P₃ =6で割った10通りってワケだ。



そしてこの計算方法にも、同じく呼び出し記号が存在する。

順列のPの兄弟となる、Cを使ったコイツだ。



₅C₃ = ₅P₃ / ₃P₃



読み方は『ご・シー・さん』とシンプルなんだけど、式自体はCやPや小文字が入り混じって中々複雑。


……とはいえ、よーく見るとシンプルだ。

Cと小文字が同じPを、組み合わせ数で割っているだけなんだよね。



コレもマスター出来れば、組み合わせ数の数え方も完璧だ!











Point③

『!:全員参加だと何通り?』



では、今度は某5人組グループの並び順について考えてみよう!


===========

例3)

『5人組の男性アイドルグループ』を1組、思い浮かべてみてください。


このメンバーが横一列に並ぶ時、その並び方は何通りでしょうか。

===========


この問題はPoint①でやった知識で解けるよな!

5人のうち5人全員で順列を作れば良いから、立てる式は ₅P₅ だ!  ₅P₅ = 5×4×3×2×1 = 120 、つまり120通りの並び方が有るのだ!


ところでこの全員参加型の順列って、P前後の小文字が一緒になるよな! だからこういう時には、Pとは別で特別に呼び出し記号が設定されているのだ! 


それがコイツだァッ!!!



『 5! = ₅P₅ = 5×4×3×2×1』



こういう風に数字とビックリマークを使う事で、1からその数字までの整数を全部掛ける『階乗』を表せるぞ。

全員参加型の順列には、Pじゃなく(階乗)で対処するのだ!











Point④

『重複を許すと何通り?』



それじゃあ、今度はとある冬の日。

ピンチに陥った某5人組グループを考えてみよう。



===========

例4)

『5人組の男性アイドルグループ』を1組、思い浮かべてみてください。


この中の3人がインフルエンザのため急遽欠席となり、そのスペースには代理で黒子3人を入れて横一列に並ぶことになりました。その並び方は何通りでしょうか。

===========



冬の風物詩・インフルエンザによる緊急事態だ。

「こんな状態じゃそもそもアイドル活動が成立しないだろ」というツッコミの()になるだろうけど、まぁそこは黒子さんの力を借りて強行するとします。


という事で、メンバーはCDEが抜けて黒子さん達が入った『AB●●●』の5人。

彼らは黒の頭巾で顔を隠しているから見分けがつかないぞ。


では、この状況で5人全員で横並びになるとします。

その順列の総数は、一体どうなるだろうか?

考えてみよう。




……さて、分かったかな?

それでは正解だ。


答えは、20通り。

メンバー全員が健康時の120通りに比べてだいぶ減ったよな。



この問題を解く上でのポイントは、『黒子さん達は見分けがつかない』ってトコロだ。


じゃあまず、黒子さん達の頭巾を上げて『❶❷❸』と見分けがつく状態で並んでもらおう。

先頭にA、中央にB、残り3か所に黒子さん達が並ぶとすれば……並び方は全部でこうだ。


A❶B❷❸  A❷B❶❸  A❸B❶❷

A❶B❸❷  A❷B❸❶  A❸B❷❶


ただ、これらの状態で黒子さん達が頭巾を下ろしてしまえば……全部同じ『A●B●●』になっちゃうよな。

黒子さん達同士で順番を入れ替えても一緒だから、全部で3! = 6 通りが纏めて1通りになるってワケだ。


この現象は、他の並び方でも同じ。『●●A●B』や『●A●B●』を始めどの並び方で起こる。

だからつまり、求める順列の総数は『全員健康時の順列』 5! を『黒子さんの順列』 3! で割れば良い。


5! / 3! = (5×4×3×2×1)/(3×2×1) = 20


よって、答えは20通りだ。




こういう風に、順列を作る上で見分けがつかない人々のことを数学では『重複』と呼ぶ。順列の総数を数える上でも特に気をつけなきゃいけないトコロだ。

『重複を許す』と言われた時には、ぜひ気をつけよう。











それでは、次はPoint⑤。事象の数え方の応用版だ。

Point⑥ではちょっと変わった確率も扱うぞ!

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『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
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― 新着の感想 ―
[気になる点] こういう風に数字とビックリマークを使う事で、1から数字までの整数を全部掛ける『階乗』を表せるぞ。 「5から1までの整数」じゃないですか??
2020/10/11 21:10 退会済み
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